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水が落ち、波紋する。

頬に冷たさが触れ、驚き目を開く。

目を細めて岩肌の天井を眺めていると、何が起きたかを思い出し、慌てて身体を起こした。

「あ……」

額にのっていた濡れタオルが膝に落ちる。

冷たさの原因はこれだったのかと拾い、あたりを見渡した。

岩場に直接寝転がらないよう、下に男性用の着物が敷いてある。

直前まで人がいた気配。

ランタンの灯りが洞穴を照らしている。

それがなければ暗くて天井も見えなかっただろう。

(不思議な場所……。とても澄んだ空気だわ)

ランタンを片手に歩きだし、激しく水を叩きつける音に向かった。

洞穴を抜けると滝があり、その先に足場となる滝つぼ石が並んでいる。

滝つぼから抜け、開けた空を見上げると、青みを帯びた淡いグレーにまん丸の月が浮かんでいた。

まだ夜になりきってはいないが、すぐに更けるだろう。

しばらく月に見惚れ、ふと後ろに振り返る。

巨大鳥との戦いで足場を失い、落ちたのだが傷一つない。

暗くてはっきりと見えないが、相当な高さがあったはず……。

(こんなところまでどうして……。誰かが助けてくれた……んだよね?)

看病の形跡もあった。

不可解なのは崖から転落した私をどうやって助けたのか。

(普通、ムリだよね。生きているのが奇跡……)

「意識が戻ったならここから出ていけ」
「!」

前方を見ればいつのまにか人が立っていた。

ランタンの灯りで相手を確認すれば警戒の眼差しが突き刺さる。

ピリピリした空気をまとってはいたが、それさえも美しさに変えてしまう輝きがあった。

(怖い……けどキレイ)

シルクのような白銀の髪に、紅玉の瞳。

人の域を超えた精錬された顔立ちで、印象的なのは切れ長の目だ。

目尻の赤みが色っぽいとつい見惚れてしまい、彼が嫌悪むき出しにしているのを忘れてしまう。

まさに目を奪われた状態だ。

不思議な空気をまとう人だと息を吐けば、彼は舌打ちを返してくる。

機嫌を損ねてしまったと、慌てて目を反らして唇を丸めた。