青龍の華嫁 ~稀血の悪女~

皆が自分に注目している。
幸華は緊張で心臓がバクバクしていた。

「やあやあ皆の衆、今宵は青龍家へのご足労誠に感謝する」
「生誕会に参加してくれて感謝する。最後まで楽しんでいってくれ」

二人の言葉に拍手が起これば、次に史文は幸華の手を取り前に出る。

「それともう一つ。皆にこの場を借りて俺から報告したい事がある。この度、青龍家では新しく婚約者にしたい女性が見つかった。その女性こそが今俺の隣に立つ九頭龍幸華だ」
「え、わ、私⁈」

思わぬ報告に幸華は目を丸くする。
自分が婚約者に⁈そんなこと予想すらしていなかった。

『どういう事?青龍家には稀血の花嫁が居た筈…』
『既に稀血の幸舞様がいらっしゃると聞きましたが…』

周りはこの発表に騒然とすればあちこちで噂が飛び交う。

「静粛に!!」

雨龍がその場を制せば会場は一気に静かになる。

「俺は最愛の人を見つけた。だからハッキリさせておく。青龍家では稀血は娶らない。四神の青龍家が稀血に勝る花嫁を手に入れた。異論は認めない」

史文の強い言葉に辺りは息を吞んだ。
妖も神も一度手に入れたいと本能が思えばどこまでもそれに忠実。それが例え稀血の花嫁を蹴ることになったとしても。つまりはそれは四神の一族が人間への愛を認めた瞬間だった。

「幸華」

史文は幸華の名前を呼べば向き直る。

「いきなりで驚かせてしまってすまない。けどこの日の為に黙っていたんだ。俺は初めて会った日から幸華のことが好きだった」
「!史文様…」
「いきなり好きになれとは言わない。俺が幸華を好きな気持ちはずっと変わらない。だから願うことならどうか俺の婚約者になってくれないだろうか?」

こ、これって…プロポーズ??
側に控える源門を見ればニコニコ笑っていて兄も無言で頷いていた。

「…私は愛されていいの?幸せになっていいの?」

不義の子の自分が。
誰かに愛されてホントにいいのだろうか。

「ああ、もちろんだ。一生お前を大切にしよう」

優しい言葉に優しい声。
史文のそれら全てが幸華の心を刺激する。
差し出された手を取ろうと手を伸ばしかけた時だった。

「お待ち下さい!!」

会場には一つの声が響き渡った。
そこには顔を真っ赤に染めた幸舞と千鶴、後ろからは二人を止めようとする父親がいた。

「史文様、どうか考え直して!私は稀血の花嫁、私こそが貴方に愛される花嫁ですわ!」
「不義の子の分際で。青龍家に取り入るだなんて恥を知りなさい!」

彼女達の登場に会場はざわめいた。
だが次の瞬間、妖達が次々と倒れていく。
理由は単純、彼女から漂うのは何か強烈なまでにクラクラする…稀血の匂いがしていたからだ。

「私は稀血の花嫁なのよ。史文様、私だけを愛して。私を婚約者にして!!」

幸華の香水が史文の鼻を掠める。
段々と史文に近づいてくる幸舞に護衛達が動こうとするも稀血に酔って倒れてしまう。

「史文様!!幸舞、今すぐ史文様から離れろ!」

倫太郎の声にも聞く耳を持たず、幸舞はついに史文の目の前までやってくる。

「史文様」

幸舞が至近距離で史文を見つめる。

「ッ、幸舞嬢…」
「ふふ、どう?稀血の花嫁である私が欲しくてたまらないでしょ?やはり稀血には抗えない。史文様さえ頷いてくれれば、私は直ぐにでも貴方のものになって差し上げますわ♡」
「……ッ」
「もっとも~っと私に酔って。強く愛して。貴方は私のもの」

幸舞は史文の体に触れれば抱き締めた。
このままでは神力が暴走する。
若い神相手に稀血は毒すぎた。
気付いた時、幸華はその手を掴んでいた。

「史文様に近寄らないで!」
「!!幸華?」

その姿に史文は目を開いた。

「は?不義の子が穢わしい!触らないで!!」

手を振り払おうとされるも幸華は必死で掴み続けた。

「はあ?何なのよ!アンタのせいで私は悪役扱い。アンタのせいで…私に史文様を返して!」
「嫌…もう私はお姉ちゃん達の言いなりにはならない!!」
「不義の子が生意気言うんじゃないわよ!嫌い、嫌い嫌いアンタなんか大っ嫌い!!今日こそ潰してやる!二度と這い上がれないようにね!!」
「あ、」
「どいて邪魔よ!!」

幸舞は幸華を思いっきり突き飛ばす。

「幸華!!」

史文は駈け寄ろうとするも幸舞はさせないと更に強い匂いで対抗する。

「ぐっ、」
「さあ史文様?私を婚約者にすると誓って。不義の子なんかに騙されないで!貴方が愛していいのは私だけ。私は貴方に愛される花嫁。貴方が生涯愛するのはこの私だけなの!!」
「…はは」

誰もが絶望した中、史文は不意に立ち上がれば真っ正面から幸舞を見据える。幸舞は期待の籠った眼差しで史文を見つめた。

「言いたいことはそれだけか?」