とある町に住む主人公・詠人(えいと)は高校からの帰り道、不思議な猫に出逢った。毛はラピスラズリ色で、背中には星屑を散りばめたみたいな金色の模様が入っている。見たことも聞いたこともない猫に心を鷲掴みにされた詠人は、その猫の跡をつけてみることにした。少し進んではこちらを振り返る。猫のその様子が、ついてきてほしいと言っているみたいだった。

 猫は軽快に進んでいく。詠人も無我夢中でついていく。すると、入り組んだ道の先にこじんまりとした書店が現れた。この町にこんな店があるなんて、ちっとも知らなかった。見上げていると肩に猫が飛び乗ってきて、中に入れと言わんばかりにニャアと鳴いた。おそるおそる扉を開けると、白い髪、白い髭をたくわえたおじいさんに出迎えられた。ここの店主らしいおじいさん曰く、この店は空が青く静まるブルーアワーの時間帯に、一時間だけ開くらしい。私はもう歳だから、日の出の時間だけにしたい。君には日の入りのブルーアワーの店主を任せたい、なんて懇願されてしまった。なんで僕が? と尋ねると、その猫が君を導いてきたからだよ、私もそうだったから、と。

 その日から、詠人の不思議な毎日が始まる。おじいさんと会えたのは、最初の日だけ。それ以降はなにか聞きたいことがあったら、店に置かれたノートに書きこむように言われた。翌日には返事が書いてある、という仕組みらしい。しかしこの店、一時間しか開かないし道の奥まった場所にあるので、客はこない。一時間の時給なんてたいしたことないけれど、本を読んでいればあっという間に終わるのだから、こづかい稼ぎには楽だった。

 だがある日、ついに初めての客がやってくる。ただ、客は本には目もくれずまっすぐに詠人の元へと歩いてきて、こう言った。助けてください、と――


「何回読んでも面白いなあ、これ。大賞確定じゃん」

 放課後のちょっと騒がしい教室で、オレはひとりつぶやいた。頻繁に出入り口の扉が開け閉めされるから、一月の冷たい空気が入ってきて寒い。

 この作品のいいところは、なんといっても主人公だ。まず名前がいいし、言動もかっこいいんじゃないかな。大切な人がピンチを迎えたら、自分の身を挺してでも助けちゃったりする。きっと、参考にインタビューを受けた作者の友人が素晴らしいのだろう。なーんて――どうにもニヤける顔を手で覆って隠していたら、

「なに? 詠太(えいた)なんか読んでんの? マンガ?」

 と声をかけられた。帰り支度を終えた伊藤(いとう)と、それから宮田(みやた)だ。今日はふたりでゲーセンに行くらしい。オレも誘われたけれど、今日はとびきり大事な用事があるから丁重にお断りさせてもらった。

「まあ、そんなとこ」

 本当はマンガじゃなくて、明星(みよせ)(ひびき)もとい夕星(ゆうづつ)(しょう)先生が書いた小説だけれど。オレ以外に明かすつもりはないと本人が言うから、披露できないのが残念だ。

「詠太は明星待ち?」
「そうー。響のヤツ、また女子に呼び出されてやんの」
「モテモテだな」
「なー。あの日のあのステージの主人公は、オレだったと思うんだけど。おかしくない?」
「だって明星カッコよかったしな! まだ不良だと思ってた人が多い時に、ピアノ弾くんだもん。ギャップってヤツだよ。あと普通にイケメン」
「それはそう」

 そう、実は響はイケメンだ。怖いだ不良だというイメージがなくなって、みんな気づいてしまったというわけだ。相変わらず髪は野暮ったいし、基本無愛想だけれど。それでも尚かっこいいというのはよく分かる。

「てかさ、詠太と明星、ほんっと仲良くなったよなあ。いつの間にか名前で呼んでるし」
「まあな」

 それじゃあ詠太も頑張れよ、と情けの目を向けてくる伊藤と、今日投入のクレーンゲームの景品――宮田のお気に入りのホラゲのヤツらしい――で頭がいっぱいという顔をしている宮田に手を振る。

 オレはまた、スマホで小説を開く。読むのはもう三周目なのに、ワクワクする気持ちは全く薄れない。

「詠太ごめん、遅くなった」
「あ……響。やっときた」

 物語に没頭していて、肩をポンと叩かれるまで響が戻ったことに気がつかなかった。スマホを机に置いて、両手を天井に向けて伸びをする。それからだらりと机に体を預けて、響を見上げる。

「そんでー? やっぱりまた告白だった?」
「あー……まあ、うん」
「ほんとお前ばっか……で? 結果は?」
「断った」
「出た」
「喋ったこともないのに、付き合うとか訳わかんねぇだろ。そもそも好きな人とかいないし。誰に告られても無理」
「相変わらず辛辣。でもめっちゃ誠実」
「それはどうも。ほら、帰んぞ」

 オレのバッグを手に取って、オレの腕を引いて立つように響が急かしてくる。ふざけてわざと脱力してみたら、仕方ねえなと今度はもう片手も引っ張ってくれた。笑いながら教室を出たところで、

「ていうかさ」

 と響がこちらを振り返った。

「んー?」
「詠太、彼女とか興味あった?」
「あー……」

 響はどこか勝ち気に笑っていて、どうやらオレの考えていることはお見通しらしい。腹が立っているようなポーズを取ってもいいんだけど、分かってくれている人がいるというのは、正直嬉しい。

「前はそれなりに興味あったんだけどなあ。今はいいや。ギター触る時間減るとか、考えるだけで無理ー」

 オレの毎日は、今まででいちばん充実している。ギターが恋人、というヤツだ。文化祭でステージに立って、ギターを弾きながら唄って。あれからオレは、ますます音楽に没頭している。もしも彼女ができたって、ほっぽってギターばかりになるオレに呆れてフラれるのがオチだ。やってみなくたって目に見えている。

「だよな」

 響が嬉しそうに頷く。ニヤリと笑いながら肩をぶつけたら、響がじゃれるように蹴りを入れてきた。オレたちの笑い声が、廊下に響く。

 ギターはもちろん、響とのこの時間だって一秒も減らしたくない。


 響の家について、まずは居間に顔を出す。

「おじいちゃんおばあちゃん、お邪魔しまーす」
「詠太くん、おかえり。昨日ぶりだね」
「ただいまっす! また明日も来ちゃうかも」
「ふふ、いつでもおいで」

 先に二階へ上がった響を追いかける。響はなんてことのない顔でコートを脱いでいるけれど、今日は響にとってとびきり大切な日だ。今日はそのために、この家にやってきた。

「何時だっけ」
「もう出てる」
「もう出てんの!? え、見た?」
「見てない。一緒に見るって約束したろ」
「……ん、だな」

 十一月、文化祭の日に応募した小説のコンテスト。一次選考を突破した作品が、投稿サイトで発表される。ここに名前がなかったら、落選ということだ。

「えーっと、どうする? 帰ってきたばっかだし、ちょっと休憩する?」
「いや、見る」
「そっか。じゃあ、座ろっか」
「うん」

 響の袖をつまんで、一緒に床に腰を下ろす。響のスマホをふたりで覗きこむ。

「うう、緊張する……響は平気なん?」
「詠太が俺の分まで緊張してるから、思ってたより平気」
「マジか」

 “小説コンテスト、一次選考結果発表”。祈るような気持ちでその文字を見つめていると、

「詠太が押して」

 と響が言い出した。

「オレ!? 平気じゃなかったのかよ」
「今緊張返ってきた……なあ、応募の時も詠太に押してもらったし。頼む」
「まあなー。じゃあ、押すぞ?」
「うん」

 スマホに指をかざして、ごくりと唾を飲みこむ。やばい、めっちゃ緊張する。でも、いつまでもこうしているわけにもいかない。

「本当に押すぞ?」
「うん」

 意を決して、画面に指を近づける。指が触れる瞬間、オレは目をぎゅっとつむってしまった。おそるおそる目を開けると、通過した作品と作者名がいくつか並んでいるようだった。

「スクロールは響がする?」
「……うん」

 作者の名前を五十音順に並べたというわけではなさそうだ。つまり、最後のひとつまで希望は捨てないでいいということだ。一行見えては指を止めて、また一行。そうやってゆっくりとスクロールしていった結果――響の、夕星唱の“ブルーアワーに会いに来て”は載っていなかった。

「は……? っ、マジ!? なんで、あんなにおもしろいのに……」

 なんせ、普段滅多に本を読まないオレが、もう何度も読んでいるくらいおもしろい。響が書いたっていう贔屓目をなしにしたって、絶対にそうなはずだ。それなのに――

 どうしたらいいのか分からないくらい、ショックだ。胸の奥に、重たいものが沈んでしまったみたいな感覚。オレでこんななのに、響は一体どんな想いだろう。隣の響の表情を、ゆっくりと窺う。すると、響はちょっと意外な顔をしていた。

「響?」
「俺、すげー燃えてきた」
「燃えてきた?」
「俺、一次は通過できるって自信があったんだな。今分かった。なんで落ちたのか、本気で意味わかんないって思ってる。すげー悔しい」
「お、おう」

 今まで、響の色んな表情を見てきたつもりだ。笑った顔や照れくさそうな顔、悲しい顔や怒ったところも。でも、この顔は初めて見た。メラメラしている。闘志がみなぎった瞳っていうのは、今の響みたいな目をいうのだと思う。

「小説書いてみようって思い立って、だったらせっかくだから応募してみようって思ったけどさ。小説家になりたいとか、そこまで考えてたわけじゃなかった。でも、俺、やってみたい」
「っ、うん! すげーいいと思う! オレ、めっちゃ応援する!」
「ん、さんきゅ」

 渾身の一作が落選してしまったのに。その悔しさを瞬時にやる気に変えるなんて、やっぱり響はすごいヤツだ。誇らしくて、オレも頑張らなきゃって力が湧いてくる。

 でも、さすがに今日オレがやる予定だったことは、また別日にしようと思う。響なしではできないことだけれど、今日は響の心に寄り添っていたいから。そう思ったのに。

「よし、じゃあ次は詠太の番だな」
「え?」
「撮影、するんだろ?」
「あー、うん。その予定だったけどさ、また今度にしようかなって」
「なんで? もしかして、俺のためか?」
「まあ……ただほら、別に急ぐことでもないし」

 自分のせいで、と気負ってほしくなくて、そんな風に言ってみたけれど。響はムッとした顔で、オレの目を覗きこんできた。

「俺のためって言うんなら、むしろ今日じゃないと嫌なんだけど」
「え?」
「今回の落選は、俺にとっては再スタートだから。詠太の新しい挑戦を止める理由にはならねえよ」
「響……そんな頑固だったっけ」
「そうみたいだな。てか、ギターの時間減るの嫌なんだろ。我慢すんなよ」
「っ、そうだけど、響のためなら別なんだよ! でも、やっぱやる!」
「よし。ほら」

 ニヤリと笑って立ち上がった響が、オレの手を握って引っ張り上げる。そしていつものようにグータッチをして、オレはさっそくギターの準備をはじめた。


 必要な道具を持って響と一階に下りると、おじいちゃんとおばあちゃんはどこかへ出かけたようだった。

「散歩だろうな」
「たまに行ってるもんな」

 居間の奥、ピアノがある部屋に入る。持ってきたのはギターとスマホ、それからスマホを固定する三脚だ。カメラを動画モードにして、画角を調整していく。

 文化祭が終わってから、オレはまた新しい曲を作りはじめた。やっぱり簡単にはいかなくて、最近ようやく二曲目ができあがったところだ。音楽を続けていく、それはオレの中での決定事項。でももうワンステップ、なにかをやってみたいと考えていた。そこで思いついたのが、動画投稿だった。もっとたくさんの人に聴いてもらうきっかけに、きっとなる。上手くいくとは限らないけれど、やってみなきゃなにも始まらない。そのための撮影を、今日やろうということになっていた。演るのはもちろん、“blue”。この曲に、響のピアノは必要不可欠だ。

「詠太、こっちはいつでもいいぞ」
「もうちょっと待ってー」

 顔出しをするつもりは現時点ではないから、映りこまないように念入りにチェックする。でも、響とオレの手元、演奏をしているところは入れたい。

「よし、こんな感じかな。響、やろ!」

 録画ボタンを押して、響のそばに立つ。画面の右側にピアノと響、左にオレという配置だ。

「やっば、ワクワクしてきた!」
「本当に好きだよな、ギターと歌」
「へへ、まあな。じゃあ、いくぞ」
「おう」

 ギターのボディを指先で二回たたき、ギターを弾き始める。4小節分演奏したら、ピアノの伴奏が入ってくる。文化祭の時に伊藤が撮っておいてくれた動画をもう何度も見返しているし、おじいちゃんとおばあちゃんを観客にこの部屋でも響とセッションしてきたけれど。何度目だって、胸が躍る。切ない感情を唄いあげるのに、楽しくて仕方がない。でも不思議と、文化祭の時とはまた違う、柔らかな想いが声に乗っている気がする。多分、響の“ブルーアワーに会いに来て”を読んだオレだからじゃないかな。優しい世界がオレの中にも息づいて、歌は生きているんだと思わせてくれる。

 時折響と目を合わせながら、フルサイズで演奏しきった。さっそく響と一緒に、動画をチェックする。

「いい感じじゃん」
「響もそう思う? オレもー。じゃあさっそく、投稿すっか」

 動画投稿サイトのアカウントは、昨日の内に取得しておいた。初めてで慣れない作業だけれど、響とああでもないこうでもないと試行錯誤しながら画面を進んでいく。

「ユニット名はなんですかーとかコメントきたらどうする?」
「ユニット名? 詠太のソロ名義だろ?」
「そうだけどー。ピアノのお兄さんもかっこよさそう! とか言って、聞かれるかもじゃん」
「そんなことはないだろ。でも……んー、なんだろうな」
「なんか考えてよ、夕星先生」
「……けだまーずとか?」
「は……? けだまーず? え、夕星先生それはセンスなさすぎです!」
「お前……じゃあ詠太も考えろよ」
「うーん…………いや、やっぱけだまーずだな。インパクト強すぎてそれ以外思いつかない。響のせいだからな」

 響と一緒に過ごした日々。響とだから歩ける、夢への道。それらが胸にまばゆくて、誇らしくて、なによりも大切だけれど。こうしてバカなことを言い合える時間も、他にはないくらいにはしゃいでしまう。

「……よし。投稿確認画面まできた!」
「やったな」
「はい、最後は響がタップしてよ」
「俺が?」
「うん。オレの夢、響が進めて」
「ん、分かった」

 響の小説をコンテストに応募する時、最後にオレに託してくれたのが嬉しかったから。これは絶対響にお願いしようって、動画を投稿するって思いついた時から決めていた。響が画面をタップして、画面が切り替わる。投稿が完了しました、の文字が表示される。今日がまた、オレにとって一歩になった証だ。

「すげー! できたー!」

 達成感に、オレはごろんとその場に寝転がる。

「いっぱい観てもらえるといいな」
「うん。なあ、響もこっちきて」

 響のシャツをツンと引っ張って促すと、響も隣に寝転がってくれた。一緒に天井を見上げて、ぐっと伸びをする。

「オレたちさ、夏に夢掲げたじゃん? 紙に書いて」
「うん」
「それは全部叶ったわけだけど、それで終わりじゃないんだよな。夢って続いてくんだ」
「そうだな。結果はどうなるか分かんないけど、俺、頑張れると思う」
「うん、オレも。響がいるし」
「ふは、俺かよ」
「そうだよ! ええ、響は違うの?」
「……ん、俺もだよ。詠太がいるから頑張れる」
「へへ、やった」

 なんだか不思議だなあと思う。こんな日々を送っているなんて、春に響が転校してきた時には思ってもみなかったのに。今じゃ誰よりも近くて、誰よりも大切な人になっている。

「なあ、オレたちの関係ってなんていうんだろうな」
「関係?」
「友だちじゃ絶対足りなくてさあ。一緒に頑張る仲間だなあと思うけど、それもあんまりしっくりこない」
「んー……親友、とか?」
「親友なあ、なんか違うんだよなあ」
「お前……俺今言うの結構勇気いったのに」
「マジ? ごめんごめん! 親友じゃないって意味じゃなくて、親友もなんか足りないんだよ。親友以上」
「あ、そっち」
「そう、そっち。安心した?」
「うっせ」
「はは」

 腹筋に力をこめて起き上がる。すると響も起き上がって、ふたりしてあぐらをかいて向かい合う。

「一緒になんかやってる、って意味なら、相棒とか?」

 ちいさく首を傾げながら、響がまた新しい関係の名前を口にした。

「あ、なるほど。バディみたいな?」
「そうだな」
「かっけー! いい感じ! あー、でもなんつうの、オレにとっての響ってさー。オレじゃないけど、オレっていうか。一心同体とはまた全然違ってさあ……」
「それは正直、ちょっと分かる。別々の人間なんだけど……んー……」

 お互いにうんうんと頭を悩ませる。先に顔を上げたのは、オレだった。

「あ、半分だ」
「半分?」
「うん。うまく言えないけど、半分って感じする。響はオレの、半分」
「……やべえ、しっくりきた」
「だろ?」

 オレたちは当たり前に、別々の人間だ。それぞれの生活があるし、やりたいことも好きなものだって違う。でも、ひとりでいるより響といたほうが、オレは100パーセント以上の力を出せる。響のことになると、下手したら響以上に嬉しかったり悲しかったりもするし。それは響だってそうなんだ、って、オレは正直自信がある。

 だから、響はオレの半分。オレは、響の半分だ。

「オレ天才じゃん」
「関係性が半分ってのは、ちょっと言葉的に意味分かんないけどな」
「う、そうだけどー!」
「まあ、俺たちが分かってんだからいいか」
「そう、そういうこと!」

 なんだかテンションが上がってきた。このパワーは創作に活かさなきゃもったいない。立ち上がったオレは、響の手を取って急かす。

「な、上行こ! ギター弾きたいし、歌詞書きたい!」
「だな。俺さ、実は二作目に取りかかってて。でも新しいアイディア浮かんだから、まとめておきたい」

 ピアノの蓋を響が閉じて、オレはギターと三脚を持つ。一緒に階段へと向かいながら、お互いの次回作への興味は止まらない。

「なあ、次はどんなストーリーになりそう?」
「内緒」
「ええ、またー?」
「詠太はどんな感じになりそうなんだよ。三曲目」
「内緒でーす」
「ふ、人のこと言えねえじゃん」
「それな」

 オレたちはきっと、これから先もこんな風にやっていくんだろう。お互いをそばに感じながらそれぞれの夢を追って、なにかあった時は全力で支え合って、一緒に一喜一憂する。大人になったって、胸の真ん中に青い想いを大事に持って、響と紡いでいきたい。

 きっと響も、同じように思ってくれている。お互いがそうだって分かっているし、相手に把握されていることも、分かっている。うん、やっぱりオレたち、半分だ。

「なあなあ響、ひとつ提案があんだけど」
「提案?」
「小説家の夢と一緒に、ピアニストも目指してみない?」
「いや無理だろ」
「えー即答! いや違くてさ、オレ専属の! だってオレ、ピアノは響の音がいいもん!」
「お前なあ……」
「えー、ダメかー。でもさー、いざとなったら響が言いそうじゃね? 詠太の曲のピアノは俺が弾く、って」
「え、今もしかして俺のモノマネした?」
「あ、バレた?」
「お前……でもまあ、そうかもな」
「お? なあなあ、今のちょーっと声小さくて聞こえなかったわ。だからもう一回言って! ちゃんと響の言葉で!」
「バーカ、聞こえてんじゃねえか」