「ふふっ。あ…失礼しました」
思わず微笑ましくて笑ってしまった。
「構わんさ」
「どうして私なんかに声を掛けてくださったのですか?」
「パーティー会場で目にはいったからだな。着物姿の年配女性はちらほらいるが、若い女で着物姿で……とても暗い顔をしていた」
「……あ。相応しい振る舞いではありませんでしたね」
椿は暗い顔をし下を向く。
頬に暖かいものが触れると顔をあげる。
頼久が椿の頬を優しく撫でる。

「そんな顔をするな、綺麗な着物が泣くぞ」
「はい……」
祖父母が「優美なあなたにピッタリ」と言ってわざわざ選んでくれた椿の着物。
「何かの縁だと思って連絡先交換しないか?」
「え…あ…あの……」
頼久がスマホを出す。
それを見た椿は慌てる。
「ん?嫌だったか?」
嘘を付くのは苦手なので本当のことを言うことにした。
「私、スマホ持っていません。両親から禁止されてまして……」
「今どきに?珍しいな」
本当は買ってもらえない。
世間体を気にしているので必要最低限は用意してもらえる。
だがスマホは贅沢品のため買ってもらえない。
連絡先を交換する友達もいないし、持っていて妃月に壊されるか奪われる。

スッと頼久は紙を出す。
「俺の連絡先だ。困ったことがあったら公衆電話からでもいいから掛けてこい」
「はいっ!ありがとうございます!」
目に涙が溢れそうだった。
初めて連絡先を教えてくれた人、こんなに優しくしてもらえて嬉しかった。

「ご談笑中失礼致します。そろそろお戻りになられませんと……」
「左京…わかっている。椿、一緒に戻るか?」
ため息をつきなが嫌そうな頼久。

「私は外の空気を吸っていきます」
「そうか。パーティーも終盤だから少ししたらちゃんと会場に戻るんだぞ」
頼久と左京右京と共に去っていった。

「ふぅ……風が気持ちいいな」

椿は胸に手を当てるとなんだか暖かくてドキドキしている。

「また会いたいな」