「へぇ、お世継ぎかあ」

オリファーは小さな声で一言つぶやくと、少し強張った顔をして言った。

「ミーシャが心配なのは、ヴァンパイアの身分がバレてしまわないかって言うことでしょう？」

「ええ、だってバレたら大変なことになってしまいますし」

ミーシャはヴァンパイアの力を持つ令嬢だった。
そして、その中でも、ヴァンパイアの最上級で、色濃いヴァンパイアというのが、紅月の令嬢、もしくは令息であり、
ミーシャは紅月の令嬢でありながら、正体を隠してクリアルージュ帝国の皇妃となっていた。

ヴァンパイアは古代より恐れられる存在。もし正体がバレれば、追放されることだってありうる。
それで、なぜオリファーが嫁ぐことを許してくれたかといえば、ミーシャのことが好きで、信じていたから。
だから、オリファーは色々と協力してくれた。

ヴァンパイアの特徴として、異常なほどに体温が低いということがある。
そして、紅月(こうづき)の令嬢と呼ばれるヴァンパイアが求むのは、血ではなく、ジュテームと呼ばれる紅い愛情。
愛情を注ぐ人がいれば、異常にひくい体温が正常になることはないし、ヴァンパイアの本性が出ることもない。

「でも、まだあせらなくてもいいんじゃないかな？まだ僕らは16歳だし。」

「違うの。お父様に聞いてみたのですけれど、16歳でも遅いって言われてしまったのよ？お母様は14には母になっていたっておっしゃっておりますし。」

どうしよう・・・？冷や汗が滲む。
ミーシャは闇に溶けるような黒髪を右手でかきあげて、おもいきり溜息を吐いた。

「まぁ、いつかそうなると思ってはいたけれど…」

「ヴァンパイアの血って必ず受け継いでしまうの？」

「ええ・・・・」