瑠璃が目を覚ますと、そこは簡素だが清潔な部屋だった。窓から差し込む光が、埃の舞う空気を柔らかく照らしていた。

「気がついたか」

不知火の声に振り返ると、彼がベッドのそばに座っていた。オレンジ色の瞳には安堵と心配が混在している。

「ここは……?」

瑠璃の声は弱々しかったが、好奇心が戻りつつあった。

「白夜が用意した隠れ家だ」

不知火が静かに答えた。

「彼は…変わった。お前が倒れた後、白者と黒者の和平を提案してきた」

瑠璃は目を丸くした。

「白夜が? あの冷酷野郎が?」

「あぁ」

不知火は窓の外を見やった。

「彼は自分の過去と向き合った。恋人と家族を黒者に殺された憎しみに囚われていたが…俺とお前を見て、何かを思い出したらしい。憎しみだけで生きるのはもう終わりだと」

窓の外では、白い装束と黒い装束の人々が共に瓦礫を片付け、新しい建物の基礎を築いていた。白者と黒者の間にあった深い溝が、少しずつ埋まりつつある光景だった。

「戦争は…終わったの?」瑠璃が囁くように尋ねた。

「まだな……」不知火が答えた。

「だが、白夜が和平協定を進めるために動き始めた。これからは…少しずつでも変わっていく……」

瑠璃の手を握る不知火の手に、温もりが宿っていた。

「瑠璃、俺は不器用で、ろくな男じゃない。だが…」

「知ってる」瑠璃は微笑んだ。

「でも、私には関係ない。アンタを愛してるから」

二人の視線が絡み合い、唇がそっと重なった。窓の外では、白夜が一人で空を見上げていた。彼の顔には、もはや冷たい笑みはなく、静かな決意だけが宿っていた。