4月8日(月)午前11時30分。
新学期の始業式とガイダンスを終えた桜丘高校では、生徒たちがぞろぞろと各自のホームルーム教室へと戻っていた。
2年C組。
窓際の席に座った朔太郎は、腕を組んでやや不機嫌そうに天井を見上げていた。周囲が新クラスメイトとの雑談に花を咲かせる中、彼はひとり無言だった。
(どこ行った、あの子……)
朝の堤防で全力並走した少女の姿が、未だに頭から離れない。名前も知らず、校章も見えなかった。でも、走り方は忘れようがなかった。あのフォームは、数字では語れないものを持っていた。
「はい注目〜」
教壇に上がった担任が、無造作にマイク付きのネックストラップをつけた。少し癖のある髪と無精ひげ、着崩したジャケット——生物担当の葛原先生は、今年からこのクラスを受け持つらしい。
「今日から君たちは、〈探究複合ゼミ〉という新しい制度に巻き込まれることになりました〜。ではさっそくスライド、ポン!」
教室の電子黒板が明るくなり、タイトルが現れる。
> 探究複合ゼミ:個人評価制
> ――「学力」「創造」「貢献」の3分野で、得点を競え!
「……え?」
クラス中が、ざわつく。
葛原先生は悪びれもせず続けた。
「学力はテストや課題点。創造は自由研究とか制作物、プレゼンとか。貢献はボランティア活動、発表会、運営補助など。で、この三分野の合計得点を、学期末に集計します。上位三名には——こちら!」
> ◇希望する研究機材の使用権
> ◇ゼミ室の個人ブース占有
> ◇対外発表・大会推薦枠の優先権
「まじで?」
「推薦とか……ガチ勢の制度じゃん……」
クラス中の声が揺れる中、朔太郎の中で明確な“火”が点いた。
(よし。勝てば手に入る。だったら、俺は一位になるしかない)
そしてそのとき、教室のドアが静かに開いた。
「失礼します。転入生、連れてきました」
教務主任が連れてきたのは——あの少女だった。
涼しい顔で一礼し、静かに名乗る。
「——春日莉音です。よろしくお願いします」
瞬間、朔太郎の脳内にスパークが走った。
(マジか。お前、うちのクラスかよ)
まだ息を呑んだままの朔太郎とは対照的に、莉音は空席に目を走らせ、静かに最前列の窓際席へと向かった。朔太郎の3列前だった。
朔太郎は思わず椅子に背中を打ちつけた。
(転入生って、あいつだったのかよ……)
あの朝、堤防を走った少女。計算づくのようなフォームで自分を追い、最後はわずかに敗れて、それでも静かに結果を認めた。その彼女が、まさか同じクラスに転入してくるなんて。
「じゃ、春日さんは……ここ。最前列の一番窓際。三条、後で校内案内してあげて」
「あ、はい!」
呼ばれた女子——三条裕美子はぱっと手を挙げ、明るい笑顔で莉音に話しかける。
「よろしくね、春日さん。私、プラネタリウム班やってるの。天文とか興味ある?」
「……ちょっとだけ」
莉音は口調こそ控えめだが、あくまで自分のリズムを崩さない。まっすぐな姿勢で席につき、荷物を丁寧に机に収めていく。
その整然とした動作に、朔太郎はつい見入ってしまう。
(なんだこいつ……さっきまで並走してた人間と、全然違うみたいじゃん)
そして再び担任の葛原が、わざとらしく咳払いをして場を戻した。
「えー、では探究ゼミ、これからのルールをもうちょっとだけ説明しますね〜。資料配りまーす」
助手のノエルが数枚ずつプリントを配っていく。金髪のハーフらしい容姿に、女子の視線が集中するが、彼はまったく気にせず無言で業務をこなす。
プリントの見出しには、大きくこう書かれていた。
> ◇得点配分(学力40:創造30:貢献30)
> ◇ゼミ評価期間:4月〜7月
> ◇上位者インタビュー:学校サイト掲載予定
「SNSでバズらせたいとかいうヤツ、甘くないからな。中身重視。数字と成果がすべてだぞ」
その言葉に、数人が息を呑む。
「じゃ、以上。午後はさっそくグループ決めと、目標設定ね。仲良く、でも競い合って!」
教卓から離れたその瞬間、朔太郎は前の席の机をつついた。
「おい」
莉音が、振り返る。
「……え?」
「朝のこと、忘れてねぇよな。今度は“得点”で勝負だ」
彼女は、ほんの少しだけ、目を見開いた。それから、まるであらかじめ計算されていたかのように、静かに笑った。
「うん、いいよ。ルールがある方が、やりがいあるから」
——それは、明らかに“ライバル”としての回答だった。
教室はまだ春の陽気に包まれていたが、その一角だけ、火花が見えたような気がした。
昼休み。教室内は、弁当の包みを広げる音と、お喋りの声でにぎやかだった。
朔太郎は購買の焼きそばパンを片手に、後ろの窓際に腰かけていた。パンの包みを開いたまま、ほとんど手はつけず、視線だけを前方に向けている。
——春日莉音。
彼女は昼も席を立たず、手帳とノートパソコンを開いて何やら打ち込んでいた。弁当箱らしきものは机にあるが、明らかに“食事”より“計算”を優先している様子。
(まじで、全部“数字”で考えてんだな……)
それが、朔太郎には少しだけ歯がゆかった。
走りも計算、競争も計算。勝ち負けを認める基準すら、きっと確率とグラフで測ってる。
「三枝、これお前の席なー」
突然、背中を軽く叩かれた。竜輝だった。
大柄で明るい笑顔。部活でもプライベートでもやたら人の話を聞きたがる、“お節介の権化”である。
「なんでお前、そんなにあの子見てんの?」
「見てねぇし。さっき、ちょっと勝負しただけ」
「勝負? ……ああ、噂になってたな。堤防で朝から全力疾走してた変なカップル」
「カ、カップルじゃねえ!」
朔太郎が身を乗り出す。声が少し大きかった。
その瞬間——前方でノートをめくっていた莉音が、ちらりとこちらを見た。
冷静な目。けれど、それは観察ではなく、確認のようだった。
(聞こえてたか……)
朔太郎が目をそらすと、竜輝はくすくす笑った。
「ま、いいけどさ。で、お前ゼミ、何で稼ぐ気?」
「走る。テストもそこそこ、でも得意な土俵で点獲る。それが一番だろ」
「まーた短期集中タイプだな。俺は逆だね。誰が上に行くか、じっくり読んで、勝てそうなやつに乗る」
「他力本願じゃねぇか」
「違うって。勝たせて、自分も得する。いわば相乗効果? ……たとえば、だ。春日さんがテストで学力トップ取るとする。そのデータ、共有してもらえたら?」
「……お前、もう“期待”してんのかよ」
「だって、転入初日であの空気感だぜ? あの子、きっと何か持ってるよ」
竜輝は自分の唐揚げパンをかじりながら笑う。
だが、朔太郎の脳裏には、莉音の“勝負の受け答え”が浮かんでいた。
「うん、いいよ。ルールがある方が、やりがいあるから」
勝ち負けでなく、ルールを読む側。枠組みそのものを理解して、最適な勝ち方を探す。それは、朔太郎が最も苦手とするスタイルだった。
だからこそ、負けたくない。
——ただ速く走るだけじゃ、あの子には勝てない。
昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴った。
再び担任の葛原が入室し、黒板の前に立つ。
「さ、午後はグループ行動の練習。まずは“得点目標”と“活動方針”を各自書いて、近くの席で話し合って〜」
クラス内に微妙な空気が流れる。まだお互いをよく知らない状態でのグループ作業。早くも居心地の悪さを感じてか、数名が目配せを始める。
朔太郎は、莉音の背中を見ていた。
彼女は、手帳を閉じてプリントに目を通し、そのままペンを取った。数秒の思考時間のあと、迷いなく文字を記入していく。
(速い。……もう方針、決まってるのか?)
朔太郎も負けじと、空欄に走り書きする。
> 【得点目標】90点以上(学期合計)
> 【方針】短距離トレーニング動画で創造点+、陸上部活動で貢献点も稼ぐ。テストは中の上。
「んー、ガチだね」
いつの間にか隣にいたノエルが、朔太郎のプリントをのぞいていた。細身の体格で、ノートPCと小型ドローンを持ち歩いている不思議な転校生。
「動画編集、得意?」
「撮るのは平気。編集は……勉強中」
「よかったら、空撮サポートするよ。うちのドローン、並走モードあるから」
「マジで?」
うなずくノエルに、朔太郎は軽く拳を合わせた。
(使える。こいつと組めば、創造点は伸ばせるかもしれない)
「はい、そこまで〜。じゃ、代表者、目標を読み上げてくれる?」
数名の手が上がる中、担任はランダムに指名した。
「春日さん、お願い」
莉音は少しだけ姿勢を正して、淡々と話し出す。
「得点目標は95点。学力で55点、創造で25点、貢献で15点を狙います。具体的には、数理研究課題を今月中にテーマ決定。既存文献を精査して、8月末までに学会形式に近いレポートを構成します」
教室中が静まり返った。
「それ、もう大学レベルじゃ……」
「ガチすぎ……」
ざわつく声の中、莉音は動じずに続けた。
「ゼミの設計上、初期投資として分析フェーズに集中すれば、後期に得点効率が上がると考えています。予備データは自宅で整理済みです」
担任がうなるように言う。
「こりゃ期待の新人来たな〜。……で、誰かこの子と張り合えるヤツ、いる?」
言葉が、教室の空気を凍らせた。
その瞬間、朔太郎が机を強く叩いた。
「俺だ」
全員が振り向いた。莉音も、ゆっくりと顔を上げる。
「今の目標点、越えてやる。学力じゃなく、総合でな。最後に勝つのは……努力とスピードだって、見せてやる」
莉音の口元が、かすかに動いた。
「なら、期待してる。……でも、数字は嘘つかないから」
その言葉が、朔太郎の胸に静かに突き刺さった。
勝負は、始まったばかり。だがすでに、彼らの心は“対等なライバル”として結びつき始めていた。
【第2章 完】
新学期の始業式とガイダンスを終えた桜丘高校では、生徒たちがぞろぞろと各自のホームルーム教室へと戻っていた。
2年C組。
窓際の席に座った朔太郎は、腕を組んでやや不機嫌そうに天井を見上げていた。周囲が新クラスメイトとの雑談に花を咲かせる中、彼はひとり無言だった。
(どこ行った、あの子……)
朝の堤防で全力並走した少女の姿が、未だに頭から離れない。名前も知らず、校章も見えなかった。でも、走り方は忘れようがなかった。あのフォームは、数字では語れないものを持っていた。
「はい注目〜」
教壇に上がった担任が、無造作にマイク付きのネックストラップをつけた。少し癖のある髪と無精ひげ、着崩したジャケット——生物担当の葛原先生は、今年からこのクラスを受け持つらしい。
「今日から君たちは、〈探究複合ゼミ〉という新しい制度に巻き込まれることになりました〜。ではさっそくスライド、ポン!」
教室の電子黒板が明るくなり、タイトルが現れる。
> 探究複合ゼミ:個人評価制
> ――「学力」「創造」「貢献」の3分野で、得点を競え!
「……え?」
クラス中が、ざわつく。
葛原先生は悪びれもせず続けた。
「学力はテストや課題点。創造は自由研究とか制作物、プレゼンとか。貢献はボランティア活動、発表会、運営補助など。で、この三分野の合計得点を、学期末に集計します。上位三名には——こちら!」
> ◇希望する研究機材の使用権
> ◇ゼミ室の個人ブース占有
> ◇対外発表・大会推薦枠の優先権
「まじで?」
「推薦とか……ガチ勢の制度じゃん……」
クラス中の声が揺れる中、朔太郎の中で明確な“火”が点いた。
(よし。勝てば手に入る。だったら、俺は一位になるしかない)
そしてそのとき、教室のドアが静かに開いた。
「失礼します。転入生、連れてきました」
教務主任が連れてきたのは——あの少女だった。
涼しい顔で一礼し、静かに名乗る。
「——春日莉音です。よろしくお願いします」
瞬間、朔太郎の脳内にスパークが走った。
(マジか。お前、うちのクラスかよ)
まだ息を呑んだままの朔太郎とは対照的に、莉音は空席に目を走らせ、静かに最前列の窓際席へと向かった。朔太郎の3列前だった。
朔太郎は思わず椅子に背中を打ちつけた。
(転入生って、あいつだったのかよ……)
あの朝、堤防を走った少女。計算づくのようなフォームで自分を追い、最後はわずかに敗れて、それでも静かに結果を認めた。その彼女が、まさか同じクラスに転入してくるなんて。
「じゃ、春日さんは……ここ。最前列の一番窓際。三条、後で校内案内してあげて」
「あ、はい!」
呼ばれた女子——三条裕美子はぱっと手を挙げ、明るい笑顔で莉音に話しかける。
「よろしくね、春日さん。私、プラネタリウム班やってるの。天文とか興味ある?」
「……ちょっとだけ」
莉音は口調こそ控えめだが、あくまで自分のリズムを崩さない。まっすぐな姿勢で席につき、荷物を丁寧に机に収めていく。
その整然とした動作に、朔太郎はつい見入ってしまう。
(なんだこいつ……さっきまで並走してた人間と、全然違うみたいじゃん)
そして再び担任の葛原が、わざとらしく咳払いをして場を戻した。
「えー、では探究ゼミ、これからのルールをもうちょっとだけ説明しますね〜。資料配りまーす」
助手のノエルが数枚ずつプリントを配っていく。金髪のハーフらしい容姿に、女子の視線が集中するが、彼はまったく気にせず無言で業務をこなす。
プリントの見出しには、大きくこう書かれていた。
> ◇得点配分(学力40:創造30:貢献30)
> ◇ゼミ評価期間:4月〜7月
> ◇上位者インタビュー:学校サイト掲載予定
「SNSでバズらせたいとかいうヤツ、甘くないからな。中身重視。数字と成果がすべてだぞ」
その言葉に、数人が息を呑む。
「じゃ、以上。午後はさっそくグループ決めと、目標設定ね。仲良く、でも競い合って!」
教卓から離れたその瞬間、朔太郎は前の席の机をつついた。
「おい」
莉音が、振り返る。
「……え?」
「朝のこと、忘れてねぇよな。今度は“得点”で勝負だ」
彼女は、ほんの少しだけ、目を見開いた。それから、まるであらかじめ計算されていたかのように、静かに笑った。
「うん、いいよ。ルールがある方が、やりがいあるから」
——それは、明らかに“ライバル”としての回答だった。
教室はまだ春の陽気に包まれていたが、その一角だけ、火花が見えたような気がした。
昼休み。教室内は、弁当の包みを広げる音と、お喋りの声でにぎやかだった。
朔太郎は購買の焼きそばパンを片手に、後ろの窓際に腰かけていた。パンの包みを開いたまま、ほとんど手はつけず、視線だけを前方に向けている。
——春日莉音。
彼女は昼も席を立たず、手帳とノートパソコンを開いて何やら打ち込んでいた。弁当箱らしきものは机にあるが、明らかに“食事”より“計算”を優先している様子。
(まじで、全部“数字”で考えてんだな……)
それが、朔太郎には少しだけ歯がゆかった。
走りも計算、競争も計算。勝ち負けを認める基準すら、きっと確率とグラフで測ってる。
「三枝、これお前の席なー」
突然、背中を軽く叩かれた。竜輝だった。
大柄で明るい笑顔。部活でもプライベートでもやたら人の話を聞きたがる、“お節介の権化”である。
「なんでお前、そんなにあの子見てんの?」
「見てねぇし。さっき、ちょっと勝負しただけ」
「勝負? ……ああ、噂になってたな。堤防で朝から全力疾走してた変なカップル」
「カ、カップルじゃねえ!」
朔太郎が身を乗り出す。声が少し大きかった。
その瞬間——前方でノートをめくっていた莉音が、ちらりとこちらを見た。
冷静な目。けれど、それは観察ではなく、確認のようだった。
(聞こえてたか……)
朔太郎が目をそらすと、竜輝はくすくす笑った。
「ま、いいけどさ。で、お前ゼミ、何で稼ぐ気?」
「走る。テストもそこそこ、でも得意な土俵で点獲る。それが一番だろ」
「まーた短期集中タイプだな。俺は逆だね。誰が上に行くか、じっくり読んで、勝てそうなやつに乗る」
「他力本願じゃねぇか」
「違うって。勝たせて、自分も得する。いわば相乗効果? ……たとえば、だ。春日さんがテストで学力トップ取るとする。そのデータ、共有してもらえたら?」
「……お前、もう“期待”してんのかよ」
「だって、転入初日であの空気感だぜ? あの子、きっと何か持ってるよ」
竜輝は自分の唐揚げパンをかじりながら笑う。
だが、朔太郎の脳裏には、莉音の“勝負の受け答え”が浮かんでいた。
「うん、いいよ。ルールがある方が、やりがいあるから」
勝ち負けでなく、ルールを読む側。枠組みそのものを理解して、最適な勝ち方を探す。それは、朔太郎が最も苦手とするスタイルだった。
だからこそ、負けたくない。
——ただ速く走るだけじゃ、あの子には勝てない。
昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴った。
再び担任の葛原が入室し、黒板の前に立つ。
「さ、午後はグループ行動の練習。まずは“得点目標”と“活動方針”を各自書いて、近くの席で話し合って〜」
クラス内に微妙な空気が流れる。まだお互いをよく知らない状態でのグループ作業。早くも居心地の悪さを感じてか、数名が目配せを始める。
朔太郎は、莉音の背中を見ていた。
彼女は、手帳を閉じてプリントに目を通し、そのままペンを取った。数秒の思考時間のあと、迷いなく文字を記入していく。
(速い。……もう方針、決まってるのか?)
朔太郎も負けじと、空欄に走り書きする。
> 【得点目標】90点以上(学期合計)
> 【方針】短距離トレーニング動画で創造点+、陸上部活動で貢献点も稼ぐ。テストは中の上。
「んー、ガチだね」
いつの間にか隣にいたノエルが、朔太郎のプリントをのぞいていた。細身の体格で、ノートPCと小型ドローンを持ち歩いている不思議な転校生。
「動画編集、得意?」
「撮るのは平気。編集は……勉強中」
「よかったら、空撮サポートするよ。うちのドローン、並走モードあるから」
「マジで?」
うなずくノエルに、朔太郎は軽く拳を合わせた。
(使える。こいつと組めば、創造点は伸ばせるかもしれない)
「はい、そこまで〜。じゃ、代表者、目標を読み上げてくれる?」
数名の手が上がる中、担任はランダムに指名した。
「春日さん、お願い」
莉音は少しだけ姿勢を正して、淡々と話し出す。
「得点目標は95点。学力で55点、創造で25点、貢献で15点を狙います。具体的には、数理研究課題を今月中にテーマ決定。既存文献を精査して、8月末までに学会形式に近いレポートを構成します」
教室中が静まり返った。
「それ、もう大学レベルじゃ……」
「ガチすぎ……」
ざわつく声の中、莉音は動じずに続けた。
「ゼミの設計上、初期投資として分析フェーズに集中すれば、後期に得点効率が上がると考えています。予備データは自宅で整理済みです」
担任がうなるように言う。
「こりゃ期待の新人来たな〜。……で、誰かこの子と張り合えるヤツ、いる?」
言葉が、教室の空気を凍らせた。
その瞬間、朔太郎が机を強く叩いた。
「俺だ」
全員が振り向いた。莉音も、ゆっくりと顔を上げる。
「今の目標点、越えてやる。学力じゃなく、総合でな。最後に勝つのは……努力とスピードだって、見せてやる」
莉音の口元が、かすかに動いた。
「なら、期待してる。……でも、数字は嘘つかないから」
その言葉が、朔太郎の胸に静かに突き刺さった。
勝負は、始まったばかり。だがすでに、彼らの心は“対等なライバル”として結びつき始めていた。
【第2章 完】

