「まあ、ものすごく早い陸上部とか運動部のやつと交代とかじゃないなら、いいんじゃないか?」

 現在四位の黄ブロックの団長がそう後押しした。
 あとから知ったんだけど、黄ブロックの団長の彼女が赤ブロックの副団長で、彼女が困る姿をみすみす見逃せなかったんだと思う。

「みんながいいならいいにしよう。どうだあ?」

 青ブロックの団長が陽気に声を張り上げた。
 今年は関東大会まで行って善戦しているっていうバレー部の部員で、明るくて人気のある先輩だ。
 頷く先生たち、生徒たちも「いいよおー」と女子を中心に明るい声が響いた。
 みんなバチバチバチって応援用のブロックカラーのメガホンを頭の上で叩いてる。
 団長同士も目線を合わせて確認しあって、大きく頷きあう。

「で、誰に走ってもらうんだ?」

(ブロック対抗リレーと部活対抗借り物競争が終わったら、すぐに退場門に集まって、皆にゴミの回収に出てもらう。唯は部活の借り物競争も出るとか言ってたよなあ……。続けて大変だな。俺と唯とで退場門の横に立って、ペットボトルは中身を捨てて校舎のゴミ箱に捨ててもらうように声掛けをして……)

「2年7組、南澤燈真! アンカーとしてもう一度走って欲しい」

 俺はマイクを通して急に名前を呼ばれた。でも考え事をしていて、話しを半分しか聞いていなかったから、反応が遅れてしまう。

「南澤君!」

 2年女子のリレー選抜に声を掛けられてびっくりした。

「え? 俺?」

 団長以外の6人のリレーのメンバーは団長たちの横に整列していた。応援席からの視線が一斉に俺に降り注ぐ。

「誰だ。あの人」
「運動部、じゃないよね」
「リレー選だから早いんじゃね?」
「……本当に早いの?」

(おい、手前の一年! 聞こえてるからなあ!)

 赤ブロック団長はみんなに背中の牡丹と獅子を見せつけるように立つと、ばさっとマントを払うみたいに長羽織を広げた。

「燈真!」

(あー。それを着るのか……、恥ずかしいんだけど)

 団長に促されて、俺は前に進み出て、長羽織を差しだされた。

「受け取れ! 頼んだぞ!」
「あ、はい……」

 いかにも走りにくそうな裾の長い羽織だ。
 心の中では邪魔だなあと思ったけど、団長が満面の笑みを浮かべて渡してくるから受け取って羽織るしかない。

「ありがとうです。がんばります」

 代々伝わる、団長が着てきたというそれはちょっと赤が色あせてて、何となく古臭い感じがする。
 しかも団長の汗でしっとりしてる。ちょっとやだ……。
 そして俺はこんな時でも隣の青ブロックのリレー選抜に並んでた唯の姿を探してしまう。

(唯と俺、ガチで一緒に走ったらどっちが早いかな)

 なんて呑気に考えたら、クールなあいつが俺に向かって顔の横辺りまで腕を上げてガッツポーズを送ってくれた。
 それを見て体温がぎゅんって跳ね上がる。
 単純な俺は、唯の仕草一つで気持ちを全部持ってかれてしまうんだ。

(任されたからには、頑張ろう。うん)