家に帰って、友だちの家でお昼をごちそうになったと話したら。慌てた母さんが近くのスーパーへと買い物に走った。明日も行くならこれを持っていきなさい、と渡されたものに、オレは大きなため息をついた。

「オレ、明日これ抱えて電車乗んの? ひとりで? マジ……?」

 そんなこんなで、オレは背中にギター、それから両手で抱えるほどのデカいスイカを持って、再び明星(みよせ)家へとやってきた。

「いらっしゃ……え、もしかしてそれ家から持ってきたのか?」
「そう……」
「すげーデカいな」
「明星、ちょっと持ってみてよ」
「うん。うっわ、マジで重い……」
「だろー? うちの母親から。おばあちゃんとおじいちゃんいる?」
「うん、いるよ」

 家に上げてもらって、さっそくスイカを持って居間に顔を出す。こんにちは! と挨拶しながらスイカを見せると、

「あらあら、立派なスイカ!」

 とおばあちゃんがニコニコと喜んでくれた。

「昨日はありがとうございましたって、うちの母が」
「そんなの気にしなくていいのに。でもありがとう、みんなスイカは大好きよ。切って冷やしておくから、後で一緒に食べましょうね」
「えっ。オレも食べちゃったら、お礼じゃなくなりません?」
「そんなことないわよ。それに、毎日だってお昼食べていいんだからね。ひとり増えたところで、大して変わらないんだから」
「えー……ほんとそんな、お気づかいなくっす」

 恐縮してしまうくらい、明星のおばあちゃんもおじいちゃんも優しい。ちょっと困りながら明星を見ると、「ほらな」と小声で言いながら笑っている。この祖父祖母に、この孫あり、という感じだ。おじいちゃんとおばあちゃんを労っているのも伝わってくるし、最近は本当によく笑ってくれる。会話も格段に増えた。

 最近忘れかけていたけれど、この明星がケンカをしているなんて嘘みたいだ。あの横浜の夜以来、ケガはしていないようだけれど。このまま落ち着いてくれたらと、願わずにはいられない。


 明星の部屋に移動して、ふたりで夏休みの計画を立てることにした。オレは昨日と同じベッド前に座って、明星は椅子。この家に来るのはまだ二回目なのに、なんだかすでにこのポジションが落ち着く。

 まずは、この家にオレが通うことについての確認事項だ。

「さっきばあちゃんが言ってた通り、本当に朝から来てくれていいから」
「うーん、その分ギター弾ける時間も増えるし、正直助かるけど……」
「むしろ俺としては、帰りも昨日みたいに早くなくていいんだけどな。切り上げるの難しいタイミングだったら、泊まったっていいし」
「えっ、さすがにそれは図々しすぎん!?」
「そうか? まあ、俺は構わないって覚えといて」
「……ん、分かった」

 明星はとことん、オレに寄り添った提案をしてくれる。申し訳ないくらいだ。ここまで真剣に言ってくれるのだから、素直に甘えていいのかもしれないけれど。それに慣れすぎてしまわないように肝に銘じつつ、もしもの時はお願いすることにしようか。

「あ……でも、金曜だけは夜はちょっと難しい」
「そうなん? なんかバイトとかしてんだっけ」
「……まあな」
「おっけ。了解」

 金曜だけは、夕方まで。カレンダーのアプリを開いて、8月の全ての金曜日にチェックを入れておいた。

「じゃあ次は、メインディッシュだな」
「ふ、メインディッシュ?」
「え、変?」
「変だろ。まあいいけど」
「なあ、なんか紙ちょうだい」
「紙? これでいいか?」
「さんきゅ。これにさ、お互いの目標書いていこうぜ」
「へえ。いいな」

 明星が渡してくれたA4サイズの紙に、セットで渡してくれた黒ペンで字を書きこんでいく。

「こーのーなーつーの、おーれーたーちーの、ゆめ!」

 “この夏のオレたちの夢!!”

 見出しになるように、まずは大きく書いた。その下に“明星→”と書きこむ。

「ここ、なんて書く?」
「……小説を一本書き上げる」
「いいね」

 さっそく記入して、最後にキラキラマークも付け足す。さあ次は、とオレの名前を書こうとしたら。

「ちょっと待って」

 と言って、明星がスマホを取り出した。なにか調べているようだ。

「どした?」
「……これ」
「んー? コンテスト?」

 明星のスマホを覗いてみると、小説を募集するコンテストの概要が表示されていた。

「小説の投稿サイトなんだけどさ、十一月がしめ切りのコンテストがあって。せっかくだから、完成したらこれに応募する。そこ目指して頑張りたい」
「っ、明星すげー……」
「まだ書けてないんだし、なんもすごくねえって。でもマジで、ちゃんと実行する」
「うん、その気持ちがやっぱすげえよ。じゃあ、ここに書いとくな」

 “明星→小説を一本書き上げる”。その下に、“11月しめ切りのコンテストに応募!”とできるだけ丁寧に書いた。明星の夢だと思うと、走り書きなんてできない。

「じゃあ次は、天地(あまち)の番だな」
「うん。なあ、オレのは明星が書いて」
「ん、分かった」

 床に腰を下ろした明星に、ペンを渡す。明星の手によって、まずは“天地→”と書きこまれる。明星のメモを拾った時は、一瞬しか見ることはなかったけど。明星はずいぶんと、綺麗な字を書く。

「えーっと……オリジナル曲を作る!」
「オリジナル曲を、作る……それから?」
「それからって?」
「なんかねえの?」
「え、もしかして明星のコンテスト応募的な?」
「うん」
「ええ、ない! ないない! よな?」
「いや、俺には分かんねえけど」

 一曲を作り上げることだって、きっとかなりの苦難の道になる。その先のことなんて、ちっとも考えてなかった。でも確かに、明星がコンテストいう目標を掲げるのなら、オレもなにか目指したい。音楽のコンテストなんてあるのだろうか。調べてみればあるのかもしれないけれど、なんだかピンとこない。

「うーん、どうしよ。思いつかない。でも待って、うーん、十一月……あ」

 小説のコンテストのしめ切りである、十一月になにかヒントはないだろうか。せっかくだから、明星と肩を並べて走りたい。そう考えてみたら、ひとつ心当たりがあった。

「……あ、文化祭」
「文化祭?」
「うん。うちの高校、十一月に文化祭があってさ。体育館で希望者がダンスとか歌とか、披露できる時間がある」
「へえ、いいじゃん」
「え、でも恥ずくない? オレひとりで弾き語りすんの?」
「天地ならできるだろ」
「いやいや適当! ええ、でも、えー……」

 文化祭は、全クラスで展示や出店がある。全員がシフトを組んで動くのが基本だ。そう思えば体育館のステージは、仲のいい友人が登壇するから見に行く、という程度の人がほとんどだろう。昨年のオレはといえば、自由時間にたまたま前を通ってちょっと覗いたくらいだった。

 ああ、ダメだな。逃げ道ばかり探してしまう。無様な姿をさらさずに済むか、なんてことを考えている。それでもやっぱり、不安が大きいけれど。自らコンテストへの応募を決めた、明星のように。オレもやってみたい。

「いや、やる。オレ、変わりたい」
「変わる?」
「明星、ここに書いて。文化祭のステージに出る、って」
「……ああ、分かった」

 明星にオレの目標を書いてもらって、完成だ。コンテストも文化祭も十一月だから、この夏だけの目標ではなくなったけれど。細かいことはどうだっていい。

「あ、もう一回ペン貸して。オレンジってある?」
「ああ、あるよ」

 せっかくだからおまけにと、空いたスペースに落書きをしてみた。例の毛玉をふたつだ。

「お前、それ好きな」
「うん。な、これ壁に貼ってもらってもいい?」
「うん、貸して」

 デスクから画鋲をふたつ取り出して、明星が飾ってくれた。ベッドに背を預けて座るオレの、ド正面の壁。オレも立ち上がって、ふたりで紙の前に立つ。

 “この夏のオレたちの夢!!
  明星→小説を一本書き上げる
     11月しめ切りのコンテストに応募!
  天地→オリジナル曲を作る
     文化祭のステージに出る!”

「文字で見ると、気が引き締まる感じする」
「分かる、オレも。なあ明星、オレたち頑張ろうな」

 明星に拳を差し出すと、ニヤリと笑って明星もそこに手を当ててくれた。誓いのグータッチだ。

 オレも明星も、ビギナーだけど。想いなら強くある。うまくいかないかもしれない、それでも。できる限り、いやそれ以上に打ちこんでみたい。改めてそう思えた今日こそが、夏の始まりみたいだ。

「あとは、宿題も忘れないようにやんなきゃな」
「ちょっ……今それ言うなってぇ」
「ははっ」


 改めて、オレたちの夢への日々がスタートした。

 学校がある日と同じくらいの時間に起きて、朝ごはんを食べたらすぐに家を出る。小学校の頃から夏休みは昼前まで寝ているタイプだったから、毎朝母さんに驚かれる。オレだって驚いてるんだから、無理もない。

「明星おはよ!」
「おー、おはよ。今日も朝から元気な」
「まあな。あ、おじいちゃんおばあちゃん、おはようございます!」
「おはよう詠太(えいた)くん。今日も元気だねえ」
「はは、それ明星にもさっき言われました」

 明星の家に着いたら、すぐに明星の部屋に籠もる。オレ個人のルーティンとしては、まずはいちばん最初に覚えた例の曲を弾くところから始まる。口ずさむと明星がちょっとだけこちらを向いて、頬杖をついて聴いてくれるのが実は好きだったりする。

 そこからは、オリジナル曲の作曲へと作業は移る。でも正直、煮詰まっている。いや、煮詰まる以前の問題かも。ああでもないこうでもないと考えてばかりで、これという音に出逢えない。

「え、オレできんのかなこれ。なんっも思い浮かばないんだけど」

 まず手始めにと、色んなパターンのコード進行を覚えてみた。定番と言われている、王道進行やカノン進行などなど。でもいまいち、ピンとこないままだ。

「まだ始めたばっかだしな。焦るのは早いだろ」
「そうだけどー……明星は? 今どんな感じ?」

 明星がガンガン書き進めていたらもちろん嬉しいけれど、取り残されるのはちょっとさみしい。確かめたくなってついパソコンを覗きこもうとしたら、

「おい、やめろ」

 と明星の大きな手に顔を鷲掴みにされてしまった。扱いが雑、ひどい。

「ったく。油断も隙もねぇな」
「だーって気になんだもん」
「……俺もお前と似たような感じだよ。そんなに進んでない」
「そうなん? でも今までも書いてたんだろ?」
「そうなんだけどな……またプロットから練り直してる」
「プロットってなんだったっけ。あのメモ帳にも書いてあったよな」
「大まかにストーリーの流れを決める、設計図みたいなもんだな」
「なるほど」
「でもなんつうか……これって決定打が見つかんなくて」
「マジか」

 どうやらオレたちは、ふたり揃ってさっそく躓いているらしい。初めてなんだしそんなものだろうとは思っても、やっぱり焦る。焦るのは早いと言った明星だって、浮かない横顔をしている。

「なあ、明星。映画でも観てみない? 気分転換に」
「映画? いいな。インプットは大事だしな」
「だろ?」
「どうする? 映画館行くか?」
「それもいいな! 明星と映画館行ってみたい! でも今日のところは、配信で観ようぜ。今すぐなにかしないと、オレムズムズする」
「あー……ごめん、うち配信のサイト登録してないんだ」
「オレが入ってるから平気。明星のパソコン借りていい?」

 小説を書いていたパソコンを持って、明星がオレの隣に座った。配信サイトを開いて、オレのIDとパスワードでログインする。

「どれにしよっか。明星はどういうのが好き?」
「俺はロードムービーとか。ヒューマンドラマも好きだな。天地は?」
「オレは派手なアクションが好き。あとはアニメも結構観る」
「へえ、好きそう」

 画面をスクロールしていると、夏だからかホラーが特集されていた。それを見て、オレは思わず肩が揺れてしまった。こんなことを言うのは格好悪い気もするけれど、背に腹は代えられない。恥を忍んで、明星にお願いすることにする。

「なあ、明星」
「ん?」
「あのさ、ホラーだけは勘弁な?」
「は? もしかして苦手?」
「う……どうぞ笑ってください」
「……安心しろ。俺も好きじゃない」
「えっ、マジ!? 明星が? へえ、おばけ怖いんだ?」

 思わずニヤリとすると、ムッとした顔で明星が

「お前……お互い様だろうが」

 とくちびるを尖らせた。ごもっともだ。

「そうだけど、ちょっと意外だった! なーんだ、じゃあホラーはナシだな。安心安心」

 明星も苦手で助かった。持つべきものはホラーが苦手な友だち、だな。

 気を取り直して、今から観る映画を探す。明星もオレも観たことがないヤツにしようとか、どちらかのオススメは? とかいくつかの案が出たけど。ふたりとも好きなものにしようということになり、大ヒット作のアニメ映画を観ることにした。友情も恋愛も描かれる、青春ものだ。

「じゃあ、再生するな」
「うん」

 何度か観たことがあるのに、どんどんストーリーに惹きこまれていく。ハラハラの展開に息を飲んで、笑って、そして最後には胸に迫るものがある。エンドロールが流れて、この映画をどう評価するか問われる画面になった。

「これ、観たことあっても面白いな」
「オレも思った」

 感想を言おうにも、物語にまだ体が浸かっているみたいだ。オレも明星も、言葉が出てこない。感情が揺さぶられるって、こういうことを言うんだろう。せっかく音楽を作るなら、オレも聞いてくれる人の心に少しくらい、残るようなものにしたい。

「インプットになったなあって思うけど、じゃあどうしたらいいんだろ」
「天地のオリジナル制作は、今どんな感じ?」
「どんな感じもなにも……まだ全然。どの音もしっくりこないっつうか」
「なるほどな。歌詞は?」
「歌詞もぜーんぜん。メロディができてからって思ってるけど」
「たしかにメロディから作るほうが多いらしいけど、詞先(しせん)にしてみるのはどうだ?」
「詞先? って?」
「歌詞の詞に、(さき)って書いて詞先。歌詞を先に書いてから、メロディを当てることだな」
「え? 歌詞から? てか明星詳しいな。音楽やってたのか?」
「……いや、なんとなく聞いたことがあっただけ」
「へえ。なあ、歌詞から書いたほうがいいって思う?」

 明星の提案が興味深くて、オレはだらりとベッドに預けていた背を持ち上げた。続きを促すようにじいっと見つめると、明星も座り直す。

「歌詞の世界観が決まってたほうが、メロディって出てきそうじゃねえ?」
「世界観か……なんかつかめそうな気がしてきた。もっと言って」
「あのなあ、もっと言ってって言われても……うーん、やっぱさ、天地にとっていちばん大事な気持ちを書くのがいい気がする」
「オレにとって、いちばん大事な気持ち……」
「今の天地が感情を揺さぶられること、っつうのかな」
「…………」

 そうか。音楽を作る! と意気込んでばかりで、オレのなにを音に乗せるか、まだちゃんと考えられていなかった。どうしてそんなことに気づけなかったのだろう。コード進行に従って音を作って、とそればかりに躍起になっていた。

「なあ、明星もそうなの?」
「え?」
「明星もそんな感じで小説書いてんの? 明星にとっていちばん大事な気持ちを、物語に?」
「…………」

 オレにとっていちばん大事な気持ち、感情が動くことと言ったら、思い浮かぶのはひとつしかない。明星に出逢って生まれた、この衝動だ。さっきの映画でもたしかに感情は揺さぶられたけれど、その比じゃないくらい、オレにとって明星の存在は大きい。食い入るように見つめると、明星はどこか気まずそうにオレから目を逸らした。

「それは、まあ……強烈だったから、プロットから直したんだろうな」
「…………? よく分かんないけど、やっぱ明星もそうなんだ」
「だなあ」

 視線を上に動かして、物語を思い返していたのだろうか。その視線がオレをとらえて、「ふっ」とほほ笑んだ。

「俺、書くわ」

 そしてそう言って、パソコンを手にすぐにデスクに向かい始める。なにか新たなひらめきがあったのかもしれない。

 オレも、負けていられない。

「よし、オレもやる」

 宣言して、ギターよりもまず先にとノートとペンを取り出す。コード進行をいくつか書いていたページから数枚めくって、即席で歌詞用のページを作る。明星の言葉を忘れたくなくて、

“いちばん大事な気持ち。今のオレが感情を揺さぶられること”

 とメモをする。そしてその下に“=明星”と書いて、丸で囲った。
 
 
 歌詞を考えるだけなら自分の家でだってできることに、オレはちゃんと気づいている。現に、夜もずっとノートにペンを走らせているのだから。でもオレは、毎朝明星の家に出かける。ギターを背負って、たまに母さんからの礼のお菓子や料理などを片手に。毎日。

 八月も半ば。今はお盆の時期真っ只中で、さすがに……と遠慮するつもりだったのだけれど。別に平気、と明星に言ってもらえたのをいいことに、相変わらず明星の部屋に居着いている。

 あれ以来、三日に一度くらいのペースで映画を観るのが定番になった。二本目に観たのは明星オススメのロードムービー。感動してどうしても堪えきれずに泣いちゃったけれど、そっとティッシュをくれた明星はかっこよかった。三本目はオレのオススメで、夏に定番のアニメ映画だ。明星は初見だったらしいけれど、ずいぶんと気に入ってくれたみたいだ。感想を語り合えたのは収穫だった。

「うーん……なーんか違うんだよなあ」

 歌詞の進捗は、まあまあといったところだ。書いては消して、書いてはペンでぐちゃぐちゃに潰して。そんなことをくり返して、ノートはもう二冊目になった。大体のかたちはできてきたけれど。想いならこの胸にちゃんとあるのに、言語化ってこんなに難しかったんだと痛感している。

「なあなあ明星、今質問してもいいー?」
「おー、いいぞ」
「“書く”をさ、なんかもっとこう、オシャレな言い方にできないかな」
「かく?」
「そう、書く」

 明星がこちらを振り向いたので、ペンを持つ手を空中でくるくると回してみせる。すると伝わったようで、明星は「ああ」と頷いた。

「そうだな。ペンを走らせる、綴る、したためる……あとは、紡ぐとか?」
「なるほど……ありがとう、助かる」

 取りこぼしがないように、明星が教えてくれた言葉を全部ノートに書き留める。

 できるだけ自分で考えなきゃと思うけれど、こうして明星の語彙力に頼ることもある。小説家志望の明星先生の存在は、こんなところでも大きい。

 ただ、頼っているのはなにもオレだけじゃなかったりする。

「じゃあ、俺からも質問」
「お、また?」
「そう。天地だったらどうする? ものすごいピンチの人がいるけど、助けるには自分も傷を負う羽目になりそうな時」
「うーん、そうだな……」

 明星はよくこんな風に、オレにインタビューみたいなことをする。自分ひとりの頭で考えるより、オレという他人の思考も参考にすることで、物語の幅が広がるらしい。まさかオレが明星の役に立てるなんて思いもしなかったから、オレはこの時間が結構好きだ。

「オレで役に立つなら、助けたいよな。でもケガはしたくないから、めっちゃ慎重にはなるかも」
「なるほどな。意外と冷静な感じか」
「まあ、多分?」
「ん、ありがとう」

 音楽と小説。全く違うものを作っているのに、時間を共有できるのが仲間みたいで嬉しかった。でも今はそれだけじゃない、こんな風に互いを助けることもある。それをしみじみ噛み締める瞬間が、たくさんある。オレたちのこの関係を言葉にするなら、相棒だとかバディだとか、そういうものになるのかな。照れくさくて、そんなこと絶対言わないけれど。

「……ん? なに笑ってんだ? いいメロディでも浮かんだとか?」
「んー? はは、なんでもなーい」
「ふうん。なあ、歌詞見たい」
「あ、それは絶対ダメですー」
「はあ? なんで」
「明星には、本番で初めて聴いてほしいから」
「……マジかよ」
「うん、楽しみにしてて」