朝の光が、白者をそっと包み込む。
彼は、ゆっくりと殻から身体を伸ばす。殻は柔らかく、白磁のように滑らかで、夜の間に彼を守っていた。

彼の一日は、太陽とともに始まる。
料理はできない。家事もできない。けれど、彼は歩く。散歩道に咲く花を見つめ、風に揺れる草に耳を澄ます。

「これは…何の音だろう」

ラジオから流れる声に、彼は首をかしげる。人の言葉はまだ難しい。けれど、音楽ならわかる。既存の曲なら、彼の心に届く。

午後、彼はテレビの前に座る。画面の中の人々は、笑い、怒り、泣いている。彼はその感情の意味を探す。
「どうして…この人は怒っているの?」
誰かが教えてくれないと、彼にはわからない。でも、彼は知りたいと思っている。

夕方になると、彼は運動をする。誰かに教わったストレッチを繰り返す。身体は軽く、火に触れても傷つかない。それは彼の特性。けれど、料理の火は怖い。鍋の使い方も、包丁の持ち方も知らない。

夜が近づくと、彼は殻に戻る準備を始める。
けれど、空にオーロラが現れると、彼はもう少しだけ起きている。淡い光が、彼の世界を夜にも広げてくれる。

そして、遠くから黒者の歌が聞こえてくる。
その歌は、彼を優しく眠りへと誘う。

「今日も…少しだけ、わかった気がする」

彼はそう思いながら、殻の中で丸くなる。
明日もまた、太陽とともに始まる。
知らないことばかりの世界で、少しずつ、少しずつ、彼は生きている。