「瀬織、瀬織っ……! 瀬織ぃーーっ!!」

「え、あ……ちょっと」

「よかった! 私、瀬織に何かあったらと思うと!」

怖くて怖くてたまらない。

今もこの腕のなかにいるのは夢じゃないかと疑いたくなるほどで。

やさしく香る甘さと温度、母にそっくりな顔立ちに徐々に無事なんだと実感を得た。

「菊里は、ケガしていないわよね?」

瀬織の愛らしい声が戸惑いながら問いかけてくる。

心配を向けられた? と、瀬織の肩を押し、アタフタと自分の身体を観察する。

あちこち着物が破けてしまっていた。

いつでも動けるようにと袴をはいていたが、これだけ破れてしまえばただの布切れだ。

(ちょっと血が出てるかな? でもこれくらいなら平気……)

それより瀬織の方が怪我をしていると、私は忙しなく瀬織の身体に触れる。

腕や太ももに切り傷が出来ていると焦り、涙目になって瀬織の顔を両手で挟んだ。

「あ……!」

眼帯で隠していた左目があらわになっている。

先ほどは無我夢中で考えが及ばなかったが、眼帯をしていない瀬織を目の前で見るのははじめてだ。

母に、瀬織や道頼の前で眼帯を外さないようにと言い聞かされていた。

それを破ろうと思ったこともないし、瀬織も同じように外さなかったので見る機会はなく……。

本当に鏡合わせのように同じ色を持っていると実感し、同時に眼帯で隠す右目が熱くなった。

瀬織はパッと私の手を払って目を反らし、左目を覆い隠す。

「静芽は無事ね。遊磨は? 亜照奈さん……は大丈夫でしょう」

バルコニーの崩落で瓦礫の山があり、今も砂煙がたっている。

遊磨の姿は見当たらず、お屋敷は照明がついたままで亜照奈たちの無事が確認できない。

大変な事件だったというのに、瀬織はあっさりしている。

何か思うところがあるのだろうが、顔色からはうかがえない。

この場にいない遊磨が何をしているのか。

語らずとも、信頼を寄せているのは伝わってきた。