――誰だって、一つは持っている。
絶対に叶わないと知っている『願い』を。

世界中で、薬が不足していた――。

病院や薬局で、必要なお薬の入手が困難な状況が続いている。
そんな深刻な事態に、お薬を作っている人たちが話し合って、別の切り口で攻めることにした。
薬と同じ効果を持ったものを、探し出そうという流れになった。
その過程で、彼らはお薬と同じ効果、もしくはそれ以上の効能を期待できるものに目をつけたんだ。

死神により生み出された、プラシーボ効果のあるお菓子『ヘルスイーツ』。

プラシーボ効果とは、薬の効果のない偽薬(プラセボ)を服用しても、患者自身が『この薬は効果がある』と思い込むことで、症状が改善してしまうこと。
『ヘルスイーツ』は、その効果を最大限に活かしたお菓子だ。
しかもお薬と同じくらい、日持ちする。
そのお菓子は瞬く間に売れ、世界中が抱えていたお薬不足を少しずつ解消していった。
わたしは将来、そんなヘルスイーツに関わる仕事に就きたいと思っていた。
でも、ヘルスイーツを作ることができるのは死神の弟子になれた人間だけ。
だから正直、夢のまた夢だろうな、と思っていた。
でも今、わたしはそんなすごいヘルスイーツ作りと死神の仕事に関わっている。

『桃原は、俺に出会うために生まれてきたんだ』

あの時、わたしは生まれて初めて、誰かに認めてもらえたって心から思えたんだ。