そっと小指を絡ませると、双葉さんは優しく微笑む。

「私、信じている。桃原さんたちが、私の死の運命を変えてくれることを」

必死で涙をこらえるわたしに、双葉さんは穏やかに笑う。

「約束する。絶対に、ヘルスイーツの最高峰、『ヴァルト・メゾン・ショコラ』を作ってみせるから!」
「うん、待っている。桃原さん、こんな素敵な最後にしてくれてありがとう。私、幸せだったよ……」

双葉さんはそう言って、優しく微笑んだ。
それは透き通るような、心残りのない満ち足りた笑顔だった。
遊園地を出た後、双葉さんは、藤谷くんと仲睦まじげに話しながら、町中へと消えていった。

――それが、生きている双葉さんを見た最期の光景だった。



数日後、学校に登校すると、隣のクラスが騒がしかった。
覗いてみると、双葉さんが遊園地で会った時とは打って変わって、明るい声を弾ませている。
その様子を見て、わたしは悟ってしまった。

(双葉さんは……もういない。美優さんに戻ってしまったんだ……)

その事実が重くのしかかってくる。

「桃原」

不意に名前を呼ばれた。
振り返ると、そこには矢坂くんが立っていた。

「双葉さんの魂はしばらくの間、現世と完全に切り離されることなく、繋がっている状態だ」
「……うん」

矢坂くんの言葉に、わたしは消え入りそうな声でうなずいた。

「現世に留まった魂は、死んだ場所や思い入れのある場所などにいる」
「死んだ場所……。双葉さんは、病院にいるのかな」
「ああ、恐らくな」

まだ、胸が痛む。
矢坂くんに優しく微笑みかけられると、泣きたくなる。
消えない悲しみはどう扱ったらいいんだろう。

「双葉さんの結末を変えることはできなかった。だけど、桃原たちは結末を希望あるものに、『再会の約束』に変えることができた。桃原たちの言動が、双葉さんの心を動かし、幸せにしたんだ」

双葉さんに幸福が飛んでくるように、と願ってくれる。
心優しい矢坂くんに会えて良かった。
わたしは涙をこらえて前を見据えた。

「双葉さん、待っていてね。必ず、救ってみせるから」

目には涙が浮かんでいたけど、決して悲哀によるものではなかった。
わたしは強く決意を固める。

生きている双葉さんと再び、出会うために――。