「私には、これしか方法がありませんの。どうか、受けていただけないかしら?」

グレースの目をまっすぐに見つめてお願いする。
けれど、グレースは首を縦にはふらなかった。

「でも・・・皇子を偽るわけにはいかないのでは・・・。それこそ、この帝国の名に傷がついてしまいます」

「いえ、むしろヴァンパイアの子を産んだ方が帝国の名に傷がつきますわ。民が混乱しないためにも、これは必要なことなんですの。・・・どうか、受けて下さらないかしら?帝族が守るべきは民の安寧(あんねい)。民が穏やかに過ごせるように、できるだけふつうで、外れたことはしたくないんですのよ」

グレースは暫く考え込んでいたようだが、やがて観念したように頷いた。

「・・・分かりました。お受け致します。ですが、私は誰との子供を宿したらよろしいのでしょうか?」

首を傾げるグレースに、ミーシャは、ある人を呼んだ。

「カイルさんですわ。あなたと仲がよかったでしょう。それに、私に使える青年従者といったら、この人しかおりませんし。カイルさんには全て話しておりますの。了承してくださいましたから、あなたとの子供を、皇子として送り出しますわ。」





・・・計画は、静かに動き出した。
この頃から、歯車は噛み合わなくなっていることも知らずに。