藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

風が吹くと、月明かりの下にバラの花びらが舞う。

私の尽きることのないバラの花。

(お母さま。ありがとうございます)

姉として妹を守れていた。

そのことを知れて、私は生きていてよかったと思えるくらいに幸福だ。

母の言葉からはじまり、今日まで走り続けた。

これからも足が止まることはない。

私は私の意志で”妹を守りたい”と進むだけ。

あいまいだった”瀬織を守れる強いお姉ちゃん像”が、ようやく輪郭をみせてくれた。

「さっきも言ったけど、あたしは菊里に力を返す気はない」

瀬織は袖で涙を拭い、私の肩を押して椅子に腰かける。

私も瀬織が気持ちを語ろうとする姿勢を尊重し、手を離して座った。

「弓巫女の当主になるため、力を失うわけにはいかなかった。このことがお父さまに知れたら菊里がどうなるかわからなかったから」

背筋を伸ばした姿は、気を張り詰めた普通の女の子に見えた。

完ぺきなようでただの仮面だった知り、不謹慎だがますます愛おしいと思う。

にやけそうになって、瀬織のしおらしい姿を崩したくないと指で頬をもみほぐした。

気づいていない瀬織は話を続ける。

「正直、菊里が能無し巫女と思われていた方が安心できたというか……」

瀬織からすれば、自分勝手なことと考えているみたいだ。

感情を引っ込め、情報だけを淡々と伝えようとしていたが、動揺が声に現れている。

それもかわいらしい。

「私が返せって、言うことはないよ?」

「わかってるわよ、そんなこと! ……わかってるけど、怖かった。お父さまがあなたを殺すかもって思ったら言えなかった」

お互いがお互いを守ろうとしていた。

私は私で瀬織に振り向いてほしくて、愛を叫び続けた。

瀬織は冷たくあたることで、私に向かうはずだった危険から遠ざけようとした。

(お父さまのプライド、か)