足の速さだけは、兄貴と互角に渡り合える自信がある。小学生からずっとリレーの選手だったし、陸上部に入ればいいのにって言われたこともある。
 だけどバスケが楽しかったから、その線は考えたこともなかった。
 去年もリレー選抜に選ばれたけど、部活をやめて数ヶ月たった身体がいつになく重たく感じた。
 これはまずいって思って、去年の体育祭から今まで筋トレは欠かさず、時間がある時はランニングしてる。基礎体力作りは怠ってない。
 その成果が、今出てる。
 予想通り、二周目を走っている先輩たちは少しずつ減速してきた。
 俺はその隙を見逃さない。まずは黄色、次は緑。翻る長羽織を次々に追い越した。
 耳をつんざくような悲鳴や歓声が巻き起こる。久々に試合中に似た、身体中の毛が立って血が沸き立つような興奮を覚える。
 もうじき最後のコーナー、俺の目は青羽織の背中を捉えた。

(逃がさん!)

 さらに加速して、コーナーも気を抜かずに走り切る。最後の直線になった。青ブロックの先輩はフォームが乱れてきた。ここで一気に仕掛ける。

(悪いな、唯。青ブロ撃破だ)
 
 白いテープを減速せずに一気に駆け抜ける。電子ホイッスルの音がかき消されるほど、多分今日一番の盛り上がりに会場が一体感に包まれる。
 俺は大分先まで駆け抜けたけど、仲間たちが後ろから追いかけてきた。

「燈真!」
「南澤君!」

 みんなが俺に飛びついて来たから、俺は両手を広げて片手は副団長、片手は二年の女子とと手をつなぐ。
「只今のブロック対抗リレー、1位赤 2位青 3位緑 4位黄色です」
「やったやった!」

 アナウンスを聞きながら勝利の雄叫びをあげて、俺たち赤ブロリレー選手は全員が手を繋いで輪っかになって、ぐるぐる回った。

 先生に促されて赤ブロックの応援席まで帰ってきたら、足を引きずり気味の団長が辿り着いて、俺の背中から抱き着いて頭をぐりぐりぐりって撫ぜまわされた。

「みんなみたか! 俺の目に狂いはなかった!」
「トーマ! 最高!」

 正直人生で一番名前を連呼されて祝福されたかもしれない。クラスメイトも次々と応援席から俺の元までやってきて、ハイタッチ&ハグ攻撃を受けた。
 調子に乗ったクラスのやつが俺を担ぎ上げてそのあと胴上げしようとしたから、女子が目くじらを立てて止めに来た。

「危ないでしょうが! おろしなさいって」
「だって、これで逆転優勝だろ、赤ブロ! 燈真のお陰じゃん」
「いや、俺のおかげじゃなくて総力戦で勝ち取ったやつだからな!」
「ま、どっちだっていいだろ! 勝てばいいんだ。勝てば!」

 俺は友達に肩車で担がれたまま、悔しそうに帰ってきた青ブロックの方をまたしてもチラ見した。
 唯がこっちを見てる。今度は俺の方からガッツポーズをしたけど、目をそらされた。

(あー、悔しかったか。ごめんな)