……あの子たちが帰った、放送室で。
 わたしは、親友・藤峰(ふじみね)佳織(かおり)と。
 チョコのたっぷりかかった、ミニクロワッサンをつまんでいる。

「ねぇ響子(きょうこ)? 『あとがき』にわたしたちが登場したのってさ……」
 両手に、パンを持ちながら佳織が。
「本編で出番が、少なかったからかな?」
 半分不満、半分満足げな顔で聞いてくる。
 
「……作者が、気を使ったってこと?」
「そうそう」
「……まぁ。少しは配慮したのかもね」
「そっかぁ〜」
 佳織は、わたしの返事に満足したようで。

 それから、急に思い出したように。
「そういえば! 今回の本編って短くなかった?」
 大きな声で、聞いてきた。


「……ねぇ、佳織。そっちの質問のほうが先じゃないの?」
「なんで響子? 出番、少なかったんだよ!」
 はいはい、わかったわかった。
 価値観って、人それぞれだもんね。

「確かに前の二作と比べると。本編が随分と短くなったよね」
「うんうん。ネタ切れ?」
「……佳織。さすがに作者に失礼じゃない?」

 わたしは、そうかなぁといいつつ。ちゃっかり次のパンを、くわえた親友に。

「いつか、すべてを書き終えたときにね……」
 長すぎないほうが、読み返しやすいかな?
 それが正解かどうかは、わからないけれど。
 作者のちょっとした、わがままで。
 小さな変化に挑戦してみたいと、考えたらしいと。
 そんなことを、説明した。

「ねぇ、響子さぁ。それって、読者のことちゃんと考えてんの?」
「うーん……」
 あのさ、佳織。
 わたし、作者じゃないんだけどね……。
「でも、読者さんにはとっても感謝してたよ! ……あとそれに」
「それに?」
「パン屋さんも。種類多いほうが、楽しくない?」
「確かに! そうかもね!」


「恋するだけでは、終われない」
 わたしたちの日々を描いた作品が、作者の小説欄にずらりと並ぶ。
 そんな光景が、見られたら……。


「それはそれで、きっと楽しいね!」
 佳織は、前向きな笑顔で。
 目をキラキラさせながら、わたしを見た。



「……でさ。このあとって、どうなるの?」
 続編のこと、なんだよね?
 わたしが手帳を開くと、すかさず佳織がのぞきこんできて。
 それから、急に厳かな声で。タイトルを読みあげる。


『恋するだけでは、終われない / 悲しむだけでは、終わらせない』


「なにかが、起こるのね……」
 佳織は、神妙な顔でそれだけいうと。

「チョコ多いのもらうねっ!」
 また次のクロワッサンを、パクリと食べる。
「え? それだけ?」
「だってまだ続くんでしょ? それでいいじゃん」
 そうね、佳織は。そんな感じが、よく似合う。

「あと、わたしたちの出番も増えるらしいし。いいんじゃない?」
 えっ……?
 どうしてあなたが、知ってるの?
「そりゃぁ。わたしにだって、情報網ってもんがあるのよね〜」

 ……あぁ。
 きっとここに、海原(うなはら)君がいたら。
 ものすごく警戒した顔で、わたしたちを見ていそうだ……。



「……じゃぁさ、最後にちょっと。恋バナしとこっ!」
 佳織が、ワクワクした顔でわたしを見る。
「一応、あの子たち。生徒だよ?」
「そうだよ、だから把握しとかないとね!」
 我が親友は、そういうと。
 当然のように、『あの子』について語りはじめる。

美也(みや)はまだまだ、終われないよね〜」
 確かに、あの子は。
 恋するだけでは、終われないし。
 告白したって、終われなかった。

 それに最近、実はちょっとだけ。

 ……気づいただけでは、終われない。

 そんな出来事も、あったらしい……。


陽子(ようこ)は、ふらつくね。姫妃(きき)はしつこいし……」
「ちょ、ちょっと!」
「あと、玲香(れいか)由衣(ゆい)は。どっちが走り出すか、牽制中」
 もう。本人たちが聞いたら怒るよ、それ!

「すべて事実ね、仕方がないわよ……」
 絶好調の、悪友が。
 今度は、明らかに誰かの声真似をする。
「いまのは、月子(つきこ)! やっと少し焦り出したよね、あの子!」


「もう。まったく藤峰先生は……」
「えっ、なにいまの響子?」
「か、海原君の真似した……つもりだけど……」
「似てないねぇ〜。でもなんで、彼の真似なの?」
「ちょ、ちょっと思いついただけだけっ!」
「ふ〜ん」


 ……わたしは、それ以上質問されないようにと。

 立ち上がって一気に、放送室の窓を開け放つと。
 外の風を、部屋の中に招き入れる。


「逃げたなっ!」
 佳織は、そういったものの。
 目線を奥に向けてから、すぐにわたしの隣にやってくると。

「……そろそろ、かぁ」
 そうつぶやいてから、やや離れた場所に向かって。
 小さく、やさしく。そして、いつくしむかのように。
 笑顔を添えて、手を振っていた。



 それから、わたしたちは。

 これまでと、これからも。
 同じ時間を、ともに過ごしていく『その子』と。

 あの子と、あの子たちを。
 もう一度、思い浮かべると。


「はい、響子」
「ありがと、佳織」
「……あと、これもだね」

 最後のパンを、仲良くわけて(・・・・・・)から。



 ……笑顔でそれを、口にした。





============

シリーズ・三作目となりました。
『恋するだけでは、終われない / 気づいただけでは、終われない』
これまでのご愛読、本当にありがとうございました。

ふたりの会話のとおり、本作より。
話数と総文字数を減らした体裁にしました上で。
引き続き、次回作へと進ませていただきます。

毎度のことながら別小説となり、お手間をおかけいたしますが。
よろしければ、この先も。
彼らが過ごす日々を、見守っていただければ幸いです。


つくばね なごり