いつか置き去りにしていた春の運命

「あとは……桃原!」
「あっ……きれい!」

矢坂くんに促された視線の先には、虹がかかっていた。

「この世界には、小さな奇跡がいくつもある。その奇跡にたどり着く力を、桃原は持っている。虹がかかる、この瞬間に立ち会えたように、桃原なら、みんなを救う手段を見つけることができるかもしれないな」

矢坂くんの言葉が胸に沁みる。
いつか、終わりがくる。
死神見習いとして、理不尽な現実に身を置いても、何も変わらないかもしれない。
それでも、どんな雨も永遠ではない。
激しい雨が降った後は、きれいな未来が待っている。
きっとすべて、無駄ではなかった。
つらいことも悲しいこともあったけれど、もうダメだと何度も諦めかけたけれど、無駄なことはひとつもなかった。
すべては今、この瞬間のためだったんだ。

「矢坂くん、ありがとう。こんな瞬間も、ちょっと先の約束も、わたしが『嬉しいぜんぶ』を、矢坂くんも楽しいと思ってくれたらいいな」

声を弾ませると、矢坂くんも釣られて表情を緩める。

「俺はただ、単純に桃原と一緒にいると楽しいんだ。だからずっと、桃原のこと、好きな気持ちを証明する方法を考えていた」

そこできらきらと輝く、星のような瞳が、わたしをまっすぐに覗き込む。

「俺はあと一ヶ月で、上位の死神になってみせる。もし、なれたら――」

矢坂くんはそこで一旦、言葉を区切る。
そして、真剣な眼差しで切り出した。

「一生、俺たちの横で笑ってほしい」
「うん! 矢坂くん、霧也くん!」

咄嗟にお守りのように叫んだのは、大好きな人たちの名前だった。
そのまま倒れ込むようにして、矢坂くんに抱きつく。

――小学五年生の春、いつも死が隣り合わせにあった。
終わりを待つだけの日々。
それを変えてくれたのは、矢坂くんと霧也くんがくれた奇跡だった。

――ずっと、ずっと、矢坂くんと恋がしたかった。
その視界に入りたくて、どうにかして想いを伝えたくて、好きになってほしくて。
死神見習いとして踏み出した足が、伸ばした手が様々な場所で繋がって広がって、この場所でたくさんのものをもらった。

「わたしも、矢坂くんの願いを一つでも多く叶えられる死神見習いになるから。矢坂くんたちをいっぱい幸せにするね」

一気に吐き捨てると、花が芽生えていくように、わたしの中に温かなものがゆっくりと積もっていく。
遠回りして、何度も同じところをぐるぐるして、一緒につまずいて、笑って、やっと……叶った恋。
これから何度、季節が巡っても、きっと、この恋は、この先もずっと忘れられないだろう。
あの春の季節にはいつも、あなたたちがいたから。

甘くて、ときおり痛くて……。
寄せては返す、愛しさでいっぱいのかけがえのないわたしの初恋。

どこまでも続く空の下、ふたり並んで、ゆっくりと。
その先で待つのは――長い長い昔日を遡るかのような道のり。
その最中でいつか、わたしたちは最愛の人たちの運命を変えることができるのだと固く信じて疑わなかった。

【完】