借り物競争は走りの速さは競ってない。書道部は背中に背負った白紙に字を書きながら走るし、サッカー部ならドリブルしながら、野球部ならスライディングしながらとその部活っぽい動きをしながら本部から生徒のいる応援席の前までやってくる。
 サッカー部はドリブルしながらだから比較的早めに応援席まで着いた。
 借り物競争だけは生徒会の仕切りなので、会長の持ってるギラギラの金色のボックスに先頭のバスケ部が手を突っ込んだ。

「えー! 青くて冷たいものとかなんだあ?!」

(結構抽象的な題材だなあ)

 大喜利的に面白ければ通すつもりなんだろう。次々と箱の中に手を突っ込んで、仲間のいる応援席に声を張り上げる。

「誰か! 紫の可愛いものもってませんか?」
「水筒! 水筒持ってる人!」
「20回回った後まっすぐ走れる人!」

(ゆるゆるだ)

  唯ものんびりと箱に手を突っ込んでる。何のお題を引くのか俺も興味津々だ。
 唯がお題の書かれた紙を読もうと、顔の前に持ってきたのと、その唯の腕をバレー部の部長ががしっと掴むのが、ほぼ同時だった。

「イケメン! 俺はイケメンが欲しい! サッカー部、頼む。貸してくれ!」
「北門はサッカー部のものだ! 渡さん!」

 唯を巡ってサッカー部とバレー部がぎゃいぎゃい争って、周りが大うけしている。
 会場が笑いとのんびりムードに包まれて、一体感のあるあったかい感じが心地いい。俺もけらけら笑いながらその様子を見守った。
 複雑そうな顔をしてる唯が面白い。なんとかバレー部の部長から腕を引っこ抜いて、お題の書かれた紙をポケットにしまう。

(なんて書かれてたんだろうな)

 唯は首を巡らせ、俺たち赤ブロックの方へと真っすぐ駆け寄ってきた。

(唯が出されたお題、俺が持ってるものならいいな。水筒、ハンドタオル、メガホンとか、ハチマキ、とか。みんなもってるか……)

 隣のブロックでは友達に運動靴を奪われたやつが椅子の上に立って腕を振り上げてはしゃいでる。

 そっちに気を取られていて、気が付きそびれた。真っすぐ正面を向いたら、もうすぐそこまで唯が走ってきていた。

「北門君!!!」
「きゃあああ、こっち来た!」
 
 すっかりアイドルみたいな扱いになっている北門に、クラスの女子はメガホンを鳴らして大喜びしてる。

(きゃああってまたうちのクラスの女子は毎日毎日、飽きもせずにきゃあきゃあって……)

「何か欲しいものあるのか?」

 唯の手が俺の目の前にぐっと差しだされる。犬がお手するみたいに、俺は反射的に掌に手を乗っけた。そしたらすごい勢いで、ぐっと手首を掴まれる。

「一緒に来て」
「はあああ???」