*
お菓子写真部の部室を出ると、喜多見先輩に案内されて生徒会室へと向かう。
「入ってくれ」
喜多見先輩に促されて、わたしたちは生徒会室へと足を踏み入れた。
入ると、一瞬にして室内の空気が固まる。
他の生徒会の人たちが、わたしたちを吟味するような目で見つめてきたからだ。
その中には、生徒会副会長の岩見沢先輩と死神のスバルさんの姿があった。
独特の雰囲気が漂う生徒会室。
自分が、まるで場違いな場所にいるのではという気持ちに囚われる。
それでも、ここに来た目的を必死に思い出す。
弱気になっても仕方ないよね。
喜多見先輩や矢坂くんたちのためにも、前を見つめなくちゃ。
臆しそうになる心を奮い立たせて、わたしは岩見沢先輩たちを見つめた。
「座ってくれ」
喜多見先輩から歓待され、わたしたちは用意されていた椅子に座る。
「……会長、彼らは?」
「お菓子写真部の生徒だ。今回の噂研究部の騒動に協力してもらうために、ここに来てもらった」
上級生らしい男の子の発言に、喜多見先輩が事情を説明する。
確か、彼は矢坂奏先輩。
生徒会書記の一人で高校二年生。
柔らかそうな黒い髪で整った顔立ち。
ただ、冷ややかな眼差しのせいで怒ったように見える表情が、余計に迫力に輪をかける。
というか、実際にわたしたちのことを凝視しているような気がした。
わたしたち、矢坂先輩の気に障ることをしたのかな?
思案を巡らせてみるものの、きつい形相で睨まれている理由が思い当たらない。
ちらりと横に目を向けると、矢坂くんは複雑な面持ちで矢坂先輩を見つめていた。
まるで、以前から知っている人みたいに、その眼差しには親しみが込められている。
どういうことなんだろう?
そういえば、矢坂くんと矢坂先輩って同じ苗字だよね。
もしかして矢坂先輩は、矢坂くんのお兄さん……?
思い悩んでいると、岩見沢先輩が怪訝そうに口を挟んできた。
「会長。お言葉ですが、今回の件、このような部外者に頼るより、あたしたち、生徒会で解決するべきだと思いますよ」
「僕は以前、彼らの世話になっている。彼らなら、噂研究部を突き止めるための有力な糸口を導き出してくれるはずだ」
喜多見先輩の直言に、岩見沢先輩は疑惑の目でわたしたちを見つめる。
「そもそも、彼らが噂研究部の関係者という可能性はないんですか?」
「ない。それは僕が保証しよう。既に僕には、噂研究部の真相についての心当たりがある。その心当たりをあたっていけば、おのずと今回の件は芋づる式に解決するはずだ」
強気な岩見沢先輩と、生真面目な喜多見先輩という構図が何となく見えた気がした。
「その心当たりというのは?」
「昼休み、食堂で、噂研究部のことを口にしている人物を目撃した者たちがいる。十中八九、噂研究部の関係者だろう」
喜多見先輩の断言に、岩見沢先輩はぐっと押し黙る。
恐らく、あの場にわたしたちがいて、ヘルスイーツの力を借りて、聞き耳を立てていたとは思わなかったのだろう。
「その人物が告げていたそうだ。『噂研究部』という架空の部をでっち上げて、噂を流したと」
「その情報自体が、嘘の可能性も……」
喜多見先輩と岩見沢先輩の視線がかち合う。
互いに緊迫した空気が流れた。
「分かっている。だから、これからお菓子写真部の生徒とともに、その噂の発信源を探ってみようと思っている」
「発信源……」
「ああ。こちらも、既に見当はつけている」
岩見沢先輩の戸惑いを察したのか、喜多見先輩はきっぱりと告げた。
「お菓子写真部には、死神パティシエという後ろ楯があるからな」
「死神パティシエ……」
喜多見先輩の発言に、生徒会室の間で動揺が波及した。
岩見沢先輩たちは、既にそのことを知っている。
この場で明かすことに躊躇いつつも……。
いずれ勘づかれてしまうことだし、大丈夫だよね。
わたしは前向きに、そう考えることにした。
「……あたしはもう、こうするしかない。こうするしかないのよ。これは……あたしへの罰だから……」
喜多見先輩の言葉を聞いて、岩見沢先輩の表情に翳りが生まれる。
もう、後戻りできないところまできていることを実感している顔つきだった。
「ねえ、矢坂くん。わたしたち、このまま、喜多見先輩と岩見沢先輩の議論を聞いているだけでいいのかな?」
場を占める重い雰囲気を消したくて、わたしは矢坂くんに小声で話を振った。
「岩見沢先輩も言っただろう。俺たちは部外者だ。それに怪現象の噂のこともある。俺たち、お菓子写真部が意見を口にしても、返って立場を悪くするだけだ」
「じゃあ、何で俺たち、ここに呼ばれたんだ?」
わたしが納得していると、藤谷くんが横から話に入ってきた。
「喜多見先輩が、俺たちをここに呼んだのは、今回の件に俺たちが関わることを、生徒会のみんなに認めてもらうためだ。そうすれば、俺たち、お菓子写真部の名誉挽回のチャンスにもなるし、誤解も完全に解けると踏んでくれたんだろうな」
「ふええ……」
まさに大恩返しだ。
わたしは改めて、矢坂くんが告げた事実を痛感する。
「だが、岩見沢先輩にはスバルさんという協力者がいる。一筋縄ではいかないだろうな」
「うん、そうだね」
矢坂くんの決意に負けないように、わたしは勇気をかき集めて声を絞り出す。
やがて、わたしたちは議論が落ち着いたところを見計らって、お菓子写真部の部室へと戻った。
「緊張したー」
わたしはくっと、生徒会室に訪れたことへの緊張をほぐすために深呼吸する。
幾分か周囲を見渡す余裕のできたわたしは、矢坂くんたちを見た。
「生徒会の人たち、わたしたちのこと、信じてくれるかな……」
改めて言葉にしてみると、言いようのない感情の波がわたしの胸に押し寄せてきた。
岩見沢先輩には、スバルさんという死神の協力者がいる。
どうしても、不安が拭い去れない。
それでも信じるしかない。
そういえば……。
二律背反に陥っていた時、わたしはふと、重大なことに気づいた。
お菓子写真部の部室を出ると、喜多見先輩に案内されて生徒会室へと向かう。
「入ってくれ」
喜多見先輩に促されて、わたしたちは生徒会室へと足を踏み入れた。
入ると、一瞬にして室内の空気が固まる。
他の生徒会の人たちが、わたしたちを吟味するような目で見つめてきたからだ。
その中には、生徒会副会長の岩見沢先輩と死神のスバルさんの姿があった。
独特の雰囲気が漂う生徒会室。
自分が、まるで場違いな場所にいるのではという気持ちに囚われる。
それでも、ここに来た目的を必死に思い出す。
弱気になっても仕方ないよね。
喜多見先輩や矢坂くんたちのためにも、前を見つめなくちゃ。
臆しそうになる心を奮い立たせて、わたしは岩見沢先輩たちを見つめた。
「座ってくれ」
喜多見先輩から歓待され、わたしたちは用意されていた椅子に座る。
「……会長、彼らは?」
「お菓子写真部の生徒だ。今回の噂研究部の騒動に協力してもらうために、ここに来てもらった」
上級生らしい男の子の発言に、喜多見先輩が事情を説明する。
確か、彼は矢坂奏先輩。
生徒会書記の一人で高校二年生。
柔らかそうな黒い髪で整った顔立ち。
ただ、冷ややかな眼差しのせいで怒ったように見える表情が、余計に迫力に輪をかける。
というか、実際にわたしたちのことを凝視しているような気がした。
わたしたち、矢坂先輩の気に障ることをしたのかな?
思案を巡らせてみるものの、きつい形相で睨まれている理由が思い当たらない。
ちらりと横に目を向けると、矢坂くんは複雑な面持ちで矢坂先輩を見つめていた。
まるで、以前から知っている人みたいに、その眼差しには親しみが込められている。
どういうことなんだろう?
そういえば、矢坂くんと矢坂先輩って同じ苗字だよね。
もしかして矢坂先輩は、矢坂くんのお兄さん……?
思い悩んでいると、岩見沢先輩が怪訝そうに口を挟んできた。
「会長。お言葉ですが、今回の件、このような部外者に頼るより、あたしたち、生徒会で解決するべきだと思いますよ」
「僕は以前、彼らの世話になっている。彼らなら、噂研究部を突き止めるための有力な糸口を導き出してくれるはずだ」
喜多見先輩の直言に、岩見沢先輩は疑惑の目でわたしたちを見つめる。
「そもそも、彼らが噂研究部の関係者という可能性はないんですか?」
「ない。それは僕が保証しよう。既に僕には、噂研究部の真相についての心当たりがある。その心当たりをあたっていけば、おのずと今回の件は芋づる式に解決するはずだ」
強気な岩見沢先輩と、生真面目な喜多見先輩という構図が何となく見えた気がした。
「その心当たりというのは?」
「昼休み、食堂で、噂研究部のことを口にしている人物を目撃した者たちがいる。十中八九、噂研究部の関係者だろう」
喜多見先輩の断言に、岩見沢先輩はぐっと押し黙る。
恐らく、あの場にわたしたちがいて、ヘルスイーツの力を借りて、聞き耳を立てていたとは思わなかったのだろう。
「その人物が告げていたそうだ。『噂研究部』という架空の部をでっち上げて、噂を流したと」
「その情報自体が、嘘の可能性も……」
喜多見先輩と岩見沢先輩の視線がかち合う。
互いに緊迫した空気が流れた。
「分かっている。だから、これからお菓子写真部の生徒とともに、その噂の発信源を探ってみようと思っている」
「発信源……」
「ああ。こちらも、既に見当はつけている」
岩見沢先輩の戸惑いを察したのか、喜多見先輩はきっぱりと告げた。
「お菓子写真部には、死神パティシエという後ろ楯があるからな」
「死神パティシエ……」
喜多見先輩の発言に、生徒会室の間で動揺が波及した。
岩見沢先輩たちは、既にそのことを知っている。
この場で明かすことに躊躇いつつも……。
いずれ勘づかれてしまうことだし、大丈夫だよね。
わたしは前向きに、そう考えることにした。
「……あたしはもう、こうするしかない。こうするしかないのよ。これは……あたしへの罰だから……」
喜多見先輩の言葉を聞いて、岩見沢先輩の表情に翳りが生まれる。
もう、後戻りできないところまできていることを実感している顔つきだった。
「ねえ、矢坂くん。わたしたち、このまま、喜多見先輩と岩見沢先輩の議論を聞いているだけでいいのかな?」
場を占める重い雰囲気を消したくて、わたしは矢坂くんに小声で話を振った。
「岩見沢先輩も言っただろう。俺たちは部外者だ。それに怪現象の噂のこともある。俺たち、お菓子写真部が意見を口にしても、返って立場を悪くするだけだ」
「じゃあ、何で俺たち、ここに呼ばれたんだ?」
わたしが納得していると、藤谷くんが横から話に入ってきた。
「喜多見先輩が、俺たちをここに呼んだのは、今回の件に俺たちが関わることを、生徒会のみんなに認めてもらうためだ。そうすれば、俺たち、お菓子写真部の名誉挽回のチャンスにもなるし、誤解も完全に解けると踏んでくれたんだろうな」
「ふええ……」
まさに大恩返しだ。
わたしは改めて、矢坂くんが告げた事実を痛感する。
「だが、岩見沢先輩にはスバルさんという協力者がいる。一筋縄ではいかないだろうな」
「うん、そうだね」
矢坂くんの決意に負けないように、わたしは勇気をかき集めて声を絞り出す。
やがて、わたしたちは議論が落ち着いたところを見計らって、お菓子写真部の部室へと戻った。
「緊張したー」
わたしはくっと、生徒会室に訪れたことへの緊張をほぐすために深呼吸する。
幾分か周囲を見渡す余裕のできたわたしは、矢坂くんたちを見た。
「生徒会の人たち、わたしたちのこと、信じてくれるかな……」
改めて言葉にしてみると、言いようのない感情の波がわたしの胸に押し寄せてきた。
岩見沢先輩には、スバルさんという死神の協力者がいる。
どうしても、不安が拭い去れない。
それでも信じるしかない。
そういえば……。
二律背反に陥っていた時、わたしはふと、重大なことに気づいた。



