「この役立たず!」
華子の声が、母屋に響く。任務を失敗した、刺客のせいだ。せっかく雇ったのに、使えないなんて馬鹿馬鹿しい。
華子はひどく立腹していた。碧高は玉を割られ才を失うどころか、再び葉子を助けたという。
(瑞祥は跡取りがないことを危惧しているから、お姉様は守られて当然ということかしら)
それにしても、憎いのは葉子だ。自分の命に背き、玉を割らなかった。
葉子の心変わりがあるなら、彼女ごと消し去るのみだ。だがそのためには、再び頭を働かせなければならない。華子はそれで、余計に苛立つ。
だけど、しなければならない。自分が一番になるために。この帝都を、自分のものにするために。
「才なしのくせに」
華子はぽつりと呟くが、その瞳は憎しみに歪む。彼女の手は、爪が食い込むほどに握りしめられていた。
***
翌日、葉子は碧高とともに瑞祥家の大きな庭にいた。巫女の力を使う稽古のためだ。
昨夜、碧高の『瑞祥の巫女として生きてほしい』という申し入れを、葉子は受け入れた。だが、巫女の力は使いこなせなければ暴走してしまう。
葉子はまだ、自分の力を操れない。だからこそ、稽古は必須だ。
「心を落ち着け、集中するんだ。昨夜教えた祝詞を、ゆっくりと唱えてごらん」
碧高の言葉に、ギーグを抱いた葉子はそっと祝詞を唱えた。しかし、葉子の玉もギーグの体もなにも変化を起こさず、その術でできるはずの土の壁も、現れる気配がない。
思わずため息をついたが、碧高はそんな葉子の頭を優しく撫でた。
「最初からうまくできる人なんていないよ。君も幼い頃は、そうだったろう?」
幼い頃のことなんて、覚えていない。華子と同等に祝詞を操り、術を使いこなしていたあの日ばかりが脳裏に思い浮かんだ。
拳を握ると、腕の中でギーグが「ぐえっ」と鳴いた。
「ごめんなさい、ギーグ。苦しかったわね」
慌ててそう言ったけれど、ギーグは「ぐえっ、ぐえっ」と鳴き続ける。
そのまま羽をばたつかせ、葉子が力を抜いた一瞬の隙をついて、彼女の腕から逃げ出してしまった。
「ギーグ……」
葉子はギーグを追いかけられなかった。
〝このくらいもできないなんて、稽古なんか辞めちまえ〟
そう言われた気がしたのだ。
「ギーグを探してくるよ」
肩を落とす葉子に、碧高はそっとそう告げて、ギーグを追いかけ行ってしまった。
(私はなんて弱いのだろう)
葉子はギーグの離れていった両腕を開き、その手のひらを見つめた。
徐々に視界がぼやけたけれど、泣いていても仕方ないとため息に変えてすべて吐き出した。
華子の声が、母屋に響く。任務を失敗した、刺客のせいだ。せっかく雇ったのに、使えないなんて馬鹿馬鹿しい。
華子はひどく立腹していた。碧高は玉を割られ才を失うどころか、再び葉子を助けたという。
(瑞祥は跡取りがないことを危惧しているから、お姉様は守られて当然ということかしら)
それにしても、憎いのは葉子だ。自分の命に背き、玉を割らなかった。
葉子の心変わりがあるなら、彼女ごと消し去るのみだ。だがそのためには、再び頭を働かせなければならない。華子はそれで、余計に苛立つ。
だけど、しなければならない。自分が一番になるために。この帝都を、自分のものにするために。
「才なしのくせに」
華子はぽつりと呟くが、その瞳は憎しみに歪む。彼女の手は、爪が食い込むほどに握りしめられていた。
***
翌日、葉子は碧高とともに瑞祥家の大きな庭にいた。巫女の力を使う稽古のためだ。
昨夜、碧高の『瑞祥の巫女として生きてほしい』という申し入れを、葉子は受け入れた。だが、巫女の力は使いこなせなければ暴走してしまう。
葉子はまだ、自分の力を操れない。だからこそ、稽古は必須だ。
「心を落ち着け、集中するんだ。昨夜教えた祝詞を、ゆっくりと唱えてごらん」
碧高の言葉に、ギーグを抱いた葉子はそっと祝詞を唱えた。しかし、葉子の玉もギーグの体もなにも変化を起こさず、その術でできるはずの土の壁も、現れる気配がない。
思わずため息をついたが、碧高はそんな葉子の頭を優しく撫でた。
「最初からうまくできる人なんていないよ。君も幼い頃は、そうだったろう?」
幼い頃のことなんて、覚えていない。華子と同等に祝詞を操り、術を使いこなしていたあの日ばかりが脳裏に思い浮かんだ。
拳を握ると、腕の中でギーグが「ぐえっ」と鳴いた。
「ごめんなさい、ギーグ。苦しかったわね」
慌ててそう言ったけれど、ギーグは「ぐえっ、ぐえっ」と鳴き続ける。
そのまま羽をばたつかせ、葉子が力を抜いた一瞬の隙をついて、彼女の腕から逃げ出してしまった。
「ギーグ……」
葉子はギーグを追いかけられなかった。
〝このくらいもできないなんて、稽古なんか辞めちまえ〟
そう言われた気がしたのだ。
「ギーグを探してくるよ」
肩を落とす葉子に、碧高はそっとそう告げて、ギーグを追いかけ行ってしまった。
(私はなんて弱いのだろう)
葉子はギーグの離れていった両腕を開き、その手のひらを見つめた。
徐々に視界がぼやけたけれど、泣いていても仕方ないとため息に変えてすべて吐き出した。



