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ため息がこぼれた。
「こんなに人が多いなんて思わなかった。目が回りそう……」
椿はパーティー会場から抜け出し、外の庭園まで出てきた。
庭園には一面の薔薇。
ギラギラした明るく綺羅びやかなパーティーより程よい明るい庭園の方が好きだった。
「落ち着く……」
「本当にな……っといかん」
横から聞こえる男性の声、いつの間に。
「こんばんは、マドモアゼル。今宵は楽しんでいただけてますか?」
「………はい」
男性は胸に手そえニッコリと微笑む。
男性は長身で袴、流し目のキリッとした美男子。見た目二十歳前半くらいだろうか。
「和服でマドモアゼルとか似合わないっスよ〜」
「そうだな」
男性の後ろにいた執事らしき男性がツッコむ。
「お邪魔しました」
立ち去ろうとすると手を掴まれる。
「パーティーは苦手でな。話し相手になってはもらえないだろうか」
「……はい」
薄暗くともわかるくらい男性の目力が強く、断われないと感じた。
「あそこで飯でも食うか」
指を指したのは庭園の中央にあるオシャレな洋風のガゼボ。
男性は暗いからと椿の手を引いてくれた。
男性の手の暖かさと優しさに心がほっこりした。
ガゼボに付き、イスに座ると男性と目が合う。
「………」
「…………」
無言のままで椿は何を話していいかわからず下を向いた。
「名前を聞いてもいいか」
「はい、汐倉椿と申します」
「椿……とても可憐な名前だな。俺はか……頼久だ」
「頼久様、素敵なお名前ですね」
名前の響きが綺麗だ。
「失礼だが年は?」
「16です」
「俺は20だ。もうすぐ21になるがな」
「大学生ですか?」
「ああ。親父がな、自分もそうだったからと学生結婚しろとかうるさいんだ」
「結婚ですか…」
(今日のパーティーは表向きはただの社交パーティーで本当は花京院様のご子息のお相手探し……他の男性参加者もそれを目的にいらっしゃった?)
「だが………」
頼久が何か言おうとしていた。
「おまたせしゃしたー!」
「おい、主人の邪魔をするな!馬鹿者め!」
明るい声でパーティー会場から持ってきた料理をテーブルに並べる執事らしき男性二人。
「……ちっ」
「ありゃ?よくわっかんないスけどぉ〜さーせんしたぁ〜」
片方の男性は首をひねりながらとりあえず雑に謝り、もう一人の男性はお尻をバシンと叩いて怒った。
「こいつらを紹介しておく、こいつらは俺の執事の左京と右京だ」
「お嬢様、こんばんは。オレは右京っス。頼久とは同級生っス」
お尻をさすりながら元気に挨拶。
人懐っこい大型ワンコっぽい。
「私は左京。宜しくお願い致します。この右京とは双子です」
フッと笑う左京。
「あの…もしかして女性ですか?」
「はい、この姿をしているのでよく間違われますね」
左京は170cmほどの長身でクールビューティーのイケメン女子。
「は〜姉ちゃんは真面目だからなぁ〜オレはケツ叩かれてばっか」
「同級生とはいえ主人なんだ、身分を弁えろ」
「同級生?」
「そっ。頼久と左京とオレは仲良し同級生トリオなんだ〜」
「お前、言ってるそばから失礼なことをするんじゃない!」
「………」
頼久の表情もまんざらではなさそう。
「まぁ、色々あってな。そんなことより料理をいただくとしようか」
「はい、そうですね」
椿は仲良しの姉弟、仲良しの同級生…なんだか羨ましいと感じた。
せめて姉の妃月とこんな冗談をいう仲になりたかったと心のどこかで思っていた。



