いつか置き去りにしていた春の運命

「桃原、ごめん。俺はまだ容易に、死の運命を変えることはできない。重い対価を払わないと、誰も救えない」

矢坂くんは悔やむように唇を噛みしめる。

「だけど、双葉さんがあの世に行くまではもう少しだけ、時間はある。明日、みんなで一緒に考えよう。そうすれば、何かいい方法が思いつくかもしれない」

矢坂くんの言葉が胸に沁みる。
彼の優しさに、わたしはいつも救われているような気持ちになった。

「諦めるな。桃原は、どんな時も奇跡にたどり着く力を持っている」
「……う、うん」

後ろ向きになりそうな思考を振り払い、唇を噛みしめて顔を上げる。
わたしは思い出したように、矢坂くんに身体を預けた。
制服越しに伝わる彼の温もりに安心したかったのかもしれない。
今、わたしの頬を伝う涙が何よりの証拠だろう。

「桃原、大丈夫だ。そばにいるからな」

矢坂くんは、わたしの震える背中に手をあてがった。
そのまま、上下させて落ち着くまでさすってくれた。
気がついたら、外はもう暗くなっている。
それでも矢坂くんは、わたしが落ち着くまでずっと、そばにいてくれた。

「……矢坂くん、今日はありがとう。気をつけて帰ってね」
「ああ。また、明日な」

わたしが必死に涙を拭って見送ると、矢坂くんは玄関のドアを開けて去っていった。
わたしはしばらくの間、じっと矢坂くんの去った先を見つめていた。

まるで、矢坂くんに会える明日を心待ちにするように。

そんなわたしに、お母さんはそっと窺うように尋ねてくる。

「ねえ、晴花。もしかして、あの子のことが好きなの?」
「ふええ……!?」

あっさりと言い当てられて、わたしはぎょっとする。
わたしの驚きように、お母さんは小さく微笑む。

「そんなに好きだったら、思い切って告白すればいいのに」
「えっ!?」

お母さんの切り返しに、わたしは目を白黒させた。

「お母さんは応援するわよ!」
「だっ、ダメだよ!」

お母さんが嬉々として、両拳をぎゅっと握りしめる。
その途端、わたしは熱くなった顔を冷ますように、ぶんぶんと首を振った。

「何で?」
「だって――すごく難しい恋だもん」

一筋縄ではいかない恋に、わたしの胸がどきりと音を立てる。
それでも、いつか矢坂くんと恋人同士になりたい。
矢坂くんに会えて嬉しいって、心が叫んでいるような気がした。

願うなら、この出会いの道の先、二人で一緒に歩けますように――。