放課後、外がなんだか騒がしい。
「なんの騒ぎですの?」
「妃月さん、校門前にとても美麗な殿方がいるとかなんとか……」
クラスメイトに話を聞いて、妃月も窓から覗く。遠くからではわからないが、男性が校門前で高級車に寄りかかっている。
隣には二人の執事と何やら喋っていた。
イケメンというのだから近くで見る価値があるだろうと下校がてら、見に行くことにした。

「よ、頼久様?」
「誰だ?」
「汐倉妃月ですわ!」
騒がれていたイケメンは頼久だった。
頼久レベルのイケメンなら騒がれるのもわかる。
頼久は妃月のことを眼中に無かったため、忘れていたが、妃月は忘れられないほどの見た目の好みがドンピシャの相手。

「本日は学校に何かご用で?」
「学校に用はない。椿を待っている」
「椿………」
頼久は妃月に目を合わせず、帰宅する生徒ばかり見ている。その中に椿がいないかと探しているのだろう。
「お前は椿の使用人だろう?椿を連れて来てくれないか?」
「なっ!?」
"使用人”という言葉にモヤモヤが湧く。昨晩、汐倉の長女だと名乗ったはず。
自分の風貌のどこが使用人なのか…と言葉を失う。
下校中の生徒からクスクスと笑い声。

(なんで私が椿の使用人なのよ!ありえない、ありえない!……いや、落ち着け。私好みのイケメンとお近づきになれるチャンス!花京院の御曹司も捨てがたいけど…あんなヤバ男だし…この際、頼久様が良い所の御曹司なら……)
ニヤニヤしながらブツブツと考えている妃月。
その間も頼久の目は椿を探している。

「椿は私の妹ですわ。椿は先に帰ったのかもしれません」
「そうか」
「ちょっとお待ち下さいませ!」
椿がいないとわかるとさっさと車に乗ってしまう頼久を引き留める。
「うちに寄って行きませんこと?椿もいるかもしれません」
「そうだな、邪魔する」
「では……」
妃月も一緒に乗ろうとするがパタンとドアが閉まってしまった。
「頼久様は〜自分の送迎車使えって言ってるんスよ〜すいませんね〜」
右京が妃月を止める。
仕方なく、学校の隣にある学校関係者専用の駐車場に行き、妃月は自分の迎えの車に乗る。

(いつ会えるかわからないイケメンを逃してたまるか。まずは連絡先と素性…あわよくば………その前に椿を排除しなければ)