お屋敷にいた人たちの避難指示を終えたものの、亜照奈だけ見つからなかった。

いったん落ち着こうとテラスに向かい、バラの道を過ぎて椅子に腰かける。

瀬織は左目を隠すため、即席ではあるが包帯を巻いている。

テラス席で向き合い、腹をくくって話そうと瀬織が口を開く。

疲労の見える横顔は、建物の照明と月明かりで青白かった。

「本当の無能はあたし。力も持たず、消えゆく命だったところを二人の母に救われた」

「えっ……」

とっさの反応は理解のない気の抜けた相づちだ。

理解しようとしても、これまでの価値観が全力で否定をはじめる。

誰の手も届かないほど美しく優秀な自慢の妹。

私が能無し巫女と蔑まれればするほど、弓巫女として輝きを増した。

周りから指をさされても平気だった。

瀬織が輝いてくれるなら、私は影として力になろう。

弱くても、いつかは強くなれると信じていたから、私の絶対的存在の瀬織を追い続けた。

一番求めていた瀬織の本音があるのだから、しっかりと言葉を受け取りたい。

それなのに私はどんな顔をして瀬織と向き合えばよいかわからず、表情を曇らせていると感じていた。

「お父様が大罪を犯したことで弓巫女は呪われた。それはね、血を断つということなの」

(やっぱり弓巫女は龍神の怒りをかったんだ。でも血を断つってどういうこと?)

弓巫女の衰退とは、適性者の減少と口伝が途切れたことを指す。

それは静芽と話して少しずつかみ砕き、理解しはじめたこと。

弓巫女の大罪が、可視化された状態だ。

「本当は父上の代でとまるはずだった。筆頭家門の弓巫女は生まれるはずがなかった」

「で、でも瀬織がいるわ! 私だって……刀巫女だけど口伝が途切れてて……」

「あたしは巫女の力は持たずに産まれた。短命だと、お母さまは感じとったみたい」

瀬織は物思いに沈んだ微笑みを浮かべ、包帯で隠した左目にそっと指を滑らせた。

「それでお母さまは一つの手立てにすがり、刀巫女の鈴里さまに頼った」

瀬織が顔をあげると、藤色の瞳が私を見透かすように向けられる。

きっと今、私は情けない顔をしているだろう。

瀬織の冷静な面持ちも、きっと合わせ鏡のようにきっと私の瞳に映っている。