「3、2、1……スタート!」

光璃の合図で、巴瑠と瑠偉がプールに飛び込んだ。水しぶきが夕日に照らされてキラキラと舞い上がる。

最初は巴瑠がリードしていた。彼の明るい性格そのままに、力強く水を切って進んでいく。しかし、25メートル地点で瑠偉が追いついてきた。

「あら、瑠偉くん、やるじゃない」珠梨が感心したように呟く。

「瑠偉は昔から、最後の追い込みが得意なのよ」光璃が微笑みながら答えた。

美瑠は心臓が高鳴るのを感じていた。どちらが勝っても、自分の中で何かが変わる。そんな予感がしていた。

残り10メートル。二人は並んで泳いでいる。観客席では珠梨が「がんばれー!」と声援を送り、光璃は静かに見守っていた。

そして——

「あっ!」

ゴール直前で、瑠偉のメガネがずれて水中に落ちてしまった。彼は慌てて立ち止まり、水の中を手探りで探し始めた。

「うわあああ!メガネが!メガネがないと何も見えない!」

巴瑠は一瞬振り返ったが、そのままゴールまで泳ぎ切った。

「巴瑠の勝ち!」光璃が結果を告げたが、巴瑠はすぐに瑠偉のところに戻ってメガネを一緒に探し始めた。

「ここにあった!」美瑠が声を上げた。彼女がプールに入って、底に沈んでいたメガネを拾い上げたのだ。

「ありがとう、美瑠ちゃん」瑠偉がメガネをかけ直すと、ほっとした表情を見せた。

その時、美瑠は決心した。勝負の結果がどうであれ、この優しい仲間たちともっと一緒にいたいと。

「あの……」美瑠が小さな声で話し始めた。「今夜の花火大会、みんなで一緒に見ない?」

「もちろん!」巴瑠が即答する。

「僕も行く」瑠偉も頷いた。

「私たちも一緒よ」光璃と珠梨も微笑んだ。

夕日が海に沈む頃、5人は学校を出て花火大会の会場へ向かった。美瑠の心の中で、ある大切な決意が固まろうとしていた。