水仙と椿

「お父様…お世話になりました。きっと今日が今世の別れですわね」
「ああ……」
あの後、妃月は入院。
怪我が完治するまで汐倉家にいることを許され、完治したことで出ていくことになった。
父親にもう一度やり直せないか何度も懇願したが、意志が固いようで何も言ってくれない。
妃月は諦めることにした。

妃月の新しい住まいは一人暮らしには丁度いいマンション。
母親は警察にお世話になることになり、今は精神的な治療で入院中。
治療費は自分が原因だからと父親持ちになった。
完治まで何年かかるかわからない。

全て椿のせいだと校内を探したが妃月の入院中に転校していた。
(……私、何も悪くないじゃない。なのに椿ばかり幸せになるなんて……)
拳を強く握り、父親と使用人に頭を下げ汐倉家を後にした。


        ✱✱✱✱✱
「素敵な中庭ですね、頼久様」
「そうだろう」
椿と頼久は頼久の屋敷の広い中庭を散歩していた。
花も多く咲いており飽きない風景で心も癒やされた。
椿は頼朝のいる学校へ転校。頼朝と同じクラスなので安心した環境になった。
友達もできて、成績もぐんと上がっていた。
今までは妃月や汐倉家のことが椿の大きなストレスになっていたようで本来の力を発揮させられずにいた。

「あ、水仙!」
中庭でひっそりと咲く水仙に近づく椿。
「水仙か…そういえば椿の姉は水仙の姫君と呼ばれていたな」
「妃月様ですね。学校にいらっしゃらなくて最後の挨拶ができませんでした」
転校する最後の日に一言挨拶をと思って妃月のクラスを尋ねたが休んでいたようで会えなかった。
汐倉家に行こうとしたが頼久に止められてしまった。
「椿にはまだ伝えていなかったな」
頼久は妃月のこと、汐倉家のことを話した。
「私のせい…ですね…私がいなかったら幸せだったのに……」
椿は話を聞き終え、悲しんだ。
「自分を責めるな。お前は悪くない。ただあの両親も姉もおかしかったんだ。頼朝が姉と母親はクズで父親はさらにゴミカスだと言って軽蔑していたからな」
相変わらず頼朝は口が悪い。
頼久からすれば頼朝の言ったことは的を得ている。

「直純から聞いた、水仙の花言葉のままの女だったな」
直純は花京院家の次男で頼久の弟だ。
「頼久様、知っていますか?水仙には悪い花言葉ばかりではないんです。黄色の水仙は"もう一度私を愛して”です。きっと妃月様は新しい人生、妃月様を愛してくださる方が現れますよ」
「ふっ。優しいな椿は。椿も花言葉のままだ」
椿の花言葉は控えめな優しさ、気取らない優美さ、そして最高の愛らしさ。
頼久にとっては憎むべき相手にすら優しさをみせる椿が愛おしく感じていた。
きっかけは椿の着物に目を魅かれたら、椿を愛しい存在になっていた。

「妃月様はお強いですから」
椿は水仙の花を見つめた。