凛や菫さんたちが噂を広めたのか分かりませんが、椛田の家が女子を軟禁して育てていたことと、嫁入りしたその女子を攫って監禁し、非道な行いをしたとして、街では噂になりました。その者が涙が宝石に変わる病を持っていたことと、土地神の元に嫁入りしたことは噂になりませんでしたので、椛田の家を陥れるためだけの噂のようです。椛田の宝石屋の売り上げは急速に落ち、出歩くたびに石を投げられるようになったために、彼らはこの街から出ていくことを余儀なくされたようで、椛田の宝石屋はすぐに空っぽになりました。
 英介たちが今どうしているかは、わたくしには分かりません。知ろうとも思いません。ですが、わたくしとはもう関わりのないところで、平穏に生きてほしいと願ってしまうのでした。

「翠子様のお優しいこと。私は生家と縁を切りました。旦那だったあれも叩いてやりたいのに、姿をくらましてしまうのですもの」

 凛は恨めしそうに呟きましたが、わたくしに白無垢を着せる手は優しく、思わずふふと笑ってしまいます。

「もう、そうやって笑ってしまうのですから。心配です」
「でも、ずっと一緒にいてくれるのでしょう?」
「それはもちろんですが」

 凛と微笑みあっていると、料理の準備で走り回っていたはずのうめさんが、部屋に入ってきて「わぁ」と呟きます。

「お美しいです、奥様」

 奥様、と言われるのはまだ慣れず、はにかんでしまいます。しかし桜燐様とわたくしが正式に結ばれることが嬉しくて、たまらなくなりました。

 やがて支度のできた桜燐様が部屋に入ってきて、お互いに、お互いの美しさにほうと息を吐きます。

 彼と手を取り、結婚式を行うために歩き出します。式には桜庭の者たちだけでなく、菫さんとお義母様も来てくれています。皆に祝われて彼と結ばれるのは、とても幸せなことだと思いました。

「わたくし、旦那様に出会えて良かったです」
「俺もだ」

 二人の指には、お互いに渡し合った指輪が輝いています。そのきらめきにそっと目を細めて、わたくしは彼を見つめました。

「わたくしが朽ちる時まで、あなたをひとりにしないと誓います」
「お前を必ず幸せにする。誓おう」
「あら、わたくし、今が一番幸せなのに。これ以上幸せにしてくださるのですか?」
「もちろんだ」

 うれしい。そう呟けば、彼はそっと微笑みました。
 苦い過去が削ぎ落され、座敷童からわたくしは一人の人間に生まれ変わります。わたくしをひとに変えてくれた彼を、これからもずっと、大切にしていきたいと思いました。

(完)