「俺も、桃原や旭と過ごす時間が楽しい。二人がここにいて良かった」
わたしがとろけるような笑みをこぼしていたからか、矢坂くんも表情をほころばせていた。
春の匂いがする彼の笑顔はキラキラとしていて、もう心に寂しさはなかった。
だけど、こんなに舞い上がっていると、また、ヘルスイーツ作りに失敗してしまうかもしれない。
ぐっと気を引き締めないと。
わたしがそう決心していると、矢坂くんは早速、ヘルスイーツ作りに取りかかろうとしていた。
死神パティシエの補佐をするのは、死神見習いであるわたしの役目。
やる気満々のわたしは慌てて、矢坂くんのもとに一目散に駆け寄った。
「矢坂くん、訊いてもいい? 坂井先輩を救うことができるヘルスイーツって、どんなお菓子なの?」
「オムレットだ」
「ええっ、オムレット! 坂井先輩、昏睡状態だから、食べるのは無理なんじゃ……」
思った以上に食いついてしまった。
矢坂くんは苦笑して、噛みしめるように声に出す。
「大丈夫だ。オムレットを食べてもらう必要があるのは、坂井先輩じゃない。坂井先輩を救いたいと願っている岩見沢先輩の方だ」
「あっ、そっか」
矢坂くんの返答に、わたしは納得したように手をぽんとたたく。
オムレットは、スポンジケーキなどの生地を丸く伸ばして焼き、泡立てた生クリームや果物を挟み、二つ折りにしたお菓子のことだ。
何となくだけど、岩見沢先輩は甘いものが好きそうな感じがする。
「岩見沢先輩に食べてもらう……?」
そこではたと、藤谷くんは重大なことに気づいた。
「ふと思ったんだけど、坂井先輩が目を醒ますことで、岩見沢先輩の死因が変わることはないのか?」
「岩見沢先輩の死因は確認している。彼女の死因は、坂井先輩が目覚めても変わることはない」
藤谷くんの素朴な疑問に、矢坂くんは真剣な口調で答えた。
「矢坂くん。岩見沢先輩の死因は、本当に……自殺じゃないんだね……」
「ああ。岩見沢先輩の死の要因は、別のことにある」
わたしの気持ちを汲み取ったのか、矢坂くんは悲しげに小さく息を吐いた。
「……そっか。いろいろと納得いかないところもあるけれど、浩二と桃原さんは協力するつもりみたいだしな。俺も、岩見沢先輩の望む展開へと事が運ぶように尽力するか」
迷った挙げ句、藤谷くんが結論づけるように言ったのは、そんな言葉だった。
あらゆる可能性を拾い集めるしかないと判断したように。
「桃原さん、俺はヘルスイーツを作ることはできない。作る作業には加わることはできない。だけど、それでも俺は桃原さんの助手だ。必要な材料や道具の準備は任せてくれよ」
そのまっすぐな眼差しに射抜かれて、わたしは一瞬、言葉を失った。
やる気を漲らせる藤谷くんは、とてもまぶしい。
「うん、ありがとう。よーし、がんばるぞ!」
藤谷くんの決意に負けないように、わたしはやる気をかき集めて声を絞り出す。
「矢坂くん、まずは何をしたらいいかな?」
「牛乳をレンジで一分ほど加熱して、温めておいてくれないか」
「分かったー」
わたしは心躍るままに足取りも軽く、矢坂くんの作業のお手伝いへと飛び込んでいく。
「鍋に卵黄と砂糖を入れて、泡立て器で混ぜて~、薄力粉をふるい入れて混ぜ~、牛乳を少しずつ加えながら混ぜていく~」
わたしは矢坂くんに言われたとおり、目の前の小鍋をぐるぐるとかき混ぜる。
「ん~! これでよしっと!」
下準備を整えたわたしは、清々しい気持ちで元気よく伸びをした。
窓の向こう――今にも雨が降り出しそうな空の向こうには以前、赴いた町一番の大きな病院が見える。
さらに矢坂くんの作業を手伝って、わたしと藤谷くんは忙しなく動き回っていく。
やがて、フライパンで焼いて出来上がったのは、カスタードたっぷりのふわふわオムレットだった。
「これはすごいな……。食べるのがもったいないぐらいだぜ!」
手作りとは思えない出来映えの本格派のオムレット。
それを目の当たりにした藤谷くんが歓喜の声を上げる。
「これなら、岩見沢先輩もきっと満足するよ!」
わたしも全力で、藤谷くんの言葉に同意する。
すると、藤谷くんは両手を天高く突き出して意気揚々に言った。
「おっしゃー。明日の放課後、生徒会室に行って、オムレットを渡そうぜ。このオムレットを見たら、岩見沢先輩も驚くぞ!」
「ああ、そうだな」
「うん!」
藤谷くんの満足げな笑顔に、わたしと矢坂くんは顔を見合わせて力強くうなずいた。
*
翌日、わたしたちはお菓子写真部の部室に岩見沢先輩を呼んだ。
「……もう、できたのですか?」
「はい! 既に用意してきています。岩見沢先輩の望みを叶えるヘルスイーツを!」
訝しげな岩見沢先輩に、わたしはふふんと誇らしげに声を弾ませた。
「というわけで、じゃじゃーん! 幸せが詰まったヘルスイーツ、カスタードたっぷりのふわふわオムレット!」
颯爽と机の上に、わたしたちが協力して作ったヘルスイーツ、オムレットがお目見えする。
まるで本物の半月のような、きらきらと輝くヘルスイーツはとても神秘的だ。
「ふーん」
わたしの説明に、岩見沢先輩はさして興味なさそうなつぶやきをこぼす。
後ろで控えているスバルさんは以前、わたしが作ったヘルスイーツを知っているからか、そんなわたしたちを咎め立てることなく、観測者に徹している。
ただ、それでもこのヘルスイーツを食べて、岩見沢先輩の死因が変わらないか、気になっているようだ。
わたしがとろけるような笑みをこぼしていたからか、矢坂くんも表情をほころばせていた。
春の匂いがする彼の笑顔はキラキラとしていて、もう心に寂しさはなかった。
だけど、こんなに舞い上がっていると、また、ヘルスイーツ作りに失敗してしまうかもしれない。
ぐっと気を引き締めないと。
わたしがそう決心していると、矢坂くんは早速、ヘルスイーツ作りに取りかかろうとしていた。
死神パティシエの補佐をするのは、死神見習いであるわたしの役目。
やる気満々のわたしは慌てて、矢坂くんのもとに一目散に駆け寄った。
「矢坂くん、訊いてもいい? 坂井先輩を救うことができるヘルスイーツって、どんなお菓子なの?」
「オムレットだ」
「ええっ、オムレット! 坂井先輩、昏睡状態だから、食べるのは無理なんじゃ……」
思った以上に食いついてしまった。
矢坂くんは苦笑して、噛みしめるように声に出す。
「大丈夫だ。オムレットを食べてもらう必要があるのは、坂井先輩じゃない。坂井先輩を救いたいと願っている岩見沢先輩の方だ」
「あっ、そっか」
矢坂くんの返答に、わたしは納得したように手をぽんとたたく。
オムレットは、スポンジケーキなどの生地を丸く伸ばして焼き、泡立てた生クリームや果物を挟み、二つ折りにしたお菓子のことだ。
何となくだけど、岩見沢先輩は甘いものが好きそうな感じがする。
「岩見沢先輩に食べてもらう……?」
そこではたと、藤谷くんは重大なことに気づいた。
「ふと思ったんだけど、坂井先輩が目を醒ますことで、岩見沢先輩の死因が変わることはないのか?」
「岩見沢先輩の死因は確認している。彼女の死因は、坂井先輩が目覚めても変わることはない」
藤谷くんの素朴な疑問に、矢坂くんは真剣な口調で答えた。
「矢坂くん。岩見沢先輩の死因は、本当に……自殺じゃないんだね……」
「ああ。岩見沢先輩の死の要因は、別のことにある」
わたしの気持ちを汲み取ったのか、矢坂くんは悲しげに小さく息を吐いた。
「……そっか。いろいろと納得いかないところもあるけれど、浩二と桃原さんは協力するつもりみたいだしな。俺も、岩見沢先輩の望む展開へと事が運ぶように尽力するか」
迷った挙げ句、藤谷くんが結論づけるように言ったのは、そんな言葉だった。
あらゆる可能性を拾い集めるしかないと判断したように。
「桃原さん、俺はヘルスイーツを作ることはできない。作る作業には加わることはできない。だけど、それでも俺は桃原さんの助手だ。必要な材料や道具の準備は任せてくれよ」
そのまっすぐな眼差しに射抜かれて、わたしは一瞬、言葉を失った。
やる気を漲らせる藤谷くんは、とてもまぶしい。
「うん、ありがとう。よーし、がんばるぞ!」
藤谷くんの決意に負けないように、わたしはやる気をかき集めて声を絞り出す。
「矢坂くん、まずは何をしたらいいかな?」
「牛乳をレンジで一分ほど加熱して、温めておいてくれないか」
「分かったー」
わたしは心躍るままに足取りも軽く、矢坂くんの作業のお手伝いへと飛び込んでいく。
「鍋に卵黄と砂糖を入れて、泡立て器で混ぜて~、薄力粉をふるい入れて混ぜ~、牛乳を少しずつ加えながら混ぜていく~」
わたしは矢坂くんに言われたとおり、目の前の小鍋をぐるぐるとかき混ぜる。
「ん~! これでよしっと!」
下準備を整えたわたしは、清々しい気持ちで元気よく伸びをした。
窓の向こう――今にも雨が降り出しそうな空の向こうには以前、赴いた町一番の大きな病院が見える。
さらに矢坂くんの作業を手伝って、わたしと藤谷くんは忙しなく動き回っていく。
やがて、フライパンで焼いて出来上がったのは、カスタードたっぷりのふわふわオムレットだった。
「これはすごいな……。食べるのがもったいないぐらいだぜ!」
手作りとは思えない出来映えの本格派のオムレット。
それを目の当たりにした藤谷くんが歓喜の声を上げる。
「これなら、岩見沢先輩もきっと満足するよ!」
わたしも全力で、藤谷くんの言葉に同意する。
すると、藤谷くんは両手を天高く突き出して意気揚々に言った。
「おっしゃー。明日の放課後、生徒会室に行って、オムレットを渡そうぜ。このオムレットを見たら、岩見沢先輩も驚くぞ!」
「ああ、そうだな」
「うん!」
藤谷くんの満足げな笑顔に、わたしと矢坂くんは顔を見合わせて力強くうなずいた。
*
翌日、わたしたちはお菓子写真部の部室に岩見沢先輩を呼んだ。
「……もう、できたのですか?」
「はい! 既に用意してきています。岩見沢先輩の望みを叶えるヘルスイーツを!」
訝しげな岩見沢先輩に、わたしはふふんと誇らしげに声を弾ませた。
「というわけで、じゃじゃーん! 幸せが詰まったヘルスイーツ、カスタードたっぷりのふわふわオムレット!」
颯爽と机の上に、わたしたちが協力して作ったヘルスイーツ、オムレットがお目見えする。
まるで本物の半月のような、きらきらと輝くヘルスイーツはとても神秘的だ。
「ふーん」
わたしの説明に、岩見沢先輩はさして興味なさそうなつぶやきをこぼす。
後ろで控えているスバルさんは以前、わたしが作ったヘルスイーツを知っているからか、そんなわたしたちを咎め立てることなく、観測者に徹している。
ただ、それでもこのヘルスイーツを食べて、岩見沢先輩の死因が変わらないか、気になっているようだ。



