その日は、煌びやかな晩餐会の日だった。
体調は万全でないし、ずっとベッドに伏せていたい気持ちだった。

けれど、自分は皇妃。紅月の令嬢の事実を隠してまで嫁いできた自分への責任。
それが彼女を苦しめていた。

輝くような薄い紫色のスカートに、重ねられた銀色のレース。
編み込んだ髪は結いあげ、キラキラと輝くティアラをかぶって。

（自分は、完璧な皇妃でなければいけない。何もかも隠して、全て、完璧でいなければ・・・・）

晩餐会の会場への扉の前。ミーシャは深く深呼吸をする。
とくんとくんと跳ねる心臓は、まるで何かを恐れるかのように、恐ろしい速さで脈を打っていた。

「ミーシャ、だいじょうぶ？なんだか顔色が・・・」

心配そうな顔をして、オリファーは控えめに声をかけてきた。

「いいえ、だいじょうぶよ。すぐに治るわ。緊張しているだけですわ。」
渾身の作り笑顔で誤魔化して、ミーシャは扉を開けた。