「おいしい?」
「うん! 甘くて、おいしい!」
わたしの問いかけに、千紗ちゃんはぱあっと目を輝かせる。
「……正直、外に飛び出した時は、どうなることかと思ったが、千紗の味覚は治ったようだな」
その様子を見守っていた喜多見先輩は、満足げに目を細めた。
よくよく考えれば、少し強引だったかもしれない。
急に気恥ずかしくなってきて、わたしがうつむいていると。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
千紗ちゃんは、今日一番の笑顔を見せてくれた。
ぽかぽかして、胸が熱くなる。
その笑顔が、わたしの背中を優しく押してくれた。
「ねえ、千紗ちゃん。わたしたちと友達になってくれないかな?」
「友達に?」
わたしの問いかけに、千紗ちゃんはきょとんとする。
「うん。千紗ちゃんと喜多見先輩に、わたしたちの友達になってほしいなと思って」
「はっ……?」
わたしの発言に、過剰反応したのは喜多見先輩だ。
一転して取り乱しているのが、目に見えて明らかだった。
「何を言っているんだ。僕は、君たちと友達になるつもりは――」
「えっ? お兄ちゃん、友達にならないの?」
千紗ちゃんがしゅんと落ち込む姿を目の当たりして、喜多見先輩は言いかけた言葉を飲み込む。
そして、こほんと咳払いを一つして、神妙な面持ちで口を開いた。
「くっ……仕方ない。君たちの友達とやらになってやろう」
千紗ちゃんの純粋な眼差しに負けたのか、喜多見先輩は仕方がなさそうに肩をすくめた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
千紗ちゃんは嬉しそうに、喜多見先輩の肘に抱きつく。
喜多見先輩も、そんな千紗ちゃんの様子を見て、穏やかに微笑んでいた。
「千紗ちゃん、どうする? これからお菓子巡り、行く?」
「行く!」
無邪気にはしゃぐ千紗ちゃんに、火照る身体が休まった。
千紗ちゃんの味覚が治って嬉しい。
こんなに喜ばしいことはないのに、もやもやする。
気持ちのズレに戸惑う。
その理由は、千紗ちゃんが、もうすぐいなくなってしまうからだろう。
「その前に、水分補給。二人とも、喉がカラカラのはずだ」
「あ、はい」
「うん」
喜多見先輩に促されたことで、わたしと千紗ちゃんは近くの自動販売機に向かう。
千紗ちゃんは、しばらく商品の陳列を眺めてから、缶のジュースを買った。
わたしも続いて硬貨を入れ、ペットボトルの水のボタンを押す。
再び、ベンチに移動して、みんなで喉を潤した。
視線の先には、噴水がしぶきを上げている。
その周りには、子どもたちが楽しそうに駆け回っていた。
スバルさんはというと、そんなわたしたちを咎め立てることなく傍観している。
先程、わたしの提案を拒んできたというのに、今は千紗ちゃんの行動を監視するだけに留まっていた。
「桃原」
矢坂くんがそう言って、近くのベンチから立ち上がるのが視界の端に見えた。
「スバルさんはどうやら、桃原が作ったヘルスイーツの効果を認めたみたいだ」
わたしが戸惑っていると、矢坂くんが小声で補足してくれる。
「そうなんだ。なんだか、嬉しい……」
わたしはそう言って、はにかむように笑った。
スバルさんが、わたしの作ったヘルスイーツを認めてくれたことが素直に嬉しかった。
「おっしゃー。お菓子巡りに行こうぜ!」
矢坂くんの隣に並んだ藤谷くんが、元気いっぱいに声をかけてくる。
「千紗ちゃん、大丈夫?」
「うん。お菓子巡り、すごく楽しみー!」
わたしの言葉に、ベンチから立ち上がった千紗ちゃんは大きくうなずいた。
待ち遠しい気分で、くるりと周囲を見渡す。
「お菓子巡りか。この近くの店は――」
言いかけた喜多見先輩の声を、わたしの声が追い抜いた。
「喜多見先輩、任せてください! この周辺のお店は、すべて把握しています!」
あれこれ考え込まず、ただやりたいことを考えた時、その言葉しか浮かばなかった。
「最初は、この洋菓子店が近いです。イートインスペースもありますから、その場で食べることができます」
わたしは意気揚々とスマホを見せて、事前に調べていることを伝える。
目を丸くした喜多見先輩は少し考えるように、呼吸を挟んだ。
「少し不安だが、君に任せよう」
喜多見先輩はやれやれと嘆息した。
並木通りの道を歩きながら、最初の目的地を目指す。
お菓子巡り、全制覇を目指すのもいいかもしれない。
そう思いながらたどり着いたのは、かわいらしい洋菓子店だった。
春の花を飾った、どことなく温かそうな空間。
そこにまず、わたしたちは足を運んだ。
「どれもおいしそう……!」
千紗ちゃんは身を乗り出すようにして、はにかんだ。
ショーケースには、様々な洋菓子が並べられていて、見ているだけでも胸が弾む。
ショーケースの前にみんなが集まれば、早速、話に花が咲く。
「わたし、イチゴケーキ! お姉ちゃんはどれにするの?」
「うーん。わたしはカップ入りのイチゴティラミスにしようかな」
「イチゴ、おそろいだねー」
「そうだね」
千紗ちゃんが声を弾ませれば、わたしはくすぐったいような笑みを浮かべて答える。
「僕たちも注文するか」
仲睦まじいわたしたちの笑顔を目にした喜多見先輩も、ふっと目元を和らげた。
それぞれ選ぶと、奥のイートインスペースに移動する。
窓際のしゃれた席に腰を下ろすと、わくわくな時間の始まりだ。
「わあっ! ここはお菓子の世界ですか!?」
見つけられた興奮に、わたしはぱあっと目を輝かせる。
ずらりと並ぶ洋菓子のまぶしさは、物語に出てくるお菓子の世界を思わせた。
「ん、どれも悪くないな。絶品だ」
矢坂くんは、テーブルを彩る洋菓子をひとつひとつ味わっていた。
「浩二も、桃原も、甘いもの得意みたいだな」
「くっ……」
藤谷くんが洋菓子に舌鼓を打っている中、喜多見先輩だけは悪戦苦闘していた。
「んーっ。おいしーっ」
どの洋菓子もおいしくて食べやすい小さめサイズで、つい食べ過ぎてしまいそうになるのもご愛嬌。
それでも支払いを済ませて、次の和菓子店へと足を運んだ。
「うん! 甘くて、おいしい!」
わたしの問いかけに、千紗ちゃんはぱあっと目を輝かせる。
「……正直、外に飛び出した時は、どうなることかと思ったが、千紗の味覚は治ったようだな」
その様子を見守っていた喜多見先輩は、満足げに目を細めた。
よくよく考えれば、少し強引だったかもしれない。
急に気恥ずかしくなってきて、わたしがうつむいていると。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
千紗ちゃんは、今日一番の笑顔を見せてくれた。
ぽかぽかして、胸が熱くなる。
その笑顔が、わたしの背中を優しく押してくれた。
「ねえ、千紗ちゃん。わたしたちと友達になってくれないかな?」
「友達に?」
わたしの問いかけに、千紗ちゃんはきょとんとする。
「うん。千紗ちゃんと喜多見先輩に、わたしたちの友達になってほしいなと思って」
「はっ……?」
わたしの発言に、過剰反応したのは喜多見先輩だ。
一転して取り乱しているのが、目に見えて明らかだった。
「何を言っているんだ。僕は、君たちと友達になるつもりは――」
「えっ? お兄ちゃん、友達にならないの?」
千紗ちゃんがしゅんと落ち込む姿を目の当たりして、喜多見先輩は言いかけた言葉を飲み込む。
そして、こほんと咳払いを一つして、神妙な面持ちで口を開いた。
「くっ……仕方ない。君たちの友達とやらになってやろう」
千紗ちゃんの純粋な眼差しに負けたのか、喜多見先輩は仕方がなさそうに肩をすくめた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
千紗ちゃんは嬉しそうに、喜多見先輩の肘に抱きつく。
喜多見先輩も、そんな千紗ちゃんの様子を見て、穏やかに微笑んでいた。
「千紗ちゃん、どうする? これからお菓子巡り、行く?」
「行く!」
無邪気にはしゃぐ千紗ちゃんに、火照る身体が休まった。
千紗ちゃんの味覚が治って嬉しい。
こんなに喜ばしいことはないのに、もやもやする。
気持ちのズレに戸惑う。
その理由は、千紗ちゃんが、もうすぐいなくなってしまうからだろう。
「その前に、水分補給。二人とも、喉がカラカラのはずだ」
「あ、はい」
「うん」
喜多見先輩に促されたことで、わたしと千紗ちゃんは近くの自動販売機に向かう。
千紗ちゃんは、しばらく商品の陳列を眺めてから、缶のジュースを買った。
わたしも続いて硬貨を入れ、ペットボトルの水のボタンを押す。
再び、ベンチに移動して、みんなで喉を潤した。
視線の先には、噴水がしぶきを上げている。
その周りには、子どもたちが楽しそうに駆け回っていた。
スバルさんはというと、そんなわたしたちを咎め立てることなく傍観している。
先程、わたしの提案を拒んできたというのに、今は千紗ちゃんの行動を監視するだけに留まっていた。
「桃原」
矢坂くんがそう言って、近くのベンチから立ち上がるのが視界の端に見えた。
「スバルさんはどうやら、桃原が作ったヘルスイーツの効果を認めたみたいだ」
わたしが戸惑っていると、矢坂くんが小声で補足してくれる。
「そうなんだ。なんだか、嬉しい……」
わたしはそう言って、はにかむように笑った。
スバルさんが、わたしの作ったヘルスイーツを認めてくれたことが素直に嬉しかった。
「おっしゃー。お菓子巡りに行こうぜ!」
矢坂くんの隣に並んだ藤谷くんが、元気いっぱいに声をかけてくる。
「千紗ちゃん、大丈夫?」
「うん。お菓子巡り、すごく楽しみー!」
わたしの言葉に、ベンチから立ち上がった千紗ちゃんは大きくうなずいた。
待ち遠しい気分で、くるりと周囲を見渡す。
「お菓子巡りか。この近くの店は――」
言いかけた喜多見先輩の声を、わたしの声が追い抜いた。
「喜多見先輩、任せてください! この周辺のお店は、すべて把握しています!」
あれこれ考え込まず、ただやりたいことを考えた時、その言葉しか浮かばなかった。
「最初は、この洋菓子店が近いです。イートインスペースもありますから、その場で食べることができます」
わたしは意気揚々とスマホを見せて、事前に調べていることを伝える。
目を丸くした喜多見先輩は少し考えるように、呼吸を挟んだ。
「少し不安だが、君に任せよう」
喜多見先輩はやれやれと嘆息した。
並木通りの道を歩きながら、最初の目的地を目指す。
お菓子巡り、全制覇を目指すのもいいかもしれない。
そう思いながらたどり着いたのは、かわいらしい洋菓子店だった。
春の花を飾った、どことなく温かそうな空間。
そこにまず、わたしたちは足を運んだ。
「どれもおいしそう……!」
千紗ちゃんは身を乗り出すようにして、はにかんだ。
ショーケースには、様々な洋菓子が並べられていて、見ているだけでも胸が弾む。
ショーケースの前にみんなが集まれば、早速、話に花が咲く。
「わたし、イチゴケーキ! お姉ちゃんはどれにするの?」
「うーん。わたしはカップ入りのイチゴティラミスにしようかな」
「イチゴ、おそろいだねー」
「そうだね」
千紗ちゃんが声を弾ませれば、わたしはくすぐったいような笑みを浮かべて答える。
「僕たちも注文するか」
仲睦まじいわたしたちの笑顔を目にした喜多見先輩も、ふっと目元を和らげた。
それぞれ選ぶと、奥のイートインスペースに移動する。
窓際のしゃれた席に腰を下ろすと、わくわくな時間の始まりだ。
「わあっ! ここはお菓子の世界ですか!?」
見つけられた興奮に、わたしはぱあっと目を輝かせる。
ずらりと並ぶ洋菓子のまぶしさは、物語に出てくるお菓子の世界を思わせた。
「ん、どれも悪くないな。絶品だ」
矢坂くんは、テーブルを彩る洋菓子をひとつひとつ味わっていた。
「浩二も、桃原も、甘いもの得意みたいだな」
「くっ……」
藤谷くんが洋菓子に舌鼓を打っている中、喜多見先輩だけは悪戦苦闘していた。
「んーっ。おいしーっ」
どの洋菓子もおいしくて食べやすい小さめサイズで、つい食べ過ぎてしまいそうになるのもご愛嬌。
それでも支払いを済ませて、次の和菓子店へと足を運んだ。



