藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

父は天狗を殺した。

天狗は山神。
神格に値する存在を殺した大罪を負う。

なぜ、ずる賢い父が足元をすくう愚かな行為をしたのか。

口伝もなく、血も途絶えたことをどう感じているのか。

瀬織が弓巫女として名をはせているから、気にしていないのかもしれない。

実態は二人の母による救済。

父が刀巫女に生かされたと認めることはないだろう。

(くだらない。プライドのせいで弓巫女を崩壊させたのだとしたら愚かでしかない)

父が天狗を殺害した理由を考えると、母がカギとなるだろう。

天狗と母の間に産まれたのが静芽。

だが母が結婚したのは父・道頼だ。
母はなぜ、その決断をした?

「とにかく、あたしは当主になるわ。弓巫女を終わらせない。そのためになんとか龍神様とお会いしたいんだけど、方法がわからない……」

それも口伝が途切れたからだろうか。

部分部分で答えは出ているのに、線で結びつかない。

問題を解決するためには、龍神に繋げないと私たちがとるべき行動がわからない。

(静芽さんは、何か知っているのかな?)

静芽が持っていた剣は刀巫女のもの。
風をまとうことが出来る特別な剣だ。

おそらく継承されるべき刀巫女の武器。
弓巫女でいう“水弓”に相当するものだ。

(私は大切な人たちを守りたい。瀬織も、静芽さんも、大事な人だから)

父が妨げとなるなら私は敵となる。

母たちの決断をムダにしない。
大罪を大罪のままで終わらせないと、私は空に浮かぶ月に誓った。


――ガサッ……。草を踏む音がして、振り返る。

月明かりに照らされて白銀の髪が、バラの香りをまとって揺れていた。

気難しい顔をする静芽が一人、テラスに歩いてきてテーブルに手をつく。

「遊磨さんは?」

「問題ない。槍を持って門から出ていくのを見た」

何か理由があったのだろうが、放っておいていいのだろうか?

愛想のない言い方に、つくづく犬猿の仲だと苦笑する。
思い悩んでいると、静芽が私の向かい側に座る瀬織をじっと観察した。