とある日の夜。
銭湯にも行ったし、歯も磨いた。
あとは布団敷いて寝るだけだ! っていう
段階で、オレは思いついた。
明日は日曜日だし、ちょっと夜更かしするか! と。
「そういうワケで、鳥居~! ゲームしようぜ!」
天気予報を見ていた鳥居の肩を掴んで揺すると、
あいつは「わかった」と、テレビ台の下から
プレステを取り出してセットし始めた。
(プレステはオレが自宅から持ってきたもの)
オレは鞄からゲームを取り出して鳥居に手渡した。
あまりにもニヤケながら渡したので、鳥居は
不思議がっていたが。
ふふふ……バイト先の先輩で、
ホラー大好きな大上(おおがみ)さんから借りたゲームだ!
『零』というホラーゲームな!
それと『SIREN』とか『かまいたちの夜2』とか!
あまりにも怖くてトイレに行けなくなるらしい。
無表情の鳥居が怖がる姿とか見てみたいなーという
ちょっとしたイタズラ心だった。
トイレに行けなくなった鳥居が『……樺、といれ……』とか
涙目で言ったら、オレの優越感はうなぎ登りになる(最低)
……それがまさか……あんな事になるなんて……。
零は、とんでもなく怖いゲームだった。
いきなり霊が通り過ぎたり現われたりと、ビックリポイントが
多過ぎなんだよ~! マジで怖かった! ヒロインの
お、おっぱいとかを見てなかったらですね、恐怖のあまり意識を
失っていたかもしれない……。
途中で「うわ!」とか「げ!」とか悲鳴をあげるオレとは
違って鳥居は淡々とプレイしていた。
ヒロインのおっぱいを見て恐怖を沈静化しているわけでは
なく、霊しか見ていないのは目線で分かった。
鳥居……オマエ、どこまでホモを極めてんだよ……。
しかもコイツはゲームした事がほとんど無い癖に、
難易度ナイトメア(最凶)の状態で次々と
フェイタルフレームをキメて敵を倒しまくっている……
何なのオマエ? 天才なの?
心の中でそうツッコんでいたが、オレは気づいた。
やべ、トイレ行きたい……と。
ちなみに時刻は深夜二時。丑三つ時だ……。
しかも、このアパートはトイレが共同で、
1階にあるのだ。鳥居の部屋は2階。
トイレ、遠い(カタコト)
しかもトイレまでの灯は裸電球だけ。やめて。
もじもじしながら、鳥居に呼びかけていた。
「鳥居~……トイレとか行きたくねえ?」
ゲームをプレイしている鳥居の背中に話しかけるも、
アイツは「別に行きたくない」と普通に答える。
空気をリーディング出来ない鳥居らしい返答だった。
オレは必死に鳥居に語りかけた。
「いいから! トイレ行こうぜ!」
「別にいい」
「何でだよ! 寝る前にトイレ行くのが常識だろ!?」
「まだ寝ない」
鳥居は画面に釘付けのまま、霊にコンボを入れている。
し ま っ た……! 飽き性のオレと真逆の鳥居は
めちゃくちゃ凝り性なんだった……!
このままじゃ霊リストをコンプリートするまで
トイレ行かないぞコイツ!
かと言って、ゲーマーを自称するオレには無理矢理ゲームを
終わらせるような非道な真似は出来ない。
小学生の頃、オレはオカンによって強制的にゲームを
リセットされたのがトラウマになっていたからだ。
(いや、宿題しないオレが悪いんだけどな)
だが、このままじゃオレは21歳にして
世界地図をシーツに描いてしまうという黒歴史を
作りかねない……。
仕方ないので、鳥居の背中を叩いた。
「いたい」
抑揚の無い声音の鳥居に「鳥居! コンビニ行こうぜ!」と
誘い続けた。
「どうして今コンビニに行くんだ」
「ガリガリ君(アイス)買ってやるからコンビニ行こうぜ!」
ついでにトイレも行こうぜ! と心の中で付け足すも、
鳥居は「別にいらない」と、ゲームに没頭している。
何……だと……?
「アイスだぞ!? オマエの大好きなアイスだぞ!?」
「歯を磨いたから、もういい」
ばっさり断られた。
ば、ばかな……! アイス大好きっ子のオマエが
『別にいらない』と言うほどに、それに夢中なのかよ……!
もう一度話しかけてみた。
「なあ、鳥居」
「なんだ」
「ゲーム面白いか?」
「ああ」
「オレとゲーム、どっちが面白い?」
「樺」
ああああ……返答が単語になってる! 夢中になってる!
オレは、どうすれば鳥居にトイレまで
エスコートしてもらえるか考えていた。
いや、普通に『怖いからトイレまでついてきてくれ』って
言えば、鳥居は来てくれるんだろうけど……。
それを言ったら負けだと思っている。
オレの男としてのなけなしのプライドが
『怖いからトイレついてきて☆』を許さなかったのだ。
バカだなあと自分でも思う。でも、そういう譲れない一線って
誰にでもあるよな!?(あれ? オレだけ?)
何とか一人でトイレトレーニングしようかと考えてみたが……。
でもこの時間帯だと、お隣の十勝さんは寝てるだろうし、
階下の細井さんも寝てるだろう。だからご近所の灯は
期待できない。ああ……廊下を裸電球の灯だけで
歩いてトイレに行く事になるのか……こ、こ、怖ぇよ!
背後に気配とかムダに感じそうだし!
ホラー映画を観たら、怖くて風呂場で頭も洗えなくなるのに、
懲りずにホラーを観てしまうオレのバカバカバカ! と
困惑していると、鳥居が立ち上がった。
ん? トイレか? と期待していると、鳥居は
天井からぶら下がっている電灯の紐を引いた。
部屋の中が真っ暗になった。
テレビの光だけが部屋の中を淡く照らす。
画面に映っていた霊のアップ画像がより鮮明になった。
怖さも溢れ出した。
な、何してんだよオマエ! 何なの!? ばかなの!?
と内心で鳥居を非難していると、アイツは「画面が暗くて
見辛かったが、これで見易くなった」と、言い出した。
そして「樺、見易いか?」と問うてきた。
ああ、オレが画面を見えやすいようにしてくれたのかー
ありがとう、マジ嬉しくねえ!!! より身近に恐怖を
演出するとか、オマエは最高のドSだよ!!(涙声)
とか考えていた時だった。
コツ コツ コツ コツ
足音が近づいてきた。
ん? こんな時間に誰か帰ってきたのか? と思ったが、
このアパートは突き当たりが十勝さんちで、
鳥居の部屋は中間だ。
十勝さんは寝てるだろうし……とか思っていたら、
この部屋の前で止まった。
え? あれ?
扉のガラス越しに人影が見えた。相手は動かない。
そして何も喋らない。
え……? 深夜の二時……ですよね?
イヤな汗が毛穴から出てきた。鳥居は足音など聞こえて
いないように、ゲームをプレイしている。
何この2人なのに1人みたいな孤独感。
そうしていると……
ガチョーン パリィィン
玄関の前から、謎の破壊音が響き渡ったのだ。
銭湯にも行ったし、歯も磨いた。
あとは布団敷いて寝るだけだ! っていう
段階で、オレは思いついた。
明日は日曜日だし、ちょっと夜更かしするか! と。
「そういうワケで、鳥居~! ゲームしようぜ!」
天気予報を見ていた鳥居の肩を掴んで揺すると、
あいつは「わかった」と、テレビ台の下から
プレステを取り出してセットし始めた。
(プレステはオレが自宅から持ってきたもの)
オレは鞄からゲームを取り出して鳥居に手渡した。
あまりにもニヤケながら渡したので、鳥居は
不思議がっていたが。
ふふふ……バイト先の先輩で、
ホラー大好きな大上(おおがみ)さんから借りたゲームだ!
『零』というホラーゲームな!
それと『SIREN』とか『かまいたちの夜2』とか!
あまりにも怖くてトイレに行けなくなるらしい。
無表情の鳥居が怖がる姿とか見てみたいなーという
ちょっとしたイタズラ心だった。
トイレに行けなくなった鳥居が『……樺、といれ……』とか
涙目で言ったら、オレの優越感はうなぎ登りになる(最低)
……それがまさか……あんな事になるなんて……。
零は、とんでもなく怖いゲームだった。
いきなり霊が通り過ぎたり現われたりと、ビックリポイントが
多過ぎなんだよ~! マジで怖かった! ヒロインの
お、おっぱいとかを見てなかったらですね、恐怖のあまり意識を
失っていたかもしれない……。
途中で「うわ!」とか「げ!」とか悲鳴をあげるオレとは
違って鳥居は淡々とプレイしていた。
ヒロインのおっぱいを見て恐怖を沈静化しているわけでは
なく、霊しか見ていないのは目線で分かった。
鳥居……オマエ、どこまでホモを極めてんだよ……。
しかもコイツはゲームした事がほとんど無い癖に、
難易度ナイトメア(最凶)の状態で次々と
フェイタルフレームをキメて敵を倒しまくっている……
何なのオマエ? 天才なの?
心の中でそうツッコんでいたが、オレは気づいた。
やべ、トイレ行きたい……と。
ちなみに時刻は深夜二時。丑三つ時だ……。
しかも、このアパートはトイレが共同で、
1階にあるのだ。鳥居の部屋は2階。
トイレ、遠い(カタコト)
しかもトイレまでの灯は裸電球だけ。やめて。
もじもじしながら、鳥居に呼びかけていた。
「鳥居~……トイレとか行きたくねえ?」
ゲームをプレイしている鳥居の背中に話しかけるも、
アイツは「別に行きたくない」と普通に答える。
空気をリーディング出来ない鳥居らしい返答だった。
オレは必死に鳥居に語りかけた。
「いいから! トイレ行こうぜ!」
「別にいい」
「何でだよ! 寝る前にトイレ行くのが常識だろ!?」
「まだ寝ない」
鳥居は画面に釘付けのまま、霊にコンボを入れている。
し ま っ た……! 飽き性のオレと真逆の鳥居は
めちゃくちゃ凝り性なんだった……!
このままじゃ霊リストをコンプリートするまで
トイレ行かないぞコイツ!
かと言って、ゲーマーを自称するオレには無理矢理ゲームを
終わらせるような非道な真似は出来ない。
小学生の頃、オレはオカンによって強制的にゲームを
リセットされたのがトラウマになっていたからだ。
(いや、宿題しないオレが悪いんだけどな)
だが、このままじゃオレは21歳にして
世界地図をシーツに描いてしまうという黒歴史を
作りかねない……。
仕方ないので、鳥居の背中を叩いた。
「いたい」
抑揚の無い声音の鳥居に「鳥居! コンビニ行こうぜ!」と
誘い続けた。
「どうして今コンビニに行くんだ」
「ガリガリ君(アイス)買ってやるからコンビニ行こうぜ!」
ついでにトイレも行こうぜ! と心の中で付け足すも、
鳥居は「別にいらない」と、ゲームに没頭している。
何……だと……?
「アイスだぞ!? オマエの大好きなアイスだぞ!?」
「歯を磨いたから、もういい」
ばっさり断られた。
ば、ばかな……! アイス大好きっ子のオマエが
『別にいらない』と言うほどに、それに夢中なのかよ……!
もう一度話しかけてみた。
「なあ、鳥居」
「なんだ」
「ゲーム面白いか?」
「ああ」
「オレとゲーム、どっちが面白い?」
「樺」
ああああ……返答が単語になってる! 夢中になってる!
オレは、どうすれば鳥居にトイレまで
エスコートしてもらえるか考えていた。
いや、普通に『怖いからトイレまでついてきてくれ』って
言えば、鳥居は来てくれるんだろうけど……。
それを言ったら負けだと思っている。
オレの男としてのなけなしのプライドが
『怖いからトイレついてきて☆』を許さなかったのだ。
バカだなあと自分でも思う。でも、そういう譲れない一線って
誰にでもあるよな!?(あれ? オレだけ?)
何とか一人でトイレトレーニングしようかと考えてみたが……。
でもこの時間帯だと、お隣の十勝さんは寝てるだろうし、
階下の細井さんも寝てるだろう。だからご近所の灯は
期待できない。ああ……廊下を裸電球の灯だけで
歩いてトイレに行く事になるのか……こ、こ、怖ぇよ!
背後に気配とかムダに感じそうだし!
ホラー映画を観たら、怖くて風呂場で頭も洗えなくなるのに、
懲りずにホラーを観てしまうオレのバカバカバカ! と
困惑していると、鳥居が立ち上がった。
ん? トイレか? と期待していると、鳥居は
天井からぶら下がっている電灯の紐を引いた。
部屋の中が真っ暗になった。
テレビの光だけが部屋の中を淡く照らす。
画面に映っていた霊のアップ画像がより鮮明になった。
怖さも溢れ出した。
な、何してんだよオマエ! 何なの!? ばかなの!?
と内心で鳥居を非難していると、アイツは「画面が暗くて
見辛かったが、これで見易くなった」と、言い出した。
そして「樺、見易いか?」と問うてきた。
ああ、オレが画面を見えやすいようにしてくれたのかー
ありがとう、マジ嬉しくねえ!!! より身近に恐怖を
演出するとか、オマエは最高のドSだよ!!(涙声)
とか考えていた時だった。
コツ コツ コツ コツ
足音が近づいてきた。
ん? こんな時間に誰か帰ってきたのか? と思ったが、
このアパートは突き当たりが十勝さんちで、
鳥居の部屋は中間だ。
十勝さんは寝てるだろうし……とか思っていたら、
この部屋の前で止まった。
え? あれ?
扉のガラス越しに人影が見えた。相手は動かない。
そして何も喋らない。
え……? 深夜の二時……ですよね?
イヤな汗が毛穴から出てきた。鳥居は足音など聞こえて
いないように、ゲームをプレイしている。
何この2人なのに1人みたいな孤独感。
そうしていると……
ガチョーン パリィィン
玄関の前から、謎の破壊音が響き渡ったのだ。



