水仙と椿

さて、どうするかと悩みながら移動教室へ。廊下で椿と鉢合わせ。
椿は妃月に気づくと深く頭を下げ、立ち去ろうとする。
「待ちなさいよ。いいご身分じゃない。私のクラスでもアンタが花京院様のフィアンセだとか騒がれてるのよ」
「………」
目を丸くしている椿。なぜ知っているのかという顔だ。
「アンタが花京院様のフィアンセだとか色々ふらして人気者にでもなりたかったのかしら〜?本当に小賢しい女!」
妃月は頼久とパーティーで見掛けたという女子生徒の話しを聞いただけでおそらく他のクラスの子たちも同じように見掛けたりして知り、話が広まったのだろうが、椿が言ったということにして虐めてやりたかった。

「…わたし………くぅ!」
椿の頬にバシンと強いビンタがとぶ。
「喋るなって言ったわよね。……あら、ごめんなさい。聞かれたことだけ喋べっていいんだった。忘れてた〜」
クスクスと笑う。

「私、クラスメイトから花京院様と繋がりが出来て羨ましいとか自慢の妹だとか言われて屈辱だわ」
学校でなかったらもっとお仕置きをしていくらいだった。
「ねぇ、頼久様の電話番号とかSNSのアカウントとかなんでもいいからよこしなさいよ」
「私はスマホ持っていませんので知りません」
「そうだったわね。本当、役立つなんだから」「も、申し訳御座いません…」
椿は頼久の連絡先のメモを貰ったが嘘をついた。嘘は苦手なのでバレないか内心ドキドキしていた。

「申し訳ないって思うなら私がどれだけ頼久様に相応しいかプレゼンしてくれない?」
「え?」
「まさか嫌なんて言わないわよね?だって申し訳ないんでしょ?口だけだった?アンタが頼久様を騙したとかアンタの母親が私のお父様を誘惑したって噂流しちゃおうかしらね〜うふふっ」
「そんな……」
椿の顔色が悪くなり下を向く。
ニヤニヤと笑う妃月。
お嬢様学校なので箱入り娘で世間知らずなのか潔癖な女子生徒が多い。
あの花京院を騙したとか椿の母親と妃月の父親の不倫の話をすればどうなるか椿も想像つくだろう。
妃月からすれば椿がどちらを選んでも都合の良い展開だ。

「わかりました…妃月様のこと頼久様にお伝えします」
「頼んだわ。一度だけじゃなく何度も伝えなさいね」
丁度、授業が始まるチャイムが鳴り別れた。