水仙と椿

頼久に夕食に誘われた。
門限はパーティーの時は22時、通常は19時。
左京が汐倉家に連絡してくれた。
帰りは頼久が一緒に挨拶がてら家まで送ってくれるとのことで他者と一緒ならば罰を与えられないだろうと椿はゆっくり食事を楽しんだ。


一方、汐倉家。
「椿がどなたかとお食事されてから帰るそうですよ」
妃月たちは夕飯真っ最中に、古株の使用人から伝えられる。
妃月たちは若い使用人にはいい顔をするが、古株の使用人たちは椿の事情や妃月たちが虐げている事を知っていて止めることはしない。
「あら、生意気だこと」
妃月の母親は口を拭きながら眉をあげる。
「どなただったの?」
「声の低い…男性のような女性のような中性的な感じでしたね」
「はっきりしないわね」
妃月はふと考える。根暗の椿には友人もいないし祖父母は可愛がっているものの、祖父母であれば使用人が伝えるはず………椿の知り合いといえば……。

「頼久様ね!」
「名乗っておりませんでしたので……」
「電話番号は?」
「汐倉家は黒電話ですので、番号表示はされません」
「…ったく、役に立ちませんわね」
頼久の連絡先が入手できるかと思ったのだが、黒電話であることを呪った。
固定電話に掛かってくるのは父の仕事関係者ばかりなことと、携帯電話が主流なので気にしなかった。

「頼久とは誰だね?箕輪様や花京院のご子息はどうした?」
父親は娘が素性のわからない男に興味を示しているのが気になるようだ。
「頼久様はこの間のパーティーで椿を送ってくださった方です。私のタイプでして、何かご存じありませんか?」
「頼久ねぇ……知らないな」
「なんですか、その間は!」
妃月はジトっと父親をみるが父親は笑ってごまかす。父親は「頼久」という名を一人だけ知っていたが妃月のいう「頼久」とは別人の可能性もある。
父親が知っている方であれば妃月が暴走しかねないと黙った。

父親は食事の席に立ったが妃月と母親は食後のデザートを食べていた。
「やっぱりお爺様にお会いしようかしら」
「なぜ?」
母親は祖父母が苦手なため妃月に関わってほしくないようだ。
「花京院様の連絡先欲しいのですわ」
「箕輪様や花京院のご子息は駄目とか頼久だったかしら?その方がいいとか…はっきりしない子ねぇ…」
母親はため息をつきながら頬に手をおく。
「箕輪様は興味ありません。よくてキープです。本命は頼久様です。頼久様がどこのご子息かによりますが、場合によってはうちの婿養子になっていただきたいです。花京院様の方は………」
妃月は頼朝に「ブス」だの「ババア」と言われたことを思い出す。
顔や家柄は悪くないが、年下で口が悪い。
惚れさせてやると火が着いてはいるものの頼久を目にした後は優先順位が変わったくらい。
「一応ですよ」
「まったくお盛んだこと……」
母親は父親のように本妻とは別の女を作るような子にはなってほしくないなと呆れている。

そんな中、使用人から椿が帰って来たと伝えられる。
いつもなら興味がなく、はいはいと適当なのだが、どうやら椿と一緒に食事したという方が家族に会って挨拶がしたいという。
世間体を気にする母親は笑顔で迎え入れることにした。妃月は椿と食事する相手に興味があり同席することに。ちなみに父親は入浴中。