「桃原さん、大丈夫? 驚かせてごめんね」
頭が大混乱を起こしていたので、双葉さんのその言葉にぎくりとする。
ああああ、ドキドキでどうにかなりそうかも。
頭の中で必死に整理していると、矢坂くんが不思議そうに訊いた。
「桃原、どうかしたのか?」
「うわあっ! 何でもない!」
わたしは熱くなった顔を冷ますように、ぶんぶんと首を振った。
(だけど、死神である矢坂くんにとって、わたしは恋愛対象になるのかな……)
春の風が、わたしの想いに色づいていく。
今にも体温が上がって、わたしの矢坂くんへの想い、ぜんぶ伝わっちゃいそうだ。
わたしの狼狽ぷりに首をかしげながらも、矢坂くんは話題を変える。
「それにしても、良夜……か」
矢坂くんは困った顔をしてため息をつく。
まるでうろたえたような様子が少し気になった。
「藤谷くんは、矢坂くんの友達だったよね」
「……ああ」
気まずそうに視線を逸らした矢坂くんは、言葉を続ける。
「良夜は面倒見はいいんだけど、いろいろと鈍いところがあるからな」
矢坂くんは遠い目をして言った。
「ふええ、鈍いところ……?」
「……恐らく、双葉さんの想いには気づいていないと思う」
矢坂くんにとって、藤谷くんの鈍いところが大きな悩みの種だったみたい。
そこでピンときた。
そんな不利な現状からでも、二人の仲が進展できる神の一手。
「だったら、二人が仲良くなれるようなきっかけを作ったらいいと思う」
「きっかけ?」
わたしの言葉の真意が見えず、矢坂くんは目を瞬かせる。
わたしはふふんと得意げに、満面の笑みを浮かべて答えた。
「今度の休日に、みんなで遊園地に行くのはどうかな?」
「そういえば、お母さんが新しい遊園地ができたって言ってた」
気合いの入るわたしに感化されるように、双葉さんも閃きを発揮する。
「少し遠いけど、この遊園地はどうかな?」
「うん、行きたい!」
魅力的な誘いだった。
一気にワクワクしてくる。
新しくできた遊園地、すごく楽しみだ。
「桃原さん、矢坂くん、ありがとう」
双葉さんは何かを思い出したように、満面の笑みに変わった。
「私、余命宣告を受けてから、どこかずっと足踏みしているところあったけど……最期まで頑張りたい。ちゃんと前に進めるように」
真剣な口調で告げる双葉さんの瞳に、決意の輝きが宿る。
「藤谷くんは、私の大事な人だから」
最期まで彼のそばにいられるなら、今までの苦しみが一瞬で報われる。
そんな眼差しで、双葉さんはわたしたちを見ていた。
「桃原さん、一緒にがんばろう」
「……うん、がんばろう。わたしもがんばるよ。矢坂くんに、わたしと同じ気持ちを抱いてもらえるように」
同調しつつも、わたしは本音を言えずにいた。
本当は心のどこかで分かっていた。
たとえ、死神見習いになっても……。
人間のわたしは、死神である矢坂くんとは決して結ばれることはない。
人間と死神を阻む壁は、あまりにも高く硬い。
それは実感している。
でも、頭で理解していても、心が追いつかない。
矢坂くんと歩む未来が見たいから。
かけがえのない奇跡を起こすような幸せがほしい。
その残酷な願いが、いつまでも心に引っかかる。
わたしは矢坂くんがいる方に、ちらりと目をやった。
この先のことを考えているのだろうか。
彼の真剣な顔を見ていると、しぼんだ恋心に光が差すようだった。
(実らない恋。……それでも矢坂くんのことが好きなことには変わらないから)
胸が痛む。
矢先くんのことを想うだけで、こんなに胸が痛くて泣きたくなる。
結ばれない運命を変えたかった。
願い事は叶う。
それを教えてくれたのは矢坂くんだったから。
昔みたいに後悔しないために、わたしにできることはなんだろう。
この時のわたしは、ただただ苦しくて、自分の本当の気持ちすら分からなくなりそうだった。
頭が大混乱を起こしていたので、双葉さんのその言葉にぎくりとする。
ああああ、ドキドキでどうにかなりそうかも。
頭の中で必死に整理していると、矢坂くんが不思議そうに訊いた。
「桃原、どうかしたのか?」
「うわあっ! 何でもない!」
わたしは熱くなった顔を冷ますように、ぶんぶんと首を振った。
(だけど、死神である矢坂くんにとって、わたしは恋愛対象になるのかな……)
春の風が、わたしの想いに色づいていく。
今にも体温が上がって、わたしの矢坂くんへの想い、ぜんぶ伝わっちゃいそうだ。
わたしの狼狽ぷりに首をかしげながらも、矢坂くんは話題を変える。
「それにしても、良夜……か」
矢坂くんは困った顔をしてため息をつく。
まるでうろたえたような様子が少し気になった。
「藤谷くんは、矢坂くんの友達だったよね」
「……ああ」
気まずそうに視線を逸らした矢坂くんは、言葉を続ける。
「良夜は面倒見はいいんだけど、いろいろと鈍いところがあるからな」
矢坂くんは遠い目をして言った。
「ふええ、鈍いところ……?」
「……恐らく、双葉さんの想いには気づいていないと思う」
矢坂くんにとって、藤谷くんの鈍いところが大きな悩みの種だったみたい。
そこでピンときた。
そんな不利な現状からでも、二人の仲が進展できる神の一手。
「だったら、二人が仲良くなれるようなきっかけを作ったらいいと思う」
「きっかけ?」
わたしの言葉の真意が見えず、矢坂くんは目を瞬かせる。
わたしはふふんと得意げに、満面の笑みを浮かべて答えた。
「今度の休日に、みんなで遊園地に行くのはどうかな?」
「そういえば、お母さんが新しい遊園地ができたって言ってた」
気合いの入るわたしに感化されるように、双葉さんも閃きを発揮する。
「少し遠いけど、この遊園地はどうかな?」
「うん、行きたい!」
魅力的な誘いだった。
一気にワクワクしてくる。
新しくできた遊園地、すごく楽しみだ。
「桃原さん、矢坂くん、ありがとう」
双葉さんは何かを思い出したように、満面の笑みに変わった。
「私、余命宣告を受けてから、どこかずっと足踏みしているところあったけど……最期まで頑張りたい。ちゃんと前に進めるように」
真剣な口調で告げる双葉さんの瞳に、決意の輝きが宿る。
「藤谷くんは、私の大事な人だから」
最期まで彼のそばにいられるなら、今までの苦しみが一瞬で報われる。
そんな眼差しで、双葉さんはわたしたちを見ていた。
「桃原さん、一緒にがんばろう」
「……うん、がんばろう。わたしもがんばるよ。矢坂くんに、わたしと同じ気持ちを抱いてもらえるように」
同調しつつも、わたしは本音を言えずにいた。
本当は心のどこかで分かっていた。
たとえ、死神見習いになっても……。
人間のわたしは、死神である矢坂くんとは決して結ばれることはない。
人間と死神を阻む壁は、あまりにも高く硬い。
それは実感している。
でも、頭で理解していても、心が追いつかない。
矢坂くんと歩む未来が見たいから。
かけがえのない奇跡を起こすような幸せがほしい。
その残酷な願いが、いつまでも心に引っかかる。
わたしは矢坂くんがいる方に、ちらりと目をやった。
この先のことを考えているのだろうか。
彼の真剣な顔を見ていると、しぼんだ恋心に光が差すようだった。
(実らない恋。……それでも矢坂くんのことが好きなことには変わらないから)
胸が痛む。
矢先くんのことを想うだけで、こんなに胸が痛くて泣きたくなる。
結ばれない運命を変えたかった。
願い事は叶う。
それを教えてくれたのは矢坂くんだったから。
昔みたいに後悔しないために、わたしにできることはなんだろう。
この時のわたしは、ただただ苦しくて、自分の本当の気持ちすら分からなくなりそうだった。



