なんとか作り笑顔で誤魔化した。

「ミーシャさま・・・」

どこかすっきりとしない顔をしていたグレースだったが、部屋を出ていった。

ミーシャは多少の罪悪感を抱きつつ、机の上の日記帳を手元に手繰り寄せた。
深い紅色の、高級感あふれる表紙。
それを開けば、そこには金色のインクで、達筆な文字が記されていた。

幼き頃から日記をつけていたミーシャ。これで6冊目になる。

《2つの月の17日 ハニールレオが産まれた。きっと皇子として育てられる。苦しい、罪悪感だらけの心の中はきっと真っ黒で濁ってると思う。こんな私が母親として育てるなんてできない。ハニールレオが可哀想すぎて・・・》

《2つの月の18日 きっと私は妊娠している。聞いたことがある。紅月の令嬢の胎児は、体内で紅い感情が激しくぶつかり合うって。安全に令嬢が子供を産めることは少ないって。今更宿ってしまった命を、私はどうしたら正解だというの?》

こうしてコトバにすれば少しだけ気持ちに整理がつく。
パタンと日記帳を閉じた時、じっとりと吐き気が纏わりついてきた。

「っう・・・・」

(また、吐き気・・・)

誰にも言えない。でも、これ以上隠し通せば、ただの風邪でないことがいずれバレてしまうかもしれない。
言えなかった。

激しく咳き込んだあと、自身の手は、

・・・・鮮血に染まっていた。
喉の奥がヒリヒリと痛んで、体の中で知らないナニカが暴れ狂っているような感覚は、より増していく。