ホームルームを終えた妃月。
校門前が騒がしい。
(頼久様！)
校門前に腕を組みながら執事と椿を待っているようだ。
妃月は他の生徒らの前のため、お上品かつ自信満々に頼久に近づく。
「頼久様、ごきげよう」
「………」
昨晩、椿を泣かせた原因の一人である妃月に無言で冷たい視線をおくる。
妃月は一瞬怯むが女子生徒が「花京院様のご子息と親しい」「妹さんより華があってお似合い」など声が聞こえ持ち直す。

「頼久様、聞こえましたか？頼久様には私の方が椿より相応しいですって。上流階級の方はわかるものですわね」
「何が言いたい……」
「椿に騙されているんですわ。椿の母親は私の父を誘惑した穢らわしい女の血が入っているんです。おかげで私たち家族がバラバラになりかけたのですわ」
「………」
頼久の表情が読めない。なにを考えているかわからないが椿に対して疑念があるならもう一押ししてみることにした。
「私は一族から水仙の姫君と呼ばれるほどの技量を持っております。花京院家を支える良き伴侶になれますわ」
妃月は頼久に笑いかける。
これで頼久は落ちるはずと笑顔に自信に満ちていた。

「黙れメス豚ごときが」
「……なっ！？」
頼久ではない男の声。
頼久の弟・頼朝だ。
「おい兄貴、こんな奴の話信じてないよな」
「当然だ」
パーティーの時から頼朝は口が悪い。
「っーか、水仙の姫君って…くくくっ…あはははっ」
口を押さえて笑っていたが耐えられず笑い転げそうなほど爆笑する頼朝。
「な…な…なななっ……」
(私、何も可笑しい事言ってないじゃない！)
顔が湯気が出そうなほど真っ赤に染まる。
妃月はこんな笑い者にされた侮辱を受けたのは初めて……いや、パーティーの時にも頼朝に消えろブスと言われ二度目だと思い出し、怒り怒鳴りたいが花京院の者を怒らせば自分や汐倉家が危ないと悔しそうにしながら黙った。