翌日、わたしが学校に登校すると、昇降口の前は賑やかさに拍車がかかっていた。
たくさんの人がいるというだけで、圧倒されてしまう。
「何か、あったのかな?」
わたしは目の前で起こっていることが理解できずにいた。
周りの空気は何となく、そわそわと落ち着かなかった。
波乱の予感がして、わたしはそっと様子を窺う。
「ねえ、聞いた? 写真部、今度の春期写真コンテストにすごい写真を応募するみたいよ」
「えっ? そうなんだー」
あちこちから、賑やかな話し声が聞こえる。
どうやら、昇降口に写真部のポスターが貼られているみたいだ。
今度の春期写真コンテストの話題が上がっている。
「どんな写真を応募するの?」
「ヘルスイーツの写真って聞いたよ!」
ヘルスイーツの話題が聞こえてきて、心臓が大きくはね上がった。
「それに先駆けて、今度、写真部が『ヘルスイーツ写真展』をするみたい」
「そうなんだ。気になるー」
早まる心音を落ち着かせるように、わたしは今一度、ポスターを凝視した。
だが、やはり見間違いようもなく、『ヘルスイーツ写真展』のことが書かれている。
もはや、頭が真っ白になるしかなかった。
知らない間に、話題が妙な流れになっている。
どうなっているんだろう。
『ヘルスイーツ写真展』をするためには、死神パティシエの協力が必要不可欠だ。
スバルさんは、普通の死神でヘルスイーツは作れない。
少なくとも現段階では、写真部はその案を奪うことはできないはずだ。
それなのに、どうして……?
わたしの困惑をよそに、みんなは楽しそうにヘルスイーツの話題を続けていた。
*
ロッカーで靴を履き替えて、足早に高等部の教室に向かう。
「桃原、おはよう」
一年二組の教室に入ると、隣の席の矢坂くんが声をかけてきた。
「……おはよう、矢坂くん。昨日はありがとう」
「桃原、大丈夫か……?」
「……うん」
気丈に振る舞うわたしを見て、矢坂くんが心配そうな顔をする。
それは、今にも泣き出してしまうんじゃないかと思うほど、苦痛に満ちた表情に見えた。
「無理して笑わなくていいからな」
「……ありがとう」
矢坂くんはいつも、相手の気持ちに寄り添って言葉を選んでいる気がする。
空気を読むのがうまいのかもしれない。
心から感謝の気持ちが溢れた。
「桃原は、俺にとって、かけがえのない大切な存在だ。俺といる時は、いつだって本当の桃原でいてほしい」
矢坂くんはいつも、わたしの不安を取り除いてくれる。
「桃原の願い事は、俺ができるだけ、叶えたいと思っている。桃原の毎日を、もっと幸せな感情で埋め尽くしてあげたいと思っているから」
その瞬間、心臓がぎゅっと握られたみたいな衝撃を受けた。
わたしの顔が、輪をかけて赤くなるのを感じる。
大好きな人からの嬉しい言葉って、本当に心臓に悪い。
――そう思っているのはわたしの方だよ。
思わず、口にしてしまいそうになった心の声を呑み込む。
紅潮した頬を両手で覆い隠し、わたしは咄嗟に話題を変えた。
「矢坂くん。昇降口のポスター、どう思う?」
「恐らく、岩見沢先輩が貼ったんだろうな。ポスターに写っていた写真は、ヘルスイーツじゃない。普通のお菓子だ」
口を衝いて出た疑問に、矢坂くんはそう断言する。
「じゃあ、普通のお菓子をヘルスイーツだと偽っているんだね」
「ああ」
念を押すと、矢坂くんはしっかりとうなずいた。
「岩見沢先輩はどうして、そこまでして写真部を残したいと思っているのかな……」
「どうしてだと思う?」
わたしの率直な問いかけに答えたのは、矢坂くんじゃなかった。
声がした方向を見ると、そこには岩見沢先輩が立っていた。
その後ろには、スバルさんが佇んでいる。
生徒会副会長直々の訪問に、クラス中がざわついた。
「ふーん。あの写真を一目見て、ヘルスイーツじゃないって見破るなんてね。あなたたち、随分、ヘルスイーツに詳しそう。やっぱり、知り合いに死神パティシエがいるからかなー」
岩見沢先輩が興味津々に、矢坂くんに水を向ける。
「あなたたち、昼休み、少し時間をちょうだい。話したいことがあるの」
「はい」
「分かりました」
岩見沢先輩の真剣な眼差しに、わたしと矢坂くんは戸惑いつつもそう答えた。
*
お昼休み、昼食を食べてから、わたしたち、お菓子写真部は生徒会室へと赴いた。
「来てくれてありがとうございます」
生徒会室のドアを開けるなり、岩見沢先輩に出迎えられる。
生徒会室には、今はわたしたちと岩見沢先輩とスバルさんだけのようだ。
「矢坂くん」
「桃原、大丈夫だ」
矢坂くんは屈託なく笑って、わたしの隣に腰を下ろした。
肩が触れたのはきっと、偶然のはず。
ただ、そんな小さな接触に、わたしの心臓は跳ね上がる。
わたしたちが席につくと、岩見沢先輩は早速、話し始めた。
「もう、知っていると思いますが、写真部は部員不足で、存続ぎりぎりの瀬戸際に立たされています。このままでは、来年を待たずに廃部になってしまうでしょう」
「だからって、他の部を廃部に追い込むような噂を流したりするなよ!」
藤谷くんが不満そうに、喜多見先輩に水を向ける。
「その件については謝罪します。大変申し訳ございません」
そう言って、岩見沢先輩は丁重に頭を下げる。
正直、何一つ腑に落ちなかった。
それでも、わたしはおずおずと岩見沢先輩に声をかける。
「あの、昇降口のポスターは……?」
「申し訳ございません。あなたたちを試していました」
話が見えないんだけど。
一言で表すのなら、そんな言葉がしっくりくるだろう。
たくさんの人がいるというだけで、圧倒されてしまう。
「何か、あったのかな?」
わたしは目の前で起こっていることが理解できずにいた。
周りの空気は何となく、そわそわと落ち着かなかった。
波乱の予感がして、わたしはそっと様子を窺う。
「ねえ、聞いた? 写真部、今度の春期写真コンテストにすごい写真を応募するみたいよ」
「えっ? そうなんだー」
あちこちから、賑やかな話し声が聞こえる。
どうやら、昇降口に写真部のポスターが貼られているみたいだ。
今度の春期写真コンテストの話題が上がっている。
「どんな写真を応募するの?」
「ヘルスイーツの写真って聞いたよ!」
ヘルスイーツの話題が聞こえてきて、心臓が大きくはね上がった。
「それに先駆けて、今度、写真部が『ヘルスイーツ写真展』をするみたい」
「そうなんだ。気になるー」
早まる心音を落ち着かせるように、わたしは今一度、ポスターを凝視した。
だが、やはり見間違いようもなく、『ヘルスイーツ写真展』のことが書かれている。
もはや、頭が真っ白になるしかなかった。
知らない間に、話題が妙な流れになっている。
どうなっているんだろう。
『ヘルスイーツ写真展』をするためには、死神パティシエの協力が必要不可欠だ。
スバルさんは、普通の死神でヘルスイーツは作れない。
少なくとも現段階では、写真部はその案を奪うことはできないはずだ。
それなのに、どうして……?
わたしの困惑をよそに、みんなは楽しそうにヘルスイーツの話題を続けていた。
*
ロッカーで靴を履き替えて、足早に高等部の教室に向かう。
「桃原、おはよう」
一年二組の教室に入ると、隣の席の矢坂くんが声をかけてきた。
「……おはよう、矢坂くん。昨日はありがとう」
「桃原、大丈夫か……?」
「……うん」
気丈に振る舞うわたしを見て、矢坂くんが心配そうな顔をする。
それは、今にも泣き出してしまうんじゃないかと思うほど、苦痛に満ちた表情に見えた。
「無理して笑わなくていいからな」
「……ありがとう」
矢坂くんはいつも、相手の気持ちに寄り添って言葉を選んでいる気がする。
空気を読むのがうまいのかもしれない。
心から感謝の気持ちが溢れた。
「桃原は、俺にとって、かけがえのない大切な存在だ。俺といる時は、いつだって本当の桃原でいてほしい」
矢坂くんはいつも、わたしの不安を取り除いてくれる。
「桃原の願い事は、俺ができるだけ、叶えたいと思っている。桃原の毎日を、もっと幸せな感情で埋め尽くしてあげたいと思っているから」
その瞬間、心臓がぎゅっと握られたみたいな衝撃を受けた。
わたしの顔が、輪をかけて赤くなるのを感じる。
大好きな人からの嬉しい言葉って、本当に心臓に悪い。
――そう思っているのはわたしの方だよ。
思わず、口にしてしまいそうになった心の声を呑み込む。
紅潮した頬を両手で覆い隠し、わたしは咄嗟に話題を変えた。
「矢坂くん。昇降口のポスター、どう思う?」
「恐らく、岩見沢先輩が貼ったんだろうな。ポスターに写っていた写真は、ヘルスイーツじゃない。普通のお菓子だ」
口を衝いて出た疑問に、矢坂くんはそう断言する。
「じゃあ、普通のお菓子をヘルスイーツだと偽っているんだね」
「ああ」
念を押すと、矢坂くんはしっかりとうなずいた。
「岩見沢先輩はどうして、そこまでして写真部を残したいと思っているのかな……」
「どうしてだと思う?」
わたしの率直な問いかけに答えたのは、矢坂くんじゃなかった。
声がした方向を見ると、そこには岩見沢先輩が立っていた。
その後ろには、スバルさんが佇んでいる。
生徒会副会長直々の訪問に、クラス中がざわついた。
「ふーん。あの写真を一目見て、ヘルスイーツじゃないって見破るなんてね。あなたたち、随分、ヘルスイーツに詳しそう。やっぱり、知り合いに死神パティシエがいるからかなー」
岩見沢先輩が興味津々に、矢坂くんに水を向ける。
「あなたたち、昼休み、少し時間をちょうだい。話したいことがあるの」
「はい」
「分かりました」
岩見沢先輩の真剣な眼差しに、わたしと矢坂くんは戸惑いつつもそう答えた。
*
お昼休み、昼食を食べてから、わたしたち、お菓子写真部は生徒会室へと赴いた。
「来てくれてありがとうございます」
生徒会室のドアを開けるなり、岩見沢先輩に出迎えられる。
生徒会室には、今はわたしたちと岩見沢先輩とスバルさんだけのようだ。
「矢坂くん」
「桃原、大丈夫だ」
矢坂くんは屈託なく笑って、わたしの隣に腰を下ろした。
肩が触れたのはきっと、偶然のはず。
ただ、そんな小さな接触に、わたしの心臓は跳ね上がる。
わたしたちが席につくと、岩見沢先輩は早速、話し始めた。
「もう、知っていると思いますが、写真部は部員不足で、存続ぎりぎりの瀬戸際に立たされています。このままでは、来年を待たずに廃部になってしまうでしょう」
「だからって、他の部を廃部に追い込むような噂を流したりするなよ!」
藤谷くんが不満そうに、喜多見先輩に水を向ける。
「その件については謝罪します。大変申し訳ございません」
そう言って、岩見沢先輩は丁重に頭を下げる。
正直、何一つ腑に落ちなかった。
それでも、わたしはおずおずと岩見沢先輩に声をかける。
「あの、昇降口のポスターは……?」
「申し訳ございません。あなたたちを試していました」
話が見えないんだけど。
一言で表すのなら、そんな言葉がしっくりくるだろう。



