戦闘が収束し、廃棄物処理場の瓦礫の中に残ったのは、不知火、瑠璃、そして白夜の三人だけだった。瑠璃は白者の一撃を受けて意識を失い、不知火の腕の中で静かに息をしていた。彼女の顔は青ざめているが、かすかな呼吸がまだ希望を繋いでいた。

「なんで...…」

白夜が膝をつき、荒々しく息をつきながら呟いた。

「なんでそこまでして…その雌を守るんだ?」

不知火のオレンジ色の瞳が白夜を貫くように見つめる。

「愛しているからだ」

その答えは簡潔で、揺るぎないものだった。

白夜の顔が一瞬、歪んだ。怒りか、困惑か、あるいは別の感情か——その表情は複雑だった。彼はゆっくりと立ち上がり、声を震わせながら話し始めた。

「愛だと?」

白夜の声には嘲りと苦しみが混ざっていた。

「愛なんて…黒者には似合わない言葉だ」

不知火は眉をひそめ、黒液が彼の周囲で静かに蠢く。

「何が言いてぇんだ?」

白夜の目が遠くを見るように曇った。

「僕には大切な人がいた。家族と恋人が。最初は幸せだった。だけど…ある日突然、黒者たちが現れ、すべてを奪った。あの日の炎と血の臭いは、今でも忘れられない」

彼の声には深い憎しみが滲んでいた。

「僕の恋人は、黒者の襲撃で命を落とした。家族も…一人残らず。僕はその復讐のために戦ってきた。黒者を根絶すれば、あの痛みを、取り返せない無念を、ようやく埋められると思った」

不知火は黙って白夜の言葉を聞いていた。瑠璃を支える腕に力がこもり、黒液が一瞬だけ激しく渦を巻いた。

「けど...…」

白夜の声が途切れがちになる。

「君たちを見ていると…あの日の僕自身を思い出す。あの時、僕も彼女を守りたかった。君が瑠璃を守るように……。なのに、僕は憎しみに囚われ、愛を忘れてしまった」

白夜の目には、初めて人間らしい弱さが宿っていた。

「君たちの愛は…僕の憎しみを超えた。黒者も白者も関係なく、ただ一人の人間として、誰かを守りたいと思う気持ち…それが本当の強さなのかもしれない」

不知火は瑠璃を抱きしめながら、静かに答えた。

「白夜…お前もまだ間に合う。憎しみで終わる必要はない」

白夜は一瞬、目を閉じた。そして、ゆっくりと頷いた。

「…君の言う通りかもしれない。だが、僕はあまりにも遠くまで来てしまった」