ひばり「鷲男…⁉ アンタ、裏切ったのね!」
鷲男「オ、オイラはひばりちゃんのことがすすす、好きなんだ!」

 〇鷲男に抱きしめられるひばり。
 ◯ひばりは首から血を流しながら身をよじって鷲男から逃れようとするが、抜け出せない。

鷲男「だ、だからひばりちゃんにはこれ以上、イジメはさせない。」
ひばり「クッ、どうなってるんだい⁉ 物の怪の力を宿したわっちに人間の力なんて及ばないはずじゃ…。」

 〇パニックになるひばり。
 〇鷹次郎碧い目が光り、鷲男を分析する。

鷹次郎「この男からはつぐみと同じ力を感じる。それが物の怪を宿しているのと同等の力を与えているんだ。」
おつる「アハハ、ひばりめ! いい気味だよッ‼」

 ○その刹那、滅んだと思われたおつるの頭がひばりに襲いかかる。
 〇おつるの顎がひばりの首を捥いでから鷲男の腹に攻撃をして腹に穴を開ける。
 ◯おつるの首がひばりの胴体に寄生する。

おつる「ひばりィィ、憎い阪本を倒すために協力しようじゃないか…アンタの体はわっちがいただくよ!」

 ○首だけになったひばりが目を見開いて絶叫する。

ひばり「イヤァァ…!!」
鷲男「ひばりちゃん、オ、オイラ一度だけ…。」

 〇鷲男が切なそうにひばりを見つめる。

鷲男「ひばりちゃんとぼんぼり通りを歩きたかったなぁ…。」


 ♢

つぐみ「お姉さま、鷲男さん!」

 ○鷹次郎の制止を振り切って二人の側にしゃがみ込むつぐみ。

おつる「アンタから喰らってやるよ‼」

 〇ひばりの胴体に寄生したおつるが背後からつぐみに襲いかかる。
 ◯直前に鷹次郎が結界を張るが、一瞬で壊される。

鷹次郎「ッ…!」

 ◯結界を壊された衝撃波で吹っ飛んだ鷹次郎は、ひばりの首の側に着地する。
 ◯ひばりの首が鷹次郎に話しかける。

ひばり「い、愛しくて憎い鷹次郎さん…。最後だけは、わっちの頼みを聞いてくれないかい?」

 〇ひばりの目が反転し、血の涙を流した。
 〇鷹次郎が頷き、ひばりの頭に呪文が描かれた半紙を貼る。
 〇ひばりの頭が宙に浮かんだ。

つぐみ「お姉さま…!」 

 〇ひばりはつぐみを振り返ると力なく微笑んだ。

ひばり「つぐみを…妹を頼んだよ。」
つぐみ「いや、お姉さまァァァー!!」

 〇ひばりの首は一直線に飛び、ひばりの胴体に収まったおつるの首もとを捉えて嚙み切った。
 
おつる「おのれひばり、血迷ったか!?」

 〇再び首だけになったおつるが断面から血しぶきを上げて叫ぶ。

ひばり「おつる姐さん、鏡をよく見てご覧よ。お互いにもう、この世には馴染まない体じゃないか。
 それならいっそ、地獄に道連れよ!」

 〇おつるが恐ろしい咆哮を上げてひばりの頭を蹴散らし粉々にする。
 〇その背後から鷹次郎が光を放つ霊剣を振るい、おつるの動きを止めた。

おつる「またしても阪本め…! 呪う、呪うぞ末代までな…‼」
鷹次郎「元より先祖代々呪われた陰陽師の家系だ。私も遠からず地獄に落ちよう。」

 〇鷹次郎の剣が光の刃となりおつるの頭を縦方向に切り裂く。
 〇おつるは恐ろしい断末魔を上げて紙吹雪になる。
 〇ひばりの粉々になった頭も紙吹雪になって消え、鷲男の体を包み込む。

つぐみ「鷲男さん。」

 ◯つぐみが虫の息で倒れている鷲男に駆け寄り、頭を膝に乗せる。
 ◯鷲男が息も絶え絶えにつぐみに口を開く。

鷲男「つ、つぐみちゃんにも聞こえた? 今、ひばりちゃんが『来世で添い遂げようね』って耳元で言ってくれたんだ。」
つぐみ「分かったからもう喋らないで。鷹次郎さま、鷲男さんを助けてください!」
鷲男「もういいんだ。オイラ、ひばりちゃんを追いかけなきゃならないから、このままにしておいて。」
つぐみ「そんなのダメよ、お願いだから…。」

 ◯つぐみの膝から転がり落ち、鷹次郎を指さす鷲男。

鷲男「さ、阪本。、つぐみちゃんを幸せにしてくれ。とってもいい子なんだ…。」

 ◯眼鏡の奥の眼光を和らげてそっぽを向く鷹次郎。

鷹次郎「言われなくてもそうするつもりだ。」
鷲男「オ、オイラは、やっぱり嫌いだよ。阪本…。」
つぐみ「鷲男さん! 鷹次郎さまお願いです、鷲男さんを助けて! 私のたった一人のお友だちなの…!」
鷹次郎「つぐみ、本当は分かってるでしょう? 鷲男はもう医学の力では助からない。」
つぐみ「そんな…。」
鷲男「あ…眠く…なっちゃ…。」

 〇息絶えた鷲男の胸で泣くつぐみ。
 〇鷹次郎は片手で印を結んでつぐみに手を差し伸べる。

鷹次郎「さぁつぐみ、鷲男が道に迷わずひばりの元に逝けるように、おまへさんの力を貸しておくれ。」
つぐみ「どうやって?」
鷹次郎「私と手を繋いで。」

 〇つぐみが鷹次郎と手を繋ぐと鷹次郎の力が増幅されて鷲男がふわりと宙に浮く。
 〇二人の手の間から光が飛散して、空までの光の道が開ける。

 ♢

 〇東雲の空の下、肩を寄せて大門に向かってぼんぼり通り歩く鷲男とひばりの幽体。
 〇大門近くの遊郭の出入り口を箒で掃いていた禿の遊女が羨ましそうに見つめる。

禿の遊女「いいなぁ。いつか私もあの二人のようにぼんぼり通りを歩きたい。」

 〇明け方の金色の光がまばゆく地上を照らす頃、幽体となった鷲男とひばり二人の姿は、地平線の彼方へと消えて行った。

 ♢

 ◯中鈴屋の門の前。
 ◯自分の荷物を風呂敷包みに入れて背負おうとするつぐみ。
 ◯鷹次郎がその包みを手に持つ。

鷹次郎「わが背子は物な思ひそ事しあらば…」
つぐみ「火にも水にもわれなけなくに」

 鷹次郎から荷物を取り戻し、背負うつぐみ。

つぐみ「私は虐げられることで、ずっと中鈴屋やひばり姉さまや鷲男さんに依存して生きてきたんです。
 でも、これからはひとりで歩いていけます。」

 ◯つぐみの瞳に強い意志が宿る。

つぐみ「ぜんぶ、鷹次郎さまのおかげです。」
鷹次郎「これからはひとりじゃない。」

 ◯鷹次郎はクスクスと笑ってつぐみの頭に手を乗せた。

鷹次郎「いつまでも、私の隣にいてくれ。」

 ◯顏を赤らめて何度も頷くつぐみ。
 ◯中鈴屋の門の前の桜の木から花びらが舞い落ちて二人の足元を彩る。
 ◯鷹次郎が絨毯のようになった地面を見つめる。

鷹次郎「いつだったかおまへさん、桜の花は散っても地面を彩ると言っていたな。」

 ◯鷹次郎がポツリと呟く。

つぐみ(覚えてらっしゃったのね!)

 ◯即座につぐみが反応した。

つぐみ「散ってもなお、桃色が褪せることはありません。」
鷹次郎「今でも、そう思っているか?」

 ◯つぐみはとびきりの笑顔で返事をした。

つぐみ「はい! この先何が起ころうとも、鷹次郎さまへの気持ちは色褪せることはありません。」

◯鷹次郎が柔らかく微笑み手を差し出す。

鷹次郎「共に行こう。」

◯桜の花びらがぼんぼり通りを埋め尽くし、その上をつぐみと鷹次郎が肩を寄せ合って歩いていく。

〈終〉