四月十三日。
二限の授業が終わると、ある生徒が声をかけてきた。
「物書さん、だよね」
「え?」
不意の声かけ。
振り返ってみると、見覚えのある人物だった。
金髪をかき上げ、左目にはアイシャドウをし、左手の小指には包帯を巻いた男子生徒。
確かこの人は、私が胸ぐらを掴まれた時に止めに入ってくれた人だ。
「この前はありがとうございます」
「まあ可愛い女性を助けることは、俺の専売特許なんだ」
なんだろう。
ちょっとイヤ。
「ちょちょ、なんか引いてる。いや、今のは冗談で……そうだそうだ。本題に入ろう」
「本題……ですか?」
「五日後、君は言魂詠と魔法戦を行う。そこで君が勝つために協力しようと思ってさ」
「あ、ありがとうございます……」
「ちょっと脅えてるね。ごめんね。でも何も変なことしないから。俺が君に協力したいのは、単純にああいう他人を舐めて見下すような奴に一発食らわせてやりたいからなんだ」
「なるほど」
「そこで、君が魔法戦で奴と戦ってる時、俺がこっそり君を魔法で強化させようと思ってるんだけど──」
「──だめです」
思わず彼の台詞に割り込み、言ってしまった。
「あなたが私に協力してくれることは嬉しいです。でも、私はズルはしたくないんです。それで勝っても、私は強くなれない」
「……」
「私は、強い魔法使いになりたい。強い魔法使いになって、昔私を救ってくれた魔法使いのように、人を助けたいんです」
自然と思い出していた。
私がどうしてこの学園に入ったのか。それは強い魔法使いになりたかったから。
じゃあなぜ──
理由なんて決まってる。
この世界では、善人が傷つかないなんて保証はない。悪人によって危害を加えられてしまうかもしれない。
そんな時、私は救える力が欲しい。
「だから、私は実力で彼に勝つんです。トップテンも超えられずに、私は私を誇れないから」
私は彼にお辞儀をし、食堂へ走った。
私は必ず最強の魔法使いになる。
だから──
♤♡◇♧
四月十八日。
第3闘技場にて、魔法戦が行われる。
魔法戦は、魔法を使った戦闘。とはいえ、魔法の技術だけでなく身体能力も求められる。
今回の魔法戦の結果は成績に大きく反映される。
ただならぬ緊張感が控え室には漂っていた。
先日、物書撫子に共闘を持ちかけ、断られた男──ライ・ライアーはモニターに注目していた。
「ラッキーだよな言魂の奴。だって対戦相手が最下位だぜ。勝利確定じゃねえか」
「言魂は強えんだから変わってほしいわ」
「まあ言魂が相手にならなくて良かったってのもあるよな」
「確かに。にしても相手は可哀想だな。ってか四月には消えているだろうし、関係ないか」
控え室で待機する生徒たちは、物書の敗北を確信していた。
ただ一人、ライは強く拳を握りしめる。力強い視線が向く先は、モニターに映された円形の会場、胸に手を当て決意を固める物書の姿。
「ところで最下位ってどんな魔法使うんだ?」
「そういえば知らねえ。ってか物書家なんて聞いたことないし、そんな有名な魔法家じゃないだろ。ってことは、対した魔法もないんじゃね」
「だな」
ライはとある気持ちを必死に圧し殺す。
会場では、二人の魔法使いが距離を取って向かい合っていた。
「せっかくの魔法戦。お前の手足折って、そのまま月末まで終わりにしようと思ったが、そうもいかないらしいな」
現在この闘技場の会場には、ある安全装置が作動している。
疑似空間システム。それは傷や肉体の欠損をしても、終了時には戦闘前の状態に戻されるというもの。
言魂は試合開始までのタイマーに目を向ける。開始まで残り10秒。
警戒する物書に対し、言魂はポケットに手を突っ込み、余裕の表情を浮かべていた。
「どうせ勝てるから、始まる前に良いことを教えてやる。俺の魔法は『詠唱魔法』。唱えた言葉のままに魔法を発動できる」
「言葉のままに……!」
一層警戒が強まる物書。
「どんな魔法か気になるだろ。じゃあ体験しろ」
試合開始の鐘が鳴る。
──と同時、言魂は口を開いた。
「お前が立っている地面は爆発する」
言い終えてから一秒。
物書の足場を起点に轟く爆発音が大地を揺らし、爆炎が少女を包み込んだ。
「やっぱ一撃か」
たった一文が引き起こした魔法。
辞書にも届かぬ語彙の数で、あっけない幕切れとなった第一戦。
爆炎が晴れ、直径5メートルのクレーターを見つめる。いつもの言魂であれば、自分の魔法の威力を誇らしげに笑うだろう。
だが、違った。
「はっ……!? いない!?」
クレーターの近くに物書の死体はなかった。跡形もなく消し飛ぶほどの威力じゃない。せいぜい手足が吹き飛ぶほど。
恐ろしい疑問に襲われる中、モニターには映っていた。
言魂の遥か頭上から、盾を持って降下する一人の少女を。
周囲を見渡す言魂は、まだ頭上の物書に気付いていない。視線を上に向けた頃には、わずか1ミリの距離に盾があった。
「爆h──」
「彗星!!」
等速直線運動により加速した盾の直撃。頭部を歪めるほどの威力が言魂の身体を襲う。
物書は反動で地面を激しく転がった。左腕の骨折などをしたものの、立ち上がるには十分の余力があった。
頭から血を流す言魂は、起き上がる気配がない。
会場に激震が走る中、結果発表が行われる。
「言魂の死亡を確認。勝者、物書撫子」
二限の授業が終わると、ある生徒が声をかけてきた。
「物書さん、だよね」
「え?」
不意の声かけ。
振り返ってみると、見覚えのある人物だった。
金髪をかき上げ、左目にはアイシャドウをし、左手の小指には包帯を巻いた男子生徒。
確かこの人は、私が胸ぐらを掴まれた時に止めに入ってくれた人だ。
「この前はありがとうございます」
「まあ可愛い女性を助けることは、俺の専売特許なんだ」
なんだろう。
ちょっとイヤ。
「ちょちょ、なんか引いてる。いや、今のは冗談で……そうだそうだ。本題に入ろう」
「本題……ですか?」
「五日後、君は言魂詠と魔法戦を行う。そこで君が勝つために協力しようと思ってさ」
「あ、ありがとうございます……」
「ちょっと脅えてるね。ごめんね。でも何も変なことしないから。俺が君に協力したいのは、単純にああいう他人を舐めて見下すような奴に一発食らわせてやりたいからなんだ」
「なるほど」
「そこで、君が魔法戦で奴と戦ってる時、俺がこっそり君を魔法で強化させようと思ってるんだけど──」
「──だめです」
思わず彼の台詞に割り込み、言ってしまった。
「あなたが私に協力してくれることは嬉しいです。でも、私はズルはしたくないんです。それで勝っても、私は強くなれない」
「……」
「私は、強い魔法使いになりたい。強い魔法使いになって、昔私を救ってくれた魔法使いのように、人を助けたいんです」
自然と思い出していた。
私がどうしてこの学園に入ったのか。それは強い魔法使いになりたかったから。
じゃあなぜ──
理由なんて決まってる。
この世界では、善人が傷つかないなんて保証はない。悪人によって危害を加えられてしまうかもしれない。
そんな時、私は救える力が欲しい。
「だから、私は実力で彼に勝つんです。トップテンも超えられずに、私は私を誇れないから」
私は彼にお辞儀をし、食堂へ走った。
私は必ず最強の魔法使いになる。
だから──
♤♡◇♧
四月十八日。
第3闘技場にて、魔法戦が行われる。
魔法戦は、魔法を使った戦闘。とはいえ、魔法の技術だけでなく身体能力も求められる。
今回の魔法戦の結果は成績に大きく反映される。
ただならぬ緊張感が控え室には漂っていた。
先日、物書撫子に共闘を持ちかけ、断られた男──ライ・ライアーはモニターに注目していた。
「ラッキーだよな言魂の奴。だって対戦相手が最下位だぜ。勝利確定じゃねえか」
「言魂は強えんだから変わってほしいわ」
「まあ言魂が相手にならなくて良かったってのもあるよな」
「確かに。にしても相手は可哀想だな。ってか四月には消えているだろうし、関係ないか」
控え室で待機する生徒たちは、物書の敗北を確信していた。
ただ一人、ライは強く拳を握りしめる。力強い視線が向く先は、モニターに映された円形の会場、胸に手を当て決意を固める物書の姿。
「ところで最下位ってどんな魔法使うんだ?」
「そういえば知らねえ。ってか物書家なんて聞いたことないし、そんな有名な魔法家じゃないだろ。ってことは、対した魔法もないんじゃね」
「だな」
ライはとある気持ちを必死に圧し殺す。
会場では、二人の魔法使いが距離を取って向かい合っていた。
「せっかくの魔法戦。お前の手足折って、そのまま月末まで終わりにしようと思ったが、そうもいかないらしいな」
現在この闘技場の会場には、ある安全装置が作動している。
疑似空間システム。それは傷や肉体の欠損をしても、終了時には戦闘前の状態に戻されるというもの。
言魂は試合開始までのタイマーに目を向ける。開始まで残り10秒。
警戒する物書に対し、言魂はポケットに手を突っ込み、余裕の表情を浮かべていた。
「どうせ勝てるから、始まる前に良いことを教えてやる。俺の魔法は『詠唱魔法』。唱えた言葉のままに魔法を発動できる」
「言葉のままに……!」
一層警戒が強まる物書。
「どんな魔法か気になるだろ。じゃあ体験しろ」
試合開始の鐘が鳴る。
──と同時、言魂は口を開いた。
「お前が立っている地面は爆発する」
言い終えてから一秒。
物書の足場を起点に轟く爆発音が大地を揺らし、爆炎が少女を包み込んだ。
「やっぱ一撃か」
たった一文が引き起こした魔法。
辞書にも届かぬ語彙の数で、あっけない幕切れとなった第一戦。
爆炎が晴れ、直径5メートルのクレーターを見つめる。いつもの言魂であれば、自分の魔法の威力を誇らしげに笑うだろう。
だが、違った。
「はっ……!? いない!?」
クレーターの近くに物書の死体はなかった。跡形もなく消し飛ぶほどの威力じゃない。せいぜい手足が吹き飛ぶほど。
恐ろしい疑問に襲われる中、モニターには映っていた。
言魂の遥か頭上から、盾を持って降下する一人の少女を。
周囲を見渡す言魂は、まだ頭上の物書に気付いていない。視線を上に向けた頃には、わずか1ミリの距離に盾があった。
「爆h──」
「彗星!!」
等速直線運動により加速した盾の直撃。頭部を歪めるほどの威力が言魂の身体を襲う。
物書は反動で地面を激しく転がった。左腕の骨折などをしたものの、立ち上がるには十分の余力があった。
頭から血を流す言魂は、起き上がる気配がない。
会場に激震が走る中、結果発表が行われる。
「言魂の死亡を確認。勝者、物書撫子」



