Gペンと点描

「もしかしてこの家の方ですか?」
「ああ…」
男性は明らかに警戒している。
「初めまして、俺…いや、僕は漫画のアシスタントに来ました。竹中颯太です!」
頭を下げる。
「そういや、担当から連絡あったな。とりあえず家に上がれ」
家に入ると黒を基調とした部屋。
絵画や美術品のような置き物もある。

「オレの作業部屋だ。ここに座ってくれ」
「はい!」
指を差された場所は作業机。
作業部屋には2つの机が向かい合わせ、周りにはトーン棚に画材のストックが入ったダンボールと本棚にはコミックや漫画の描き方のHowTo本。
「これがプロ漫画家さんの現場なんですね、感動しました!」
「そうか?」
颯太が座った机は綺麗だが、向かいの机にあるペン先やペン軸は汚れている。
たくさん描いていた証拠だろう。
颯太のペン軸はまだ綺麗なので練習が足りないんだと実感させられる。

「改めて自己紹介する。オレの名前は東雲慎之介だ。黒助ってペンネームでやっている」
「宜しくお願いします!」
立ち上がり深く頭を下げる颯太。
「黒助先生と呼んでも宜しいですか?」
「外じゃなきゃ好きに呼べ」
慎之介をじっとみる。
明るい茶髪に耳にはイヤーカフー、首にはラピスラズリのおしゃれデザインのペンダント。
漫画よりスポーツしてそうなガッシリした綺麗な体格。見た目も美男子でキリッとした顔立ち。



「ふーん…お前、少女漫画描いてるんだって?」
「はい、男が描くなんて可笑しいですよね…すみません」
「別におかしくない。好きなら好きを貫け」
「ありがとうございます」
「オレ、担当編集に少女漫画特有の技術ができる男って指定しただけで技量知らないんだよね。原稿見せてくれ」
慎之介に原稿を渡す。
この間、担当編集に見せた作品だ。
ジャンルは学園ファンタジー。主人公が通う魔法学園の話。
慎之介は真剣にクスリと笑うことなく原稿をめくる。
(緊張するな〜)
「この魔法陣はオリジナルの手描きか?」
「はい」
「細かい部分とトーンの重ね貼りがいい味だしてるな」
慎之介はうんうんと頷く。
「それにしてもこの男キャラはいらないな」
「うっ!一応。主人公の相手役なんです」
慎之介が驚く。
言いたいことはわかる。
担当編集に指摘されたところだ。
「まぁいい。明日から平日は学校帰りにこい。締切前は土日働いてもらう」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
慎之介はポイッと合鍵を投げる。
鍵には可愛い黒猫のキーホルダー。
「可愛いキーホルダーですね、ネコお好きなんですか?」
「ああ、実家に黒猫がたくさんいるんだ。んじゃ、おごってやっから飯食いに行くか?」
「え!いやいやそんな俺ごときなんぞに気を使わないでください!」
申し訳ないからと全力拒否。
「優しいのは今日だけだ。明日からはアシスタントとしてこき使ってやるからありがたく受けろ」
「はい……」
ニッと悪い顔をする慎之介にありがたくごちそうになることにした。