いつか置き去りにしていた春の運命

心の震えが、写真にも伝わってくる。
不思議な感じだ。
たった一枚の写真が、二人の当時の緊張と胸の高鳴りを引き起こす。
写真をくるりと裏返しにすると、岩見沢先輩のメッセージが残されていた。

『もし、死を迎えた際に空に還るなら、命が尽きる瞬間もこんなきれいな星空に包まれたい。そして、坂井くんを照らす星の一つになりたい。それは、とても幸せなことに思えるのですよ』

きっと、いつしか消えてしまう岩見沢先輩の生き様を、この世界に刻みつける、たったひとつの方法が写真だったのだろう。

もし、来世というものがあるのなら、今度こそ、岩見沢先輩が好きな人と幸せになれますように。

その奇跡に触れて、わたしはあの日、置き去りにした疑問を思い出す。

「矢坂くん、死神って何なのかな……?」
「死神の役目は生死の審査、そして残された時間を一緒に過ごし、悔いなく逝けるようにすることだ」

矢坂くんが寂しそうな口調で言った。

「死が迫っている人間を、あの世に導くこと。それが死神がすることの最適解。スバルさんのような傍観者に徹した在り方が、死神の本来の有り様なんだろうな」

物静かなその言い方は、どこかつらそうに感じた。

「でも、俺は普通の死神とは違う。死神と人間の間に生まれた存在だ」
「えっ……?」

それは矢坂くんが死神であるという告白よりも、さらに突拍子のない事実だった。

「死神カイリ、彼は俺の父さんだ。もっとも、俺が生まれてからすぐに姿を消したから、一度も会ったことはないけれどな」

今までの出来事の数々が、真実を浮き彫りにしていく。
心を大きく揺さぶり、自分の中で眠っていた何かがざわりと騒ぎ出した。

「母さんは町一番、大きな病院に看護婦として働いている。幼い頃、兄さんに連れられて、母さんがいる病院に通っていた」

様々な記憶の断片が、わたしに一つの真実を呼び起こす。
矢坂くんは、あの病院の人たちと顔なじみだった。
その理由は、幼い頃から矢坂くんがあの病院に通っていたからだろう。

「俺が、死神パティシエになったのは、父さんに会いたかったからだ」

春の風はいつも突然に吹き抜ける。
矢坂くんの声は、そんな響きを宿していた。

あの日、死ぬはずだったわたしは、今日も生きている。
その理由は、死神見習いのわたしのお父さんと死神の矢坂くんのお父さんの縁が、わたしたちを結びつけてくれたから。

人間と死神が結ばれることがある……。
それって、わたしたちも結ばれる可能性があるってことだよね……。

ずっと、矢坂くんに言えずに仕舞っていた気持ちを少しずつ解いていく。
心の片隅で期待しているのかもしれない。
さびついて止まってしまった歯車が再び、動き出すのを。

人間と死神の恋。

わたしは矢坂くんが好きって気づけただけで幸せで、満足していた。
でも、いつか、矢坂くんにも同じように思ってほしいって気持ちになるのかもしれない。
わたしは矢坂くんが好き。
他の人にはない、特別な感情を持っている。
だけど、わたしは矢坂くんにとって、どんな存在になりたいんだろう。