「川の氾濫。あれはあなたのしわざかしら、メア」

瀬織の鋭い問いにメアは下唇をペロリと舐める。

「そうよ。穴があいた現世。イタズラしたくなるのは当然でしょ?」

目を細めて妖艶に微笑むメア。

静芽が鎖を引っぱり、締めつけを強くすると再び暴れだす。
その姿をみて、私の中で沸々と燃えたぎる感情が顔を出した。

「ふざけないでよ! たくさんの人が家を失ったの! イタズラなんてそんな……!」

「何を怒るの? それを止めるのが巫女でしょう?」

ズバリそうだと、言葉に詰まる。
その隙をつき、メアはほくそ笑んで首を傾けた。

「アタシは亜照奈と表裏一体。女神が良い顔だけすると思ったら大間違いよ。気まぐれな生き物。あなたたち巫女さまが信じる龍神サマも同じよ」

――龍神。
この口ぶりだとメアは巫女と龍神の関係性を知っているようだ。

私たちが今欲しい情報は、龍神に会う方法。
現世に穴が開いたというならば、入り口があるということ。
龍神と現世を繋ぐ場所があるはずだ。

「メアさん。あなたは水龍さまと会う術を知っているんですか?」

不安定なまま質問を投げると、メアは目を丸くしてニヤッと猫の顔になった。

「現世、常世、かくりよ。巫女と龍神が繋がる場所がある」

「それはどこにっ――」

「アハッ。それくらい自分で考えなさいよ!」

勝ち誇った顔をして笑うメア。
現状は鎖に縛られ、逃げられない。
とことんかき回そうとするメアに、静芽が拳を握って頭頂部に落とす。

メアは泣きっ面になり、暴力反対だなんだとわめきだした。

駄々っ子なメアに、ついに瀬織が前に出てメアの前でしゃがむと素早く両頬に平手打ちを連打した。

攻めるだけ攻められたメアはやけくそに答えだす。

「狭間があるの! 龍神と巫女が言葉をかわすための場所! だいたいは清らかな場所なんじゃない!?」