「鈴里さまは同日に子を産んでいた。巫女として力の強いその子に、あたしは力を分け与えられ、生き永らえることが出来た」

(それって……)

瀬織の言葉に胸がきゅっと締めつけられる。

手が伸びてきて、私の冷えた指先に瀬織の体温が触れた。

「お母さまが鏡を大事にしていたの、覚えてる?」

「うん……。触っちゃダメだって言われてた。今はどこにあるかも知らない」

「父上が隠したのよ。あの鏡は鈴里さまの持ち物だったと聞いているわ」

私の知らないことばかり。
あまり接点のなかった瀬織の方がよっぽど母のことを知っている。

母屋に暮らしながら、離れで私と暮らす母をどう見ていたの?

一度たりとも私を憎いと思わなかったの?

「あの鏡、天狗から受け取ったらしいわ。遠い昔の忘れ物なんだって。……その天狗は自分が死ぬことをわかってたのかしら。……静芽のお父上よ」

海で亡くなった天狗。静芽の父親だ。

「どうして鈴里さまが受け取ったの?」

「詳しくはわからないけど、二人は長い付きあいだったとか」

そう考えると、天狗と鈴里は昔馴染み。

二人が繋いだ縁で天狗と母が恋仲となった。

最終的に海で殺された天狗。
その犯人は白峰家の当主、私たちの父親だ。

なぜ、殺害にいたったのか。
その答えはいくら考えても、父しか真実を持ちあわせない。

「……私、瀬織が無能なんて思えない。だって瀬織は巫女たちを引っぱるリーダー性もあって、実力だって歴代最強と言われるくらい強くて」

「だから、それはあたしの力じゃない。……全部、あなたのものよ」

胸が痛い。
認めたくない。

瀬織は私の中で愛すべき最高の巫女だ。

どんくさい私と比べるのもおこがましい。

瀬織の口から「自分は無能」と語られるのは胸がはりさけそうだ。