「鳥居、大丈夫か? 大丈夫そうなら手を離すからな?」
自転車の後部を掴みながらオレは鳥居に話しかける。
鳥居は「別にいつでもいい」と言っていた。
そう言って余裕ぶっこいてると、転んでヤケドするぜ? と
オレは心の中でナイスガイ風に呟く。
まあ、大丈夫そうなので手を離したが。その途端、
だるま落としみたいに、鳥居が横転した。
「鳥居ーーーーーーーーーーーーーー!!!???」
駆け寄ると、鳥居はムクリと起き上がって「……平気だ」と
言っていたが、いやいやいやいや! オマエ、めっちゃ
綺麗に転んだぞ!?
ていうか手とか擦り剥いてるじゃん!
だが鳥居は自転車を起こして立ち上がった。
そして自転車にまたがり、足を離した。
次の瞬間、再び真横に転んだ。
「鳥居いぃいいいいいい!!!!!!!!!!!」
再度駆け寄ると、鳥居は「……痛い」と呟いていた。
そりゃ痛いだろ! 骨とか折れないだけでも奇跡的だけど、
オマエ、地面と水平な状態で倒れてたぞ!? 傷だらけに
なってるじゃないか!
だが通りすがりの主婦は「あら……」て頬を染めながら
傷だらけの鳥居を見て萌えてた。ケガしててもモテるとか
イケメンは何をしても得だな!!!!
まあ、それはさて置き、器用貧乏なレベルで何でも出来る
鳥居も、自転車だけは苦手なようだ。
そう思うと、何故だかオレは無性に鳥居を応援したくなった。
鳥居の背中を叩きつつさすりつつ、励ます。
「鳥居! オレが後ろを支えててやるから、オマエは
思いっきりこげ! 勢いさえつけば、チャリは
所詮人類の道具だ! どうとでもなる!」
「わかった」
頷いて鳥居が自転車に乗る!
こぎだす!!
転ぶ!!!
オレも巻き添えで横転する!!!!
雑草の上をゴロゴロ転がる成人男性二人の図である。
丸太が転がるように、オレと鳥居は空き地を転がっていた。
ようやく止まった時、鳥居が起き上がる。
「樺! 大丈夫か!?」
鳥居が珍しく慌てていたが、オレよりもオマエのが
大丈夫かと問い詰めたい。セカンドインパクトどころか、
サードインパクト状態で3回も転んでんだぞ!?
なのに鳥居はオレの心配ばかりしていた。オマエは何処の
ヒロインかと問い詰めたくなるくらい健気だ。
「オレは平気だ……。でも鳥居……」
「どうした!?」
「オマエ……でけぇよ……ガクリ」
「樺ーーーーーーー!!!」
鳥居が嘆いていた。
うん……自転車の後部を支えていたんだけどな……鳥居、
図体がデカいじゃん? 支えきれなくってね? それでね、
オレも巻き込まれて転んだの……。
ていうか、190cmくらいあるヤツを平均身長のオレが
支えるとか、物理への挑戦だったよ……。
公園とかで、子供が自転車の練習をしてるのを見た事あるけど、
ああいうのって大概お父さんとかが支えてるもんな。
お父さんと子供の身長差を考えたら分かる結論だったよ。
オレが鳥居を支えようと思ったら、2m以上の身長が
無いとダメかもしんない。オレは男盛りの21歳だけど
育ち盛りじゃないから……。
「と、いうわけで」
コーシの店で買ってきた補助輪を鳥居に差し出す。
「補助輪つけて乗れよ」
「嫌だ」
珍しく反抗された。
おお……鳥居にも人並みに羞恥心が……! 確かに、
20代の男が補助輪つきで疾走は恥ずかしいよな! と、
我が子の成長を喜ぶ親父の心境で居たオレだったが、鳥居は
「浩志からの情けは受けない」と、言い出した。
ただ単にコーシがキライなだけかよ!!!!
「ワガママ言うんじゃありません! 補助輪に罪は
無いから! 早く装備して乗るの!」
口調がお母さんになったが、鳥居は首をブンブン振っていた。
「嫌だ」
「乗りなさい!」
「嫌だ」
こうなったら鳥居はテコでも動かない。意外に頑固なのだ。
鳥居は補助輪を遠ざけつつ、呟いた。
「あいつの所為で車輪が怖くて仕方ない」
「オマエ、よっぽど追突されたのが怖かったんだな?」
呆れていると、鳥居は付け足した。
「……背後からカ行の笑い声を出して追突してきた」
「こ、怖ぇ!!!!」
それはトラウマになる!!
カ行って『カカカ』とか『キキキキ』とかだよな!?
いたいけな小学生が出す笑い声とは思えねーよ!!!
それは怖い。怖すぎる。
だが、オレは発想の逆転をしてみた。
「それなら、今度はオマエがコーシを轢けばいいんじゃね?」
「!」
鳥居は『あ』というカオをしていた。
やられたらやられっぱなし というのが鳥居らしい。
オレは鳥居の闘争本能に着火するように言葉を続けた。
「オマエがハ行の笑い声を上げながら、コーシを背後から
ドーンてしたなら、リベンジ完了だろ?」
「それだ」
「だろ? トラウマ克服の為にトラウマの元を」
「ころす、と」
「待て待て待て待てええええええええええええ!!!!!」
オレは慌てて鳥居の腕を掴んで止めた。
目がマジだったからだ。
「コロスって何だ!? コロスって!?」
「息の根を止める、と」
「止めるなーーーーーーー!!! オマエどんだけコーシの事が
キライなんだよ!? もはや憎しみの域に到達してるぞ!?」
鳥居が言うには、小学校の頃から隙あらばケツを触って
きた為、大嫌いらしい。
それ、狙われてたんじゃないかな……と思っていても、
オレは鳥居の精神衛生を案じて黙っていた。
ちなみに、今でも隙を見せれば触られるらしい。
野郎のケツなんか触って何が楽しいのか理解出来ない。
あ、べ、別にですね、その、女の子のを触ったら楽しいとか
言いたいわけではないのですよ?
そんなこんなで、鳥居は『コーシに復讐する』為と
考え直したらしく、そうするとメキメキと自転車の腕前を上げた。
一時間後には自転車で土管→塀を片輪で
乗り回せるようになってたし。
なんで名人級にまでなってんだよ。これだから天才は。
そして『今から浩志を轢きに行く』と言い出す鳥居を
押し止める為、オレは『それよりも商店街の肉屋でコロッケ
買って帰ろうぜ』と、鳥居の殺意の波動を軌道修正しておいた。
自転車特訓に明け暮れた為、空は夕暮れで赤色になっていた。
そこらへんの家から夕食の準備らしき匂いが漂っている。
近所の家の犬がワンワン泣いていた。ハラが減ってるのかなー?
帰ってから、すき焼きの準備するか。ネギと白菜と糸こんにゃくを
たっぷり入れて、鳥居に食わせてやろう。
こいつ、自転車の練習をめちゃくちゃ頑張ってたしな。
コロッケを買った帰り道、オレ達は食べながら
会話していた。
徒歩のオレに合わせる為、自転車を押して歩いている鳥居の
隣りで、オレは『あー、結構転んだなあー』と、首を回す。
商店街のケロヨン薬局で湿布も買っておけば良かった。
そうしていると、鳥居が「すまなかった」と言い出した。
「何がだよ?」
「樺に沢山迷惑をかけた」
「何言ってんだよ。オレ、結構楽しかったし」
「そうか」
「そうだよ」
揚げたてのコロッケはホクホクで、ジャガイモの味が
口いっぱいに広がった。
鳥居が呟く。
「……美味いな」
「そうだなー。鳥居、コロッケ好きなのか?」
問い返すと、鳥居が少しだけ俯き、小声で言い出した。
「……お前と食べるから、美味い」
「……!」
な、何言ってんだよ! 恥ずかしいヤツだなー! と言いつつ、
悪い気はしないのが何だかなー。
あー、今コロッケ食べたら、すき焼きが食えなくなるかな?
その時は、先に銭湯に行って、ちょっと夕飯を遅めにすればいいか。
擦り傷だらけだから、銭湯のお湯がしみるかもなーなんて
考えながら、オレは夕暮れ時の町を鳥居と共に歩くのだった。
自転車の後部を掴みながらオレは鳥居に話しかける。
鳥居は「別にいつでもいい」と言っていた。
そう言って余裕ぶっこいてると、転んでヤケドするぜ? と
オレは心の中でナイスガイ風に呟く。
まあ、大丈夫そうなので手を離したが。その途端、
だるま落としみたいに、鳥居が横転した。
「鳥居ーーーーーーーーーーーーーー!!!???」
駆け寄ると、鳥居はムクリと起き上がって「……平気だ」と
言っていたが、いやいやいやいや! オマエ、めっちゃ
綺麗に転んだぞ!?
ていうか手とか擦り剥いてるじゃん!
だが鳥居は自転車を起こして立ち上がった。
そして自転車にまたがり、足を離した。
次の瞬間、再び真横に転んだ。
「鳥居いぃいいいいいい!!!!!!!!!!!」
再度駆け寄ると、鳥居は「……痛い」と呟いていた。
そりゃ痛いだろ! 骨とか折れないだけでも奇跡的だけど、
オマエ、地面と水平な状態で倒れてたぞ!? 傷だらけに
なってるじゃないか!
だが通りすがりの主婦は「あら……」て頬を染めながら
傷だらけの鳥居を見て萌えてた。ケガしててもモテるとか
イケメンは何をしても得だな!!!!
まあ、それはさて置き、器用貧乏なレベルで何でも出来る
鳥居も、自転車だけは苦手なようだ。
そう思うと、何故だかオレは無性に鳥居を応援したくなった。
鳥居の背中を叩きつつさすりつつ、励ます。
「鳥居! オレが後ろを支えててやるから、オマエは
思いっきりこげ! 勢いさえつけば、チャリは
所詮人類の道具だ! どうとでもなる!」
「わかった」
頷いて鳥居が自転車に乗る!
こぎだす!!
転ぶ!!!
オレも巻き添えで横転する!!!!
雑草の上をゴロゴロ転がる成人男性二人の図である。
丸太が転がるように、オレと鳥居は空き地を転がっていた。
ようやく止まった時、鳥居が起き上がる。
「樺! 大丈夫か!?」
鳥居が珍しく慌てていたが、オレよりもオマエのが
大丈夫かと問い詰めたい。セカンドインパクトどころか、
サードインパクト状態で3回も転んでんだぞ!?
なのに鳥居はオレの心配ばかりしていた。オマエは何処の
ヒロインかと問い詰めたくなるくらい健気だ。
「オレは平気だ……。でも鳥居……」
「どうした!?」
「オマエ……でけぇよ……ガクリ」
「樺ーーーーーーー!!!」
鳥居が嘆いていた。
うん……自転車の後部を支えていたんだけどな……鳥居、
図体がデカいじゃん? 支えきれなくってね? それでね、
オレも巻き込まれて転んだの……。
ていうか、190cmくらいあるヤツを平均身長のオレが
支えるとか、物理への挑戦だったよ……。
公園とかで、子供が自転車の練習をしてるのを見た事あるけど、
ああいうのって大概お父さんとかが支えてるもんな。
お父さんと子供の身長差を考えたら分かる結論だったよ。
オレが鳥居を支えようと思ったら、2m以上の身長が
無いとダメかもしんない。オレは男盛りの21歳だけど
育ち盛りじゃないから……。
「と、いうわけで」
コーシの店で買ってきた補助輪を鳥居に差し出す。
「補助輪つけて乗れよ」
「嫌だ」
珍しく反抗された。
おお……鳥居にも人並みに羞恥心が……! 確かに、
20代の男が補助輪つきで疾走は恥ずかしいよな! と、
我が子の成長を喜ぶ親父の心境で居たオレだったが、鳥居は
「浩志からの情けは受けない」と、言い出した。
ただ単にコーシがキライなだけかよ!!!!
「ワガママ言うんじゃありません! 補助輪に罪は
無いから! 早く装備して乗るの!」
口調がお母さんになったが、鳥居は首をブンブン振っていた。
「嫌だ」
「乗りなさい!」
「嫌だ」
こうなったら鳥居はテコでも動かない。意外に頑固なのだ。
鳥居は補助輪を遠ざけつつ、呟いた。
「あいつの所為で車輪が怖くて仕方ない」
「オマエ、よっぽど追突されたのが怖かったんだな?」
呆れていると、鳥居は付け足した。
「……背後からカ行の笑い声を出して追突してきた」
「こ、怖ぇ!!!!」
それはトラウマになる!!
カ行って『カカカ』とか『キキキキ』とかだよな!?
いたいけな小学生が出す笑い声とは思えねーよ!!!
それは怖い。怖すぎる。
だが、オレは発想の逆転をしてみた。
「それなら、今度はオマエがコーシを轢けばいいんじゃね?」
「!」
鳥居は『あ』というカオをしていた。
やられたらやられっぱなし というのが鳥居らしい。
オレは鳥居の闘争本能に着火するように言葉を続けた。
「オマエがハ行の笑い声を上げながら、コーシを背後から
ドーンてしたなら、リベンジ完了だろ?」
「それだ」
「だろ? トラウマ克服の為にトラウマの元を」
「ころす、と」
「待て待て待て待てええええええええええええ!!!!!」
オレは慌てて鳥居の腕を掴んで止めた。
目がマジだったからだ。
「コロスって何だ!? コロスって!?」
「息の根を止める、と」
「止めるなーーーーーーー!!! オマエどんだけコーシの事が
キライなんだよ!? もはや憎しみの域に到達してるぞ!?」
鳥居が言うには、小学校の頃から隙あらばケツを触って
きた為、大嫌いらしい。
それ、狙われてたんじゃないかな……と思っていても、
オレは鳥居の精神衛生を案じて黙っていた。
ちなみに、今でも隙を見せれば触られるらしい。
野郎のケツなんか触って何が楽しいのか理解出来ない。
あ、べ、別にですね、その、女の子のを触ったら楽しいとか
言いたいわけではないのですよ?
そんなこんなで、鳥居は『コーシに復讐する』為と
考え直したらしく、そうするとメキメキと自転車の腕前を上げた。
一時間後には自転車で土管→塀を片輪で
乗り回せるようになってたし。
なんで名人級にまでなってんだよ。これだから天才は。
そして『今から浩志を轢きに行く』と言い出す鳥居を
押し止める為、オレは『それよりも商店街の肉屋でコロッケ
買って帰ろうぜ』と、鳥居の殺意の波動を軌道修正しておいた。
自転車特訓に明け暮れた為、空は夕暮れで赤色になっていた。
そこらへんの家から夕食の準備らしき匂いが漂っている。
近所の家の犬がワンワン泣いていた。ハラが減ってるのかなー?
帰ってから、すき焼きの準備するか。ネギと白菜と糸こんにゃくを
たっぷり入れて、鳥居に食わせてやろう。
こいつ、自転車の練習をめちゃくちゃ頑張ってたしな。
コロッケを買った帰り道、オレ達は食べながら
会話していた。
徒歩のオレに合わせる為、自転車を押して歩いている鳥居の
隣りで、オレは『あー、結構転んだなあー』と、首を回す。
商店街のケロヨン薬局で湿布も買っておけば良かった。
そうしていると、鳥居が「すまなかった」と言い出した。
「何がだよ?」
「樺に沢山迷惑をかけた」
「何言ってんだよ。オレ、結構楽しかったし」
「そうか」
「そうだよ」
揚げたてのコロッケはホクホクで、ジャガイモの味が
口いっぱいに広がった。
鳥居が呟く。
「……美味いな」
「そうだなー。鳥居、コロッケ好きなのか?」
問い返すと、鳥居が少しだけ俯き、小声で言い出した。
「……お前と食べるから、美味い」
「……!」
な、何言ってんだよ! 恥ずかしいヤツだなー! と言いつつ、
悪い気はしないのが何だかなー。
あー、今コロッケ食べたら、すき焼きが食えなくなるかな?
その時は、先に銭湯に行って、ちょっと夕飯を遅めにすればいいか。
擦り傷だらけだから、銭湯のお湯がしみるかもなーなんて
考えながら、オレは夕暮れ時の町を鳥居と共に歩くのだった。



