パーティーもお開きになったところで、招待客はそれぞれ送迎車で帰る者やまだ少し残っている者などさまざま。

「あら、他の出席者に挨拶もしないどころか逃げ出した非常識のおバカさん、まだいたの?」
「………」
いつの間にか居なくなっていた椿が近寄って来た。元々、影が薄いとはいえ、妃月にとっては目に入るだけで腹が立つのだ。

「帰るわよ、明日は学校だし」
「はい」
汐倉の送迎車まで歩く。

「妃月お嬢様、お疲れ様でした。良き出会いはございましたか?」
「手応えはわりましたわ」
運転手は後部座席のドアを開ける。
椿の方をチラっとみる。
穢らわしい椿なんかと同じ車に乗るなんて不愉快だと別々に車をだしてもらった。

椿が困った顔をしながらこちらにやってくる。
予想通りだ。
「妃月様、私の送迎車がまだいらっしゃってないのですが……」
「だから?なぁに?まさか一緒に乗せてなんて言わないわよね」
「…いえ。連絡をしていただけませんか?」
「なんで私がそんなことをしなきゃいけないの」
「でしたらタクシー代だけお貸しいただけませんか?」
「嫌よ。歩いて帰りなさい」
「そんな……」
ニヤニヤ笑う妃月と困惑している椿。

妃月は車に乗り込み、運転手に出発するように伝える。
「……妃月様っ!」
困惑する椿の顔が可笑しくてたまらない。
(ざまぁないわね。パーティーの時の門限は22時まで。私でも過ぎれば怒られるんだから、椿はどうなるのかしら。間に合うといいわねぇ〜)

「…………」
妃月の車が見えなくなるまで立ちつくした椿。



        ✱✱✱✱✱
招待客全員がいなくなり、撤退作業をしている会場。
ゴロンと倒れる花京院当主。
作業員が心配そうにしていたが頼朝が「いつものことです」と作業に戻らせる。

「親父、そのクセやめろよ。マジで恥ずかしいから」
「ええ〜!僕はパーティー苦手なんだよ!コミュ障なの!頑張りすぎちゃったんだもん」
「40すぎのおっさんがだもんとか使うな。気持ち悪い」
床でただを捏ねる花京院当主に呆れる頼朝。
「息子のためだからね」
「迷惑ですよ。父さん」
頼久が小学生くらいの子を抱っこしながらやってきた。後ろには美男美女のカップル、更に後ろには左京右京が控えている。

「パパ〜」
頼久から降りて花京院当主の元に駆け寄りハグ。
「僕の可愛い純《いたる》!それに直純《なおずみ》に彼女さんも今日はお疲れ様〜」
「今日は楽しめましたよ、父様」

花京院直純(かきょういん・なおずみ)。
花京院家の次男。大学生の19歳。優しい穏やかな美男子で同じ年の婚約者がいる。

花京院純(かきょういん・いたる)。
小学一年生・6歳。花京院家の末っ子。甘えん坊で両親と年の離れた兄たちから可愛がられてヤンチャに育っている。

頼久は花京院家の長男、頼朝は花京院家の三男。

そして花京院頼利(かきょういん・よりとし)。
四兄弟の父で花京院家の当主。地味にダラダラ暮らしたいだらしない性格。
四兄弟の母であり妻の純子とはラブラブである。

「兄様、収穫はありましたか?ついでに頼朝はどうだい?」
「……ああ」
「ねぇよ。ブスばっか」
婚約者のいる直純は楽しそう。
「頼久いたのー!紹介してよ〜」
即座に反応する頼利。
頼久は面倒くさいなと目を反らし窓に目をやる。

「………!」
頼久が突然、走り出すと左京右京も主人である頼久を追い掛けた。
「なんだい?」
「外になんかあったんじゃねぇの?」
頼朝たちが窓から外を眺めるも招待客が帰る様子だけで変わったことはない。

「おやおや」
ふふっと微笑ましそうに笑う直純。
頼久は和服の女性に話かけると自分の送迎車に乗せた。
「兄様、さっそくお持ち帰りかい。意外とやるね」
「あの子が?良かった〜これでもうパーティーしないで済むよ〜〜」
「そっちかよ。嫌なら最初からやるなよ」
喜ぶ頼利にツッコむ頼朝。