え?うそだろ?
よりによってこのタイミングで!?
クレアは開いたままのドアのそばで、棒立ちになっている。
いつもは愛嬌のある黒くて丸い瞳はいっぱいに見開かれ、痛々しいくらいだ。
そりゃそうだろう。
見知らぬ青い髪の女性が子供部屋に侵入しただけでも大ごとなのに、その女性がわすれな草だったなんて。
「あだあだあうあうあだだだだ!!」
僕は仰向けのまま、首だけを入り口のクレアに向ける。
そして両手を握ったり閉じたり、手まねしたりして、慌てて事情を説明した。
ああ、こんな時、片言しかしゃべれないのがもどかしい!
僕の片言を懸命に理解しようとクレアもがんばってくれている。
その証拠に、モップの柄を胸の前でぎゅっと握りしめ、眉間にしわを寄せ真剣そのものだ。
数分後、懸命に説明し終えた僕は疲れ果てて、顔の上に上げていた両手を下ろす。そしてクレアの反応をうかがった。
どうだ?わかってくれたか通じたか……?
「……どうやら、坊ちゃまの秘められたスキルが覚醒したようですね……」
わかってくれたあぁぁあぁ!!
ありがとうクレアアアアァァーーー!!!!
「坊ちゃまは、神の御子にまちがいありません!」
え?そんな大げさな……。
「すごいです!坊ちゃまあああぁあぁ!!」
クレアはそう叫ぶと、モップを床に振り捨てた。そして僕に向かって何のためらいなく突進してきたのだ。
「さすがわたくしのマリウス様ですわ!なんてお利口さんなのでしょう!!」
わっ!わっ!や、やめてよう~!!
クレアは僕を赤ちゃんベッドから抱き上げると、いい子いい子と頬ずりした。
彼女のほっぺたはすべすべして気持ちいい。ほんのりと優しい香りがする。
でも、恥ずかしいよ!いい加減放してよ~!!
「あうう~!!」
「まあ、痛かったですか?すみません。わたくしとしたことが、いささか興奮してしまいました」
いささかじゃないよ!大興奮だよ!
でもスキルを持ってるって、そんなにすごいことなのかな?
「不思議そうなお顔をされていますね。ではわたくしがご説明いたしましょう」
ようやく落ち着きを取り戻したクレアは、僕をベッドに戻すと何やら講釈し始めた。
「スキルを持つ人間はほんの一部の恵まれた人だけです。とても貴重な人的資源なのですよ」
人的資源なんて、難しい言葉を知っててえらいね。クレア。
「ですから人的資源は、王国のために有効活用されなければなりません」
え?ちょっとまって。
だんだん熱を帯びるクレアの口調に、嫌な予感がする。
「スキルが覚醒するのは一般的には10才前後。早くても6才くらいです。このクレアなどもうすぐ16歳ですが、まったく目覚める気がしません!」
なぜか彼女は誇らしげに腰に両手を当て胸を張る。
なんでそんなに、うれしそうなの?
「寂しいですが、坊ちゃまともお別れですね」
え?なんで?
「申し上げましたように、赤ちゃんが覚醒したのは前代未聞!マリウス様の能力を詳しく鑑定するために、王立鑑定士協会のえらい先生方が大挙して派遣されるはずです。さらにスキル保持者向けの英才教育を行うために、王国が直接坊ちゃまを養育するでしょう」
えー!何それ!?
僕はこの家を出ていかなくちゃいけないの!?
ヤダよ!家族と離れるなんて!!
「マリウス様は侯爵家のご長男にして、王国初の赤ちゃんスキル保持者!まさに生まれながらにエリート街道まっしぐらでございますよ!!」
いやだーーー!!
そんな街道走りたくない!
スローライフの夢が木っ端微塵に砕けてゆくぅううーーー!!
「早速、旦那様と奥様にこの朗報をお知らせしなくては!」
クレアは頬を上気させ、いそいそと子供部屋を出て行こうとした。
やめてぇーーー!クレアァァ!!
働きたくない目立ちたくない戻りたくない社畜にだけは……!!
「いだだだいややいややいややややーーー!!」
僕は、抵抗した。
赤ちゃん専用ベッドの中で手足をバタつかせて、落下防止の柵も砕けよ、という勢いでコロンコロンコロンと激しく寝返りを打つ。
埃を立てながら激しく反抗すること5分後。
僕が疲れでグッタリしたところで、ずっと無言だったクレアは重い口を開いた。
「もしや、マリウス様……。このクレアと離ればなれになるのがお嫌なのですか……?」
え?まあ、そういう感じも少しはあるけど……。
真面目な顔で腕組みしながら僕を見つめていたクレアだったが、次第にウルウルと涙を浮かべ始めた。
「ぼっ、坊ちゃまったら……」
クレアはそう言うとベッドの上にぐっと身を乗り出した。そして僕を両手で抱き上げると、自分の胸にぎゅっと押しつけてきた。
くっ……苦しい!ちっ……ちょっと待ってよ……!
「なんてわたくしは無神経なのでしょう!マリウス様は侯爵家のご長男とはいえ、まだまだ幼子!母とも慕って下さるお方を他人の手に委ねようとはバチ当たりなことでございました!」
クレアが勘違いして何か言っている。
だけど何だか気が遠くなってゆ……く……。
「あ?マリウス様?お顔が真っ赤になっています!?」
やっと気がついたクレアが胸から離した時、僕は窒息寸前だった。
「うう~~~っ」
クレア、恐ろしい子。
よりによってこのタイミングで!?
クレアは開いたままのドアのそばで、棒立ちになっている。
いつもは愛嬌のある黒くて丸い瞳はいっぱいに見開かれ、痛々しいくらいだ。
そりゃそうだろう。
見知らぬ青い髪の女性が子供部屋に侵入しただけでも大ごとなのに、その女性がわすれな草だったなんて。
「あだあだあうあうあだだだだ!!」
僕は仰向けのまま、首だけを入り口のクレアに向ける。
そして両手を握ったり閉じたり、手まねしたりして、慌てて事情を説明した。
ああ、こんな時、片言しかしゃべれないのがもどかしい!
僕の片言を懸命に理解しようとクレアもがんばってくれている。
その証拠に、モップの柄を胸の前でぎゅっと握りしめ、眉間にしわを寄せ真剣そのものだ。
数分後、懸命に説明し終えた僕は疲れ果てて、顔の上に上げていた両手を下ろす。そしてクレアの反応をうかがった。
どうだ?わかってくれたか通じたか……?
「……どうやら、坊ちゃまの秘められたスキルが覚醒したようですね……」
わかってくれたあぁぁあぁ!!
ありがとうクレアアアアァァーーー!!!!
「坊ちゃまは、神の御子にまちがいありません!」
え?そんな大げさな……。
「すごいです!坊ちゃまあああぁあぁ!!」
クレアはそう叫ぶと、モップを床に振り捨てた。そして僕に向かって何のためらいなく突進してきたのだ。
「さすがわたくしのマリウス様ですわ!なんてお利口さんなのでしょう!!」
わっ!わっ!や、やめてよう~!!
クレアは僕を赤ちゃんベッドから抱き上げると、いい子いい子と頬ずりした。
彼女のほっぺたはすべすべして気持ちいい。ほんのりと優しい香りがする。
でも、恥ずかしいよ!いい加減放してよ~!!
「あうう~!!」
「まあ、痛かったですか?すみません。わたくしとしたことが、いささか興奮してしまいました」
いささかじゃないよ!大興奮だよ!
でもスキルを持ってるって、そんなにすごいことなのかな?
「不思議そうなお顔をされていますね。ではわたくしがご説明いたしましょう」
ようやく落ち着きを取り戻したクレアは、僕をベッドに戻すと何やら講釈し始めた。
「スキルを持つ人間はほんの一部の恵まれた人だけです。とても貴重な人的資源なのですよ」
人的資源なんて、難しい言葉を知っててえらいね。クレア。
「ですから人的資源は、王国のために有効活用されなければなりません」
え?ちょっとまって。
だんだん熱を帯びるクレアの口調に、嫌な予感がする。
「スキルが覚醒するのは一般的には10才前後。早くても6才くらいです。このクレアなどもうすぐ16歳ですが、まったく目覚める気がしません!」
なぜか彼女は誇らしげに腰に両手を当て胸を張る。
なんでそんなに、うれしそうなの?
「寂しいですが、坊ちゃまともお別れですね」
え?なんで?
「申し上げましたように、赤ちゃんが覚醒したのは前代未聞!マリウス様の能力を詳しく鑑定するために、王立鑑定士協会のえらい先生方が大挙して派遣されるはずです。さらにスキル保持者向けの英才教育を行うために、王国が直接坊ちゃまを養育するでしょう」
えー!何それ!?
僕はこの家を出ていかなくちゃいけないの!?
ヤダよ!家族と離れるなんて!!
「マリウス様は侯爵家のご長男にして、王国初の赤ちゃんスキル保持者!まさに生まれながらにエリート街道まっしぐらでございますよ!!」
いやだーーー!!
そんな街道走りたくない!
スローライフの夢が木っ端微塵に砕けてゆくぅううーーー!!
「早速、旦那様と奥様にこの朗報をお知らせしなくては!」
クレアは頬を上気させ、いそいそと子供部屋を出て行こうとした。
やめてぇーーー!クレアァァ!!
働きたくない目立ちたくない戻りたくない社畜にだけは……!!
「いだだだいややいややいややややーーー!!」
僕は、抵抗した。
赤ちゃん専用ベッドの中で手足をバタつかせて、落下防止の柵も砕けよ、という勢いでコロンコロンコロンと激しく寝返りを打つ。
埃を立てながら激しく反抗すること5分後。
僕が疲れでグッタリしたところで、ずっと無言だったクレアは重い口を開いた。
「もしや、マリウス様……。このクレアと離ればなれになるのがお嫌なのですか……?」
え?まあ、そういう感じも少しはあるけど……。
真面目な顔で腕組みしながら僕を見つめていたクレアだったが、次第にウルウルと涙を浮かべ始めた。
「ぼっ、坊ちゃまったら……」
クレアはそう言うとベッドの上にぐっと身を乗り出した。そして僕を両手で抱き上げると、自分の胸にぎゅっと押しつけてきた。
くっ……苦しい!ちっ……ちょっと待ってよ……!
「なんてわたくしは無神経なのでしょう!マリウス様は侯爵家のご長男とはいえ、まだまだ幼子!母とも慕って下さるお方を他人の手に委ねようとはバチ当たりなことでございました!」
クレアが勘違いして何か言っている。
だけど何だか気が遠くなってゆ……く……。
「あ?マリウス様?お顔が真っ赤になっています!?」
やっと気がついたクレアが胸から離した時、僕は窒息寸前だった。
「うう~~~っ」
クレア、恐ろしい子。


