都市の廃墟に響く爆音。崩れ落ちる建物の間を縫って、一人の男が疾走していた。

不知火——その名の通り、正体不明の炎のような男。褐色の肌に刻まれた戦傷と、オレンジ色に燃える瞳が印象的だった。彼の周囲には黒い液体が渦を巻き、まるで生きているかのように蠢いている。

「チッ…しつこい連中だ」

振り返ると、白い装束に身を包んだ追手たちが迫っていた。白者——この世界を支配する組織の戦闘員たちである。彼らの目的は、黒液を操る異能者「黒者」の殲滅。そして不知火は、最も危険視される黒者の一人だった。

黒液が螺旋を描いて敵に向かう。白者たちの純白の装束が一瞬で漆黒に染まり、彼らは苦悶の声を上げて倒れた。

「相変わらず容赦ないね。不知火」

背後から声がかかる。振り返ると、マントを羽織った華奢な少年——いや、少女が立っていた。瑠璃である。

「瑠璃…なぜここに？」

不知火の表情が僅かに和らぐ。しかし、すぐに険しさを取り戻した。

「俺に関わるな。お前まで狙われることになる」

「もう遅いよ」瑠璃は微笑んだ。「私はとっくに白者に狙われてる。アンタと一緒にいるから、じゃない。アンタを守りたいから」

背中のマントが風を孕み、瑠璃の体がふわりと宙に浮く。サイキック能力による飛行——彼女の持つ特殊な力だった。

「俺を守る？」不知火が苦笑する。「俺は一人で戦ってきた。これからもそうだ」

「でも、一人じゃ限界があるでしょう？」

瑠璃の言葉に、不知火は黙り込んだ。確かに白者の追撃は日増しに激しくなり、安らげる場所など皆無に等しかった。